弱者男性とはつまり貧困者のことを指しており貧困者の集合体は「貧困層」である

弱者男性とはつまり貧困者のことを指しており貧困者の集合体は「貧困層」である

「弱者男性」とは、低賃金で、独身で、恋人もおらず、容姿も恵まれておらず、友人もおらず、若くもない男性を指す言葉である。実際に弱者男性が社会で目立つようになっている。この弱者男性の正体は、「貧困者」に他ならない。弱者男性の問題とは、貧困問題なのだ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

低賃金で、独身で、恋人もおらず、容姿も恵まれず

「男性は強い、男性は恵まれている、男性は給料が良い、男性は得する」といわれ続けてきて、女性はこれまで強者としての男性や男性社会を批判してきた。ところが、この20〜30年ほどのあいだで日本は急激に変質し、いまや男性全員がみんな強いとはいえない社会になってきてしまった。

たしかにまだ男性社会であり、男性優位であり、男性のほうが社会的に生きやすいのはたしかなのだが、そんな中でも「弱者男性」が目立つようになっているのだ。

「弱者男性」とは、低賃金で、独身で、恋人もおらず、容姿も恵まれておらず、コミュニケーションも得意ではなく、友人もおらず、若くもなく、場合によっては障害などもあるような男性を指す言葉である。

もう、ずいぶん前からSNSで使われる言葉となっているのだが、最近はとくにこの言葉がリアリティを持って語られるようになってきている。その背景には、実際に弱者男性が社会で目立つようになっているからでもある。

「弱者男性は1500万人もいる」と主張する人も出てきているほどいるのだ。

彼らは「若くはない」といったが、世代でいうと「就職氷河期世代に属する男性」が多い。彼らはバブル崩壊以後、就職難の時代に社会に出て、非正規雇用の仕事しか見つからず、低賃金で人生の大半を送るような目に遭ってしまった。

バブル崩壊は1990年なのだが、本当の意味でバブルが破裂して社会が回らなくなっていったのは1993年である。この1993年を基点にして、非正規雇用がどんどん増えていった2005年までの世代を「就職氷河期世代」と呼ぶ。

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企業はやはり新規採用をしなくても良くなっていく

この世代は1970年から1984年に生まれた人々である。年齢でいうと40歳から54歳となる。現在、賃金が上がっていると政府は報告しているのだが、唯一、この就職氷河期世代の賃金は上がっていない。

彼らの賃金は据え置かれて、その分を若手の賃金アップに回されており、今でもずっとワリを食っている不運な世代だ。この世代の困窮ぶりが目立つようになって「弱者男性」と認識されているのだった。

弱者男性が弱者である最大の要因は、やはり「低賃金」というところに大きな原因がある。バブル崩壊以後、企業は抱えてしまった不良債権に苦しみもがき、新規採用を極限まで絞った。これで多くの若者が「安定」から締め出された。

さらに企業は誰かを雇うにしても、いつでもクビを切れる「非正規雇用」を増やすことにした。ここでも多くの若者が「安定」から締め出された。

さらに企業はより低賃金の人材を求めるようになって、「外国人労働者」を大量に入れるようになった。ここでも多くの若者が「安定」から締め出された。

「非正規雇用」と「外国人労働者」はこれからも続く。企業はこれを日本人の正社員に入れ替えるインセンティブがまったくないからだ。

一方、新規採用は人手不足なので解消するように見える。しかし、ここでも話は単純ではない。ハイテク化が進んでいくと業務の効率化が加速して、昔のように人が要らなくなっていく。

まして、これからAI(人工知能)が急激に進化して業務改善に取り入れられるようになっていく。

そうすると、本来は人間がしていた業務をAI(人工知能)が担うようになっていくので、企業はやはり新規採用をしなくても良くなっていくのだ。

結果的に、弱者男性を生み出す社会的構造は何ひとつ変わらず、変わるどころかもっと悪化していく可能性が増えて、弱者男性は延々と弱者男性のままとなり、そこに新たな弱者男性が次々と加わっていく。

今後の日本は「みんなまとめて弱者男性」になってしまうかもしれない。

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女性の弱者男性を見る目は非常に厳しい

弱者男性は経済的弱者であることから、次々と問題が発生する。低賃金であるがゆえに、恋人を作ることもできない。恋人を作ってデートするというのは、とにかくカネを使うイベントなのだ。低賃金だと、そのデート代の工面に苦労する。

その前に、女性の弱者男性を見る目は非常に厳しい。

一度や二度はデートすることはあっても、低賃金の男性と深くつき合ったり、結婚したりしようとは思わない。しょっぱなから割り勘などいってくるような男なら、多くの女性は氷のように冷めて二度とその男性とつき合わないだろう。

結婚相談所や結婚仲介サイトでも「年収は600万円以上」みたいな条件をつける女性が多いが、女性はまずは年収や資産が多い男性を探す。そのため、弱者男性は恋愛することもままならない状況に陥る。当然、結婚に至ることもない。

政府は少子化に悩んでいるのだが、本当に少子化を何とかしたいと思うのであれば、非正規雇用を減らして正社員を増やして経済的に安定した若者をどんどん増やすべきなのだ。

しかし、企業はよけいな人員を抱えたくないと思っているので、非正規雇用のシステムをやめるつもりはない。政府も国民のいうことよりも経団連のような企業のいうことを聞いたほうが票につながるので、企業の要望どおりに非正規雇用を押し進める。

だから、弱者男性はずっと弱者男性のまま放置される。

低賃金で結婚もできない弱者男性は孤独になる。孤独になれば、別に格好を構う必要もなくなる。おしゃれに気をつかうどころか、ホームレスさながらに身だしなみを放棄する男性すらも現れる。

最近、『ご事情あるなら本当にごめんなさいなんだけど、夏場の男性のにおいや不摂生してる方特有の体臭が苦手すぎる』とSNSに投稿して事務所を契約解除されてしまった女子アナウンサーがいる。

ここで彼女が書いている「ご事情あるなら本当にごめんなさいなんだけど」に該当する男性の中には、仕事の都合で汗まみれになってしまう男性の他に「弱者男性」も少なからず含まれているのだろうと私は見ている。

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そして、女性も男性もみんな貧困に落ち出している

女性ともつき合わない、カネがかかるから友人も作らない、孤独になって格好も構わない……。そうなると、他人とのコミュニケーションも減るわけで、話すのもどんどん苦手になっていく。意図的に人とのかかわりを避けるようになる。

かくして、弱者男性は「低賃金で、独身で、恋人もおらず、容姿も恵まれておらず、コミュニケーションも得意ではなく、友人もおらず、若くもなく、場合によっては障害などもあるような男性」となってしまう。

そういう男性が増え出しているのが日本の社会である。

この弱者男性は「大きな集合体」となる。この集合体は何と呼ぶべきか。それは「貧困層」と呼ぶべきなのだ。弱者男性とはつまるところ貧困者のことであり、貧困者の集合体は貧困層なのだから、「弱者男性が増えた」というのは「貧困層が増えた」という話に他ならない。

弱者男性が抱えている問題というのは、すべて貧困層が抱えている問題と合致しているわけで、要するに弱者男性の問題は貧困問題であったのだ。

日本はこれまで女性の貧困がクローズアップされ続けてきた。しかし、男性は無傷だったのかというとまったくそうではなく、男性もまた貧困に苦しむようになっていて、それが弱者男性として認識されるようになった。

とにかく今の政治家は30年も日本を成長させることができなかった。そんな政治家が相変わらず同じ政党の、同じ顔ぶれ、同じシステムで、だらだらと同じことを続けていくだけなので、日本の衰退はとめられない。

かくして、女性も男性もみんな貧困に落ち出している。

中間層がいよいよ消えてみんな貧困に落ちてきており、それがさまざまな言葉で表現されている。「弱者男性」もそうだった。

病み、闇。
病み、闇。: ゾンビになる若者、ジョーカーになる若者(鈴木傾城)

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