「自分たちは戦争に巻き込まれることはない」という無意識は正しいのだろうか?

「自分たちは戦争に巻き込まれることはない」という無意識は正しいのだろうか?

日本は長らく戦争から遠ざかっているが、やがて日本も戦争に巻き込まれていくことがあっても不思議ではない。人類の歴史は戦争の歴史なのだから、次の戦争はかならずやってくる。日本人の「自分たちは戦争に巻き込まれることはない」という無意識は正しいのだろうか?(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

次の戦争はかならずやってくる

イスラエルとパレスチナ、ロシアとウクライナの戦争が2025年に入った今もなお続いている。今後も新しい戦争が次々と起こるだろう。いずれ、戦争は東南アジアや東アジアでも起こってくる。

日本は長らく戦争から遠ざかっているが、やがて日本も戦争に巻き込まれていくときがあっても不思議ではない。歴史は日本だけ平和を確約してくれているわけではない。人類の歴史は戦争の歴史なのだから、次の戦争はかならずやってくる。

国土を守り抜くことは人々の誇りと結びつき、そこに敵対者が迫れば、即座に闘争へ発展する。国家のアイデンティティは、その土地に染みついた歴史や文化の積み重ねに支えられる。

これを侵されることは、単なる「土地の奪い合い」を超えて、そこに生きる人々にとっての存在意義を否定されることと直結している。それが、人々を戦争に駆り立てる。アイデンティティは守らなければならないので否定してくる相手を抹殺する。

世界を俯瞰すると、資源の偏在と限られた土地の配分も対立に拍車をかけている。

石油などのエネルギー資源や重要鉱物をめぐる競争は激化し、複数の国が海洋権益や境界線付近の油田を狙って軍備を増強している。国際機関の調査によれば、グローバルな軍事支出は年間で数千億ドルを超える規模に達している。

領土紛争だけでなく、少数民族が多くの資源を有する地域に暮らしている場合、中央政府からの圧力が激化する事例もある。権力者は自国の利益を拡大しようと資源の掌握を進め、住民との摩擦を高める。

歴史を遡れば、同胞や血筋を要因に国境を引き直そうとする動きも繰り返され、国連が管理する紛争地域でも火種が絶えない。国際社会が境界を画定しようとしても、地中に眠る豊富な鉱物や水資源をめぐる思惑が衝突し、平和的解決が潰される事態が相次いできた。

イスラエルとパレスチナ、ロシアとウクライナの戦争が2025年に入った今もなお続いている。今後も新しい戦争が次々と起こるだろう。いずれ、戦争は東南アジアや東アジアでも起こってくる。

インターネットの闇で熱狂的に読み継がれてきたタイ歓楽街での出会いと別れのリアル。『ブラックアジア タイ編』はこちらから

信仰と文化の炎が燃やす対立

近年は、北極海の氷が後退するにつれ、新たに開けた航路や海底資源が国際的な利権争いの的になっている。最近、トランプ大統領がデンマークの自治領であるグリーンランドの領有獲得に意欲を示しているのだが、それも海底資源の確保が目的にある。

グリーンランドは、石炭、亜鉛、銅、鉄鋼などの豊富な天然資源を有しており、特にレアアース(希土類)などの鉱物資源が注目されている。大国による資源の奪い合いも、対立と衝突を引き起こすのだ。

しかし、戦争の動機は単に資源や領土だけに限らない。

宗教的対立や民族・文化の差異も戦争の火種を生み出す最大の要因のひとつだ。異なる信仰間の小さな摩擦が、集団心理と結びつくと一瞬で大規模な暴力へ転じる。人間は自らの神や教えを否定されることを許さない。

そこには個人の尊厳から共同体のアイデンティティまでが深く絡み、敵視の感情が凝縮されている。

古来、中東地域は宗教や文化の交差点となり、多様な宗教がそれぞれの聖地を守るために血で血を洗う争いを続けてきた。近代に入ってもパレスチナ問題をはじめとした領土と信仰が複雑に絡む紛争が解決に至らず、幾度となく戦火を引き起こしている。

政治的な動機が背景にあったとしても、宗教や民族の名を掲げれば、大義のもとに人を集めやすい。

メディアは多様化し、SNSを通じたプロパガンダが瞬時に広範囲へ拡散される時代となった。最近はイスラムの過激武装テロ組織も、世界中に散らばる支持者に向けて「自らの聖域が危機に瀕している」というメッセージを発すれば、テロが引き起こされるシステムができあがった。

テクノロジーが進化した結果、インターネットやメディアを通じた「敵視の拡散」が容易になり、新たな様式で対立が激化する時代に突入したのだ。ニューオリンズで起こった車の暴走テロは、まさにテロ思想の共鳴者がプロパガンダに影響されて起こされたものでもあった。

インターネットの闇で熱狂的に読み継がれてきたカンボジア売春地帯の闇、『ブラックアジア カンボジア編』はこちらから

戦争に駆り立てられていく10の理由

人類が戦争を引き起こす要因はひとつふたつではない。ざっと挙げても、以下の10の理由で人々は戦争に駆り立てられていく。

・限られた資源や領土をめぐる争いが戦争を引き起こす。
・異なる信仰間の対立が紛争の火種となり戦争を引き起こす。
・民族間の文化的背景の違いが対立を生み出し戦争を引き起こす。
・異なる政治信条が国家間の対立を引き起こし戦争となる。
・人口増加と食糧問題が深刻化することによって戦争となる。
・経済的な利益追求が国家間の対立を生み戦争を引き起こす。
・過去の戦争の遺恨が新たな戦争を引き起こす。
・一部の指導者の権力欲が戦争を引き起こす。
・国家間の信頼関係の欠如が対立を深め、戦争を引き起こす。
・戦争で利益を得る軍事産業が戦争を助長する。

世界はけっしてひとつになることはできない。人々は同質を好み、異質を嫌い、そこに緊張と対立が生まれるからだ。民族的差異は、まさに「わかりやすい異質」であるので対立と衝突を引き起こしやすい。

民族紛争は互いの文化を否定するだけでなく、集団虐殺や弾圧といった深刻な人道問題をも引き起こす。国連の報告では、数百万人規模の難民が民族対立によって住処を追われ続けている現実が示されている。

民族や宗教が入り乱れる地域ほど、政治的な合意が困難であり、停戦協定が結ばれても火種が残り続ける。その結果、古傷がふたたび開き、憎悪の連鎖を断ち切れない。

人々が守ろうとする精神的な拠り所が否定されれば、それに対する反発は加速度的に高まり、大義の名のもとに血が流される。この構図は数千年にわたる歴史を通じて繰り返されてきた。民族や文化の違いは、現実の戦渦を絶え間なく生み出している。

今までもそうだし、これからもそうだ。

人々が守ろうとする精神的な拠り所が否定されれば、それに対する反発は加速度的に高まり、大義の名のもとに血が流される。この構図は数千年にわたる歴史を通じて繰り返されてきた。民族や文化の違いは、現実の戦渦を絶え間なく生み出している。

1999年のカンボジアの売春地帯では何があったのか。実話を元に組み立てた小説、電子書籍『スワイパー1999』はこちらから

対立を煽るのは簡単だ

地球環境は悪化していく一方で、人類は加速度的に人口を増やしている。このふたつは食糧や資源の争奪を加速させる要因となる。隣国に食料や資源があったとき、それは戦争の火種と化す。

今後さらに人口が増えると農地の拡大や水資源の確保が追いつかず、干ばつや異常気象による食糧不足が発生しやすくなる。肥沃な土地や清潔な水を求め、移住や難民の流入が本格化する。そうなると、受け入れ先の国と軋轢も生まれる。

豊かな土地や物資を持つ国は、それを守ろうと軍事力を強化する。経済的に苦しい国は他国の援助を当てにして対抗するので、そこにまた対立と利害関係が発生していく。

さらに、資源確保や領土の利権には、そこに絡む大手企業や軍需産業の利益拡大の思惑も存在するので、事態はより複雑になる。巨大資本が関与する軍事ビジネスは年間数兆円規模の市場を形成している。

軍事産業も利益追求型の組織であり、継続的に利益を得る必要がある。そのためには、当然のことながら平和な状態よりも戦争がある状態のほうが都合がいい。

紛争地では武器の需要が増大し、輸出国は新型兵器の実験場を得る。その結果、軍需企業の株価は上昇し、投資家が莫大な利益を享受する。

現在、その最前線となっているのがイスラエルでありウクライナである。この両国は欧米の軍需産業にとっては、新しい兵器の実験場でもある。

この両国での戦争が終わっても、次が用意される。次の戦争を用意するのは簡単だ。その国と周辺国の歴史を刺激すればいい。

どこの国家も主に隣国と激しい戦争を過去に繰り広げてきた。そうした過去の遺恨は時間とともに薄れるわけではなく、賠償問題や領土問題が根底に残り続ける。こうした部分が刺激されれば、いとも簡単に戦争は引き起こされる。

結局、世界のどこかで停戦協定が結ばれても、別の場所では異なる形の争いが始まるようになっている。人間はその連鎖を断ち切る術を見いだせず、戦争の歴史を延々と繰り返すのだ。

日本人は「自分たちは戦争に巻き込まれることはない」と無意識に思い込んでいる。その無意識は正しいのだろうか?

ブラックアジア会員募集
社会の裏側の醜悪な世界へ。これから何が起こるのか。社会の裏側の醜悪な世界がわかれば世の中が読める。ブラックアジアの会員制にアクセスを!

ブラックアジア会員登録はこちら

CTA-IMAGE ブラックアジアでは有料会員を募集しています。表記事を読んで関心を持たれた方は、よりディープな世界へお越し下さい。膨大な過去記事、新着記事がすべて読めます。売春、暴力、殺人、狂気。決して表に出てこない社会の強烈なアンダーグラウンドがあります。

戦争カテゴリの最新記事