フィリピンの貧困層のあいだでも糖尿病が増えているが、その改善は非常に難しい

フィリピンの貧困層のあいだでも糖尿病が増えているが、その改善は非常に難しい

私も長らく東南アジアの貧困地区に沈没していたせいか、ジャンクフードばかり食べ、飲むものも激甘なものばかりだ。東南アジアにいた人はわかると思うが、どこの国でも出てくる飲み物は異常なまでに甘い。私もそれに馴染んだ。フィリピンで糖尿病が増えるのもわかる。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

フィリピンの貧困層も糖尿病が増えている

フィリピンの貧困層において、糖尿病がじわじわと増加している。成人の7.5%が糖尿病を患っており、約430万人が糖尿病と診断されている。これにより、フィリピンは糖尿病の罹患率で世界的にも注目される国のひとつとなった。

さらに、糖尿病は2023年にフィリピンの死因の第5位に位置しており、死亡率は上昇傾向にある。この現象は単なる医療問題ではなく、深く根づいた社会的・経済的な要因に基づいている。

その理由はあきらかだ。食事は米やインスタント麺が圧倒的に多く、野菜や果物はほとんど見当たらない。栄養バランスは完全に崩れており、彼らの食生活は主に炭水化物に依存している。

米やインスタント麺は安価で腹持ちが良いため、多くの家庭で選ばれるが、それこそが糖尿病リスクを高める原因となっているのだ。

加えて、フィリピンではサトウキビの生産が盛んであるため、砂糖を使った料理やお菓子が非常に身近な存在だ。特に貧困層では、甘い飲み物やスナック菓子が安価で簡単に手に入るため、しばしばそれらに頼りすぎることになる。

特に暑い日が続くと、冷たいジュースを飲む習慣が根強く、これがさらに糖分の摂取を加速させる。飲み物は一見、身体に負担をかけないように思えるが、事実はその逆だ。糖尿病の増加は、こうした飲食文化の影響を強く受けている。

私も長らく東南アジアの貧困地区に沈没していたせいか、質の悪いジャンクフードが大好きになり、飲むものも激甘なものばかりだ。東南アジアにいた人はわかると思うが、どこの国でも出てくる飲み物は異常なまでに甘い。私もそれに馴染んでしまった。

そのため、私は東南アジアにしばらくいくと急激に太って、日本にいるとゆっくり痩せるような体質になっていた。フィリピンでも貧困層のあいだで糖尿病が増えているというのは、もう直感でもわかる。

特に暑い日が続くと、冷たいジュースを飲む習慣が根強く、これがさらに糖分の摂取を加速させる。飲み物は一見、身体に負担をかけないように思えるが、事実はその逆だ。糖尿病の増加は、こうした飲食文化の影響を強く受けている。

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生き残ることに必死で、健康どころではない

暑い国はどこでもそうだが、人々は歩きたがらない。すぐに汗だくになるからだ。フィリピンの都市部でも運動不足は深刻な問題である。貧困層の多くは、短い距離でも乗り物を使うことが多く、暑さも相まって徒歩での移動は避けられがちだ。

こうしたライフスタイルが運動不足を助長し、糖尿病のリスクをさらに高める。

おまけに彼らの健康意識は低く、健康管理なんか人生で一度もしたことがないのではないか。血圧計や体重計といった基本的な機器も家庭にはない。生き残ることに必死で、健康どころではない。

そのため、糖尿病の兆候があっても気づかないまま、病状が進行してしまうことが少なくない。病気が深刻になったらどうするのか。貧困層はもちろん高額な医療費が負担できず、最初から病院にいこうともしない。

そのため、糖尿病の治療や予防のための定期的な検診や薬の処方を受けることができないし、早期なら助かった病気も発見が遅れたために死亡してしまうケースが頻発している。

こうした複数の要因が絡み合い、フィリピンの貧困層における糖尿病の急増を引き起こしている。

日本人はまだ相対的貧困が多いので、健康のためにオーガニックな食品だとか、たんぱく質を増やすとかそういうことをいってられるが、本当の意味の貧困層はそんな選択肢はないのだ。ジャンクだろうが何だろうが、買えるものを食べて生き残るしかない。

パグパグという悲惨な食べ物すらもある。(ブラックアジア:フィリピンの極貧層だけが食べる新料理「パグパグ」の正体を知りたいか?

食事の偏り、食材の低品質、糖分の過多、運動不足、そして医療へのアクセスの欠如が、すべて絡み合って、フィリピンにおける貧困層に、深刻な健康危機をもたらしているのだ。その結果として、糖尿病の増加がある。

食事の偏り、食材の低品質、糖分の過多、運動不足、そして医療へのアクセスの欠如が、すべて絡み合って、フィリピンにおける貧困層に、深刻な健康危機をもたらしているのだ。その結果として、糖尿病の増加がある。

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約979万人が最低限の食生活すら送れていない

フィリピンの貧困率は2023年時点で22.4%、つまり約2,524万人が貧困状態にある。2022年には貧困率は18.1%であったがボンボン・マルコス政権でも状況は改善されることはないだろう。

フィリピンでは5人家族が最低限の生活を送るためには、月収が約1万3,797ペソ(約4万円)必要とされるが、現実には多くの家庭がこの収入に達していない。

食生活のデータを見ると、フィリピンの国民の8.7%、約979万人が最低限の食生活すら送れていない。だから貧困家庭では安価で簡単に手に入るスナック菓子を食べて飢えをしのぎ、野菜や果物の摂取が極端に少なくなるのだ。

加えて、フィリピンの2,600万世帯中、1,940万世帯が貯金をしていないというデータもある。

つまり、多くの家庭が予期せぬ医療費や生活費の急増に対応できず、糖尿病のような慢性的な疾患に対する長期的な治療や予防に十分な資金を割くことができないという現実がある。

また、乳幼児の死亡率も高く、1.2%の赤ちゃんが生後1ヶ月以内に亡くなるという事実が示すように、貧困層の家庭では子供の健康問題が早期に発生している。

5歳までに亡くなる子供は6.2%に達し、貧困による栄養不良や医療アクセスの不足が深刻な影響を与えている。このような環境下では、糖尿病だけでなく、その他の健康問題も頻発し、家庭全体にさらなる負担をかける。

フィリピンのスラム街では、衛生環境が劣悪であるため、下痢や感染症が頻発している。先日もフィリピンで巨大台風が襲いかかって、台風が去ったあとも各地のスラムは道路が河のようになったままだった。そこで子供たちはプールのように遊んでいた。そのあと、感染症が多発するのは間違いない。

フィリピンの学習貧困率もまた90.9%と非常に高く、子供たちが基本的な文章理解すらできない状況もある。教育へのアクセスが限られていることは、健康に関する知識の普及も阻まれているということを意味する。

結果として糖尿病の予防や早期治療がおこなわれないまま、放置される状況が続いている。こうした社会的・経済的な要因が、糖尿病の増加を加速させている。

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現代社会は「貧困層こそ糖尿病になる」時代

フィリピンでは甘い飲み物が「リフレッシュメント」として非常に人気がある。日常的に摂取される甘い飲み物は、安価で、特に若者に好まれている。この甘い飲み物が日々の食事に組み込まれている。

コカコーラやペプシもよく飲まれている。それこそ、食事のときに米のご飯にコカコーラが一緒に飲まれるくらいだ。多くの家庭では、米をコカコーラで食べることがごく普通の光景である。

そういえば、私が現地で知り合った女性も、一緒に食事にいったときに普通の食事をコカコーラで流し込んでいた。米のない家庭は、コカコーラとスナックで夕食を終わらせたりする。

「そんな食生活では長生きできない」とか「健康を害する」とかいわれても、それしか選択肢がないのだから改善のしようがない。

悪いことに、昨今ではフィリピンでも食品の価格が高騰し、特に野菜や果物といった栄養価の高い食品が貧困層に届きにくくなっている。これに対して、炭酸飲料やスナック菓子は大量生産されているため、安価であり、家庭の夕食をまかなう手段として選ばれてしまう。

そう考えると、単に健康教育を広めるだけでは解決できない構造的な問題であるというのがわかるだろう。この状況を改善するには、短期的には経済支援や食品価格の安定化、長期的には持続的な高度成長での貧困の解消が必要となる。

しかし、そのどちらもフィリピンの長年の課題であり、歴代の政権がことごとく失敗してきた課題でもある。そう考えると、貧困層の糖尿病は今後もさらに増えていくのが理解できるはずだ。

私自身は、フィリピンで糖尿病が増えている現象には驚きではない。現代社会は「貧困層こそ糖尿病になる」時代なのだ。

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