
2025年1月24日、米国務省は既存の対外支援事業をほぼすべて停止し、新規支援も一時停止するよう、政府関係者や世界各地の米大使館に指示している。アメリカの国益にかなっていないものは、容赦なく切り捨てられるだろう。フィリピンのような同盟国にとっては、結論によっては国家存続の危機となる。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
対外援助凍結措置とフィリピン
トランプ政権2.0はアメリカに不法入国した外国人をかたっぱしから摘発しているのだが、この不法滞在者を軍用機でコロンビアに強制送還しようとしたら、コロンビア大統領が「軍用機で送るのは尊厳が足りない」と拒絶した。
すると、トランプ大統領はすかさずコロンビアに25%の報復関税をかけると脅したので、コロンビア政府は即座に折れて、軍用機の受け入れを承諾した。トランプ大統領はこれを受けて報復関税を引き下げている。
言うことを聞かないのであれば、関税で報復するというトランプ大統領の恫喝外交がここで炸裂した。
あまり目立たなかったが、2025年1月24日、米国務省は既存の対外支援事業をほぼすべて停止し、新規支援も一時停止するよう、政府関係者や世界各地の米大使館に指示している。
この措置は、トランプ大統領が就任初日に発令した、対外援助の効率性を評価するための90日間の援助停止を命じる大統領令に基づくものだ。対象には、食料支援、イスラエルおよびエジプトへの軍事援助以外のすべての対外支援が含まれ、開発協力から軍事援助まで広範囲に及ぶ。
トランプ政権は、アメリカの国益にかなっていないと考える支援は、すべて停止や破棄をするつもりだ。これに、戦々恐々としているのが、アメリカから支援を受けている国々である。
フィリピンも、比米防衛協力強化協定の枠組みで対外有償軍事援助を受けている。これがどうなるのかわからなくなった。今、フィリピンは公式・非公式の外交ルートを通じて必死でアメリカを説得している。
フィリピン政府の見方は「比米防衛協力強化協定に基づく軍事施設の整備などは援助とは見なされず、両国の利益に資するものである」というものだが、果たしてどうなるのかはトランプ大統領次第である。

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安全保障体制が脆弱化する結果
下院のサルセダ議員は、フィリピンに対する主な援助国は日本・世界銀行・アジア開発銀行(ADB)・アジアインフラ投資銀行(AIIB)であり、近年、アメリカは主要な援助国ではなかったと指摘している。
そのため、「今回のアメリカの援助凍結措置がフィリピンの経済に与える影響は限定的である」と述べている。
しかし、安全保障面での影響は無視できない。
フィリピンは、南シナ海における中国の拡張主義的な行動に対抗するため、アメリカとの緊密な軍事協力を必要としている。もし、アメリカの軍事援助が停止されれば、フィリピンの防衛能力に重大な影響を及ぼす。
特に、軍事施設の整備や、アメリカからの装備・訓練の提供が滞ることで、フィリピンの安全保障体制が脆弱化するリスクがある。
問題は中国だ。
中国は、アメリカの軍事援助がフィリピンに対して停止されることを利用し、南シナ海における拡張主義的な行動を強化するはずだ。フィリピンの防衛能力が低下することで中国は増長し、フィリピンの排他的経済水域(EEZ)への進出を一層侵略する可能性が高い。
特に、中国はスカボロー礁や南沙諸島周辺での活動を強化し、フィリピンの漁船や海洋活動に対する圧力を高めている。
これにより、フィリピンの漁業資源や海洋権益が脅かされることとなり、地域の緊張がさらに高まることが懸念される。また、中国は自国の主権を主張し、国際法に反して領海基線を設定するなど、一方的な行動を取る可能性もある。
さらに、中国はこの機会を利用して、フィリピンとの外交関係を再構築し、経済的な影響力を行使することで、フィリピン政府に対して譲歩を引き出す戦略を取るだろう。
フィリピンがアメリカとの軍事協力を維持できない状況下で、中国は経済援助や投資の提供を通じてフィリピン政府との関係を深め、自国の利益に沿った政策を推進する狙いがある。

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地域の安全保障環境は一層不安定化
アメリカが自国第一主義を優先し「フィリピンなんか知るか。自分のことは自分で何とかしろ」という話になったら、経済力の脆弱なフィリピンはひとたまりもない。
ただ、フィリピンにとって救いなのは、アメリカが中国の拡張主義的な行動に対抗するために、明確に中国を敵視していることだ。
特にトランプ政権下で国務長官に就任したマルコ・ルビオは「中国はアメリカが直面した中で、もっとも危険な敵」と明言しており、過去には中国共産党を強く批判して「抑圧、うそ、詐欺、ハッキング、窃盗を駆使して超大国の地位を手に入れた」と非難したこともある。
もし、アメリカがフィリピンの軍事援助を打ち切ったら、中国はその隙間を突き、露骨に南シナ海における自国の影響力を拡大しようとしてくるはずだ。その結果、地域の安全保障環境は一層不安定化し、フィリピンは中国の軍門に下る可能性がある。
そうなれば、南シナ海は中国のものとなる。そして、フィリピンが中国の支配下に落ちたら、太平洋の半分は中国が自由に支配することになる。
さすがに、それはトランプ大統領もマルコ・ルビオ国務長官も見過ごせないはずだ。そのため、フィリピン政府はトランプ政権下でも、アメリカとの強い結びつきは切れないと考えている。
トランプ政権が対外援助を凍結したのは、アメリカ国内で援助に対する懐疑的な見方が強まっていることが強い。多くの国民が、対外援助がアメリカの国益に直接結びついていないと感じている。そして、その効果や透明性に疑問を抱いている。
フィリピンがこれまで通り、アメリカとの関係をうまく構築していくには、アメリカ国民にそれを納得させる必要があるのかもしれない。ボンボン・マルコス大統領がそれを成し遂げられるのか国民は固唾を飲んで見守っているはずだ。

もしアメリカがフィリピンを見捨てた場合
トランプ政権によって、アメリカの外交政策は大きく変わった。対外支援事業の停止措置は、対外援助の効率性と透明性を高めることを目的としているが、その影響は広範囲に及ぶ。
フィリピンのような同盟国にとっては、結論によっては国家存続の危機となる。
フィリピンは、南シナ海における中国の拡張主義的な行動に対抗するため、どうしてもアメリカとの緊密な軍事協力を必要としている。アメリカからの軍事援助が停止されれば、フィリピンは非常に危険なことになると考えていい。
そうなった場合は、日本も対岸の火事ではない。
南シナ海の地政学的バランスが大きく崩れることで、日本の安全保障環境は直接的な脅威にさらされるのは避けられない。
とりわけ、尖閣諸島周辺における中国の活動が活発化することは避けられず、新たな緊張の火種となるのは確実だ。これにより、日本の防衛戦略はさらなる圧力を受けることになる。沖縄もターゲットとして狙われるだろう。
さらにアメリカの対外援助が停止されれば、アジア太平洋地域におけるアメリカのプレゼンスは低下し、日本はより大きな安全保障上の役割を担わざるをえなくなる。日本の負担や紛争の政治的責任はかなり重くなるはずだ。
しかし、今の内閣にはアジア全体の国々と連携を強化して、日本独自の外交・安全保障戦略を取れるような政治家は存在しない。何も決断できない、何も行動できないので、中国に媚びを売って状況を悪化させるだけだろう。
個人的には、アメリカがフィリピンを切り捨てるようなことは、「アメリカの国益からしてもない」と考えているが、そこはトランプ大統領のことである。どういう判断をするのかは直前まで不明だ。
もしアメリカがフィリピンを見捨てた場合は、フィリピンだけでなく、アジア全体が巨大なリスクに見舞われることを考えていかなければならない。

ご無沙汰してます。
日本の保守勢は「バイデンはダメだ!やっぱりトランプだ、トランプだ!」ってトランプ大統領就任前から喜んでる人達をSNS中心にチラホラ見ましたが、ハッキリ言って甘すぎる。
トランプは米国の政治家で、あくまで米国ファースト。
今の日本の政治家に、トランプと渡り合える人いるのか?と。
石破も岸田も論外、今の日本にはトランプとツーカーで渡り合い、TPP等やりあう所はやりあっていた安倍さんいないのよ?と……
高市早苗も、トランプから「会えそうだから良かったらどうだ?」と声かけられたら、党内での自分の立場を優先して「いや、やっぱり総理が先にお会いするべきで……」などとケツ割って引っ込む始末……貴女の師匠の安倍信三だったら、会いに行ってたでしょうよ。
今はパナマや中国に目が向いてるからいいものの、「日米同盟は、米国の負担が大きすぎて米国に不利だ」と言う声も米国内ではあると言いますし、いつトランプの矛先が日本に向くか。