底辺の人間たちにとって一攫千金が得られるかもしれないギャンブルは救いなのだ

統計的にも、低所得層は稼いだカネをギャンブルや投機に使う割合が中所得層より高いことはよく知られている。収入の少ないと、勝ち目の低い勝負でも、自分の運を賭けようという心境になる。気持ちはわかるはずだ。もし運良く大当たりしたら自分の運命は一気に変えることができるのだ。(鈴木傾城)

鈴木傾城

プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。経済分野を取りあげたブログ「フルインベスト」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。連絡先 : bllackz@gmail.com

ギャンブルが唯一の「希望」になる

カネのない男とギャンブルは深く固く結びついている。ある人はパチンコだったり、ある人は競輪競馬だったり、ある人はバカラだったり、ある人はFX(為替証拠金取引)だったりするのだが、とにかく彼らはギャンブルに引き寄せられる。

なぜなら、そこには彼らが求めている一攫千金があるからだ。

カネもなく、人脈もなく、学歴も資格も職歴もなく、ほぼ何も持たない男たちが一攫千金に吸い寄せられる背景には、それが唯一の「希望」になるからだ。大金が労せずして転がり込む可能性がそこにある。

現代は、時代が進めば進むほどガチガチの学歴社会になっていくのだが、学歴も資格もないまま社会に出たら、その瞬間に玉砕してしまう確率が高くなる。何も持たないままだと、面接に行っても良い仕事は得られない。門前払いされる。

そして、最初につまづいたら、その挽回はかなり厳しいものになる。

非正規やパートタイムでしのぐしかなく、そういう仕事を続けていると、収入が増える見込みもなく、日々の生活は不安定になっていく一方だ。貯金なんかできないし、その日をしのぐのに精一杯になる。

そうなると、まともな人が寄りつかなくなり、社会とのつながりも途切れがちになる。人は生活に困窮している知り合いを見たら「いつかカネを貸してくれとか言われるかもしれない」と考えるのか、近づきたくないと本能的に思うようだ。

うまく生きられない本人も「自分のこんな惨めな状態を知られたくない」と思って、人とのつながりを切っていくので、ますます社会的に孤立していく。そして、最後に何も残らなくなる。

こうした状況では「努力すれば報われる」という言葉は虚しいものだ。社会はそんなに甘いものではないし、簡単なものではない。現実的な上昇の道は閉ざされたまま、時間だけが過ぎていく。

そうなると、一攫千金という極端な選択だけが唯一の突破口に見えてくる。

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当たったら一気に人生逆転する夢がある

統計的にも、低所得層は稼いだカネをギャンブルや投機に使う割合が中所得層より高いことはよく知られている。収入の少ないと、勝ち目の低い勝負でも、自分の運を賭けようという心境になる。

気持ちはわかるはずだ。もし運良く大当たりしたら自分の運命は一気に変えることができるのだ。外れたら外れたで、今の夢も希望もない生活が続くだけなのだから、賭けるほうが良い選択だと思える。

何も持たない底辺の人間たちにとって、ギャンブルは娯楽ではない。

賃金が少ない状態で生活費がかさむと、貯金する余力は消え、将来への備えもできるはずもない。ストレスも溜まる。自暴自棄にもなる。そうすると、どうしても「一気に挽回できないだろうか」という、わらにもすがるような気持ちがあふれていく。

もはや、まじめに働いて生活を向上させるという部分が機能していないと感じているので、ギャンブルの勝てる確率が低いという事実は無視される。「ほとんど勝てない」よりも「もしかしたら勝てるかもしれない」という一縷の希望のほうが強くなる。

失敗しても失うものは少なく、成功したら得るものが大きい。

以前、『どん底に落ちた養分たち』という本でギャンブル依存症の男たちを取材したとき、宝くじを買う人たちも取材したのだが、彼らが一様に言う決まり文句が「買わないと当たらない」「夢を買っている」というものだった。

もはや日々を一生懸命に生きるというのは夢も希望もない。しかし、宝くじは「当たったら一気に人生逆転する夢がある」のだ。「当たらない確率のほうが絶対的に高い」と言っても無駄だ。

たとえ、隕石が頭上に落ちてくる確率より低く、雷に撃たれる確率に近いくらいありえないことだと言っても「それでも当たった人がいるじゃないか」となる。買わなければ確率はゼロだが、買えばミクロレベルの微細な確率でも可能性は出てくる。

だから、それを買う。買うというよりも、すがると言ったほうがいいのかもしれない。

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当たるまでに約2万7,000年かかる計算

東南アジアの人々はギャンブルが好きだという話はよく聞く。とくに貧困地域では、一攫千金に吸い寄せられる構造がより鮮明に表れている。スラムにはだいたい何はなくても私設の違法な賭場はある。

インドネシア、フィリピン、カンボジア、ラオスなどの低所得地域では、月収が数百ドルを下回る家庭が多数を占め、賃金の上昇も限定的だ。東南アジアの非正規労働者は全体の半数を超え、安定した収入を得られない層が圧倒的に多い。

教育機会も均等ではない。貧困層の家庭の子供たちは小学校にすら行かないこともある。最終学歴が中等教育に満たないまま働き始める若者も珍しくない。こうした環境では、金融リテラシーは育つはずもない。

まともに生きていっても這い上がれないし、死ぬまで貧乏なままで終わる確率のほうが高い。そうすると、一攫千金が現実的な選択肢として浮かび上がってくる。

東南アジアでは、宝くじや闇宝くじが生活の一部に組み込まれている。たとえば、タイをうろついていると、どこでも宝くじ《ロッタリー》売りが道ばたに立っている。驚いたことに、スラムでもロッタリー売りを見かけたことがある。

タイ政府の調査では、成人の半数が月に一度以上宝くじを購入していると報告されており、低所得層ほど購入頻度が高い傾向が明らかになっている。タイの人口は約6,700万人だが、約1,920万人が買っているという統計もある。

1等は6桁すべて一致で600万バーツだから、大当たりしたら日本円で2,500万円ということになる。

当たる確率は非常に低くて、だいたい1,000万分の1である。これがどれくらい当たらないのかというと、1日1回くじを引き続けても、当たるまでに約2万7,000年かかる計算になるくらい当たらないのだ。

だとしても「買わなければ当たる確率はゼロ」なので、貧困層はただでさえ少ない所持金の中で必死で買う。合理的ではないのだが、もはや合理性なんかでは行動していない。合理性など考えられないくらい追いつめられているのだ。

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少なからずがギャンブルに取り込まれる

日本の貧困は「相対的貧困」なので、東南アジアのような最底辺の貧困とは違う。気づかれにくい形で社会に存在している。統計では、日本の相対的貧困率は約15%前後で推移している。

特に単身世帯や非正規雇用者に貧困が集中しているのだが、20〜30代の若年層では非正規率が35%を超えている。収入が安定せず、可処分所得が少ない状況が続くと、彼らは長期的な資産形成など夢のまた夢となる。

だから、彼らの少なからずがギャンブルに取り込まれることになる。そこにしか夢がないからだ。

興味深いことに、日本社会もギャンブルが生活に強く組み込まれている。パチンコは全国に約7000店舗が残り、年間の遊技人口は減少しているとされるが、依然としてユーザーは数百万人規模に及ぶ。

競馬、競艇、競輪、オートレースといった公営ギャンブルも、パンデミック以降オンライン化が進み、手軽に参加できる環境が整った。さらに近年では、FX(外国為替証拠金取引)や暗号通貨の短期レバレッジ売買が、「少額で大きな利益が狙える」と広まっている。

高齢者は昔ながらの競馬・競輪・パチンコが大好きだが、若者たちはFXや暗号通貨に群がっている。

SNSでは成功談が短い動画やスクリーンショットで拡散され、いかにも勝っているように見せかけているフェイク情報も増えた。それで射幸心を刺激して、若者たちからカネを巻き上げている。

見る人が見ればうさんくさいことこの上ない。ところが、這い上がれない男たちには、日常が停滞しているほど、それが希望になるのだ。

政権がどのように変わろうとも、日本では貧困層がじわじわと増えていく。努力しても現状を抜け出す実感が得られないとき、人は一攫千金を切実に求めるようになって非合理な行動に走っていく。

一攫千金をもたらしてくれるのがギャンブルなのだから、今後は短絡的な違法ギャンブルも含めてギャンブルそのものが広がっていくのは間違いない。

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コメント

  1. 鈴蘭 より:

    ギャンブルは負けた時に無くす金額が恐ろしいので、ギャンブルは絶対にしません。
    ギャンブル依存症になっても恐ろしいので。

  2. 晶子 より:

    「全財産を無くすかもしれない」という事がスリルなのかもしれませんね
    私はそんな恐ろしい事は出来ないので
    ギャンブル(パチンコ)はしません
    依存症になるのが怖いという理由もあります
    駅前一等地から出て行って欲しいと思います

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