タイの首都バンコクにあるヤワラー(Yaowarat)はチャイナタウンである。このエリアは「魔窟《まくつ》」と呼ばれるに相応しい場所だ。
迷路のように入り組んだ道にひしめく細々とした店、古ぼけて骨董品のようになった建物。金行・食堂・ペット屋・雑貨屋・米屋・葬儀屋が乱雑に、脈絡無く店を開いており、それぞれが強烈なニオイを発している場所……。
ここには「旅社」と呼ばれる安宿も多く、昔は場末の売春宿も林立していたものだった。「冷気茶室」と呼ばれるものも、典型的な売春宿であった。
現在、冷気茶室はほぼ壊滅した。児童売春と女性虐待の巣窟《そうくつ》だった冷気茶室は、警察によって徹底的に追及されて、二〇〇〇年の始め頃にはすでに壊滅状態となった。
しかし一九八〇年代から一九九〇年代は、冷気茶室を当たり前のように見ることができた。昼間から男たちが冷気茶室でぶらぶらしている姿は、珍しくも何ともなかった。毎日のように冷気茶室に通っていた男もいた。売春の値段は「一〇〇バーツから」だった。
当時でもパッポンで女性をペイバー(連れ出し)すると、総額で一〇〇〇バーツから一五〇〇バーツくらいはかかっていたはずだから、いかに冷気茶室が安かったかが分かる。安かろう、悪かろう」というのが現実だったが、もしかしたらそれがヤワラーを荒んだ雰囲気に見せていたのかもしれない。
当時、冷気茶室は「男の天国、女の地獄」と呼ばれていた。男はわずか一〇〇バーツほど出すだけで、エアコンで冷えた部屋で女を抱ける。
「これを天国と言わずに、何を天国と言う」というわけだ。一方、娘の方だが、いろんなところから漏れ聞こえてくる話は、悲惨の一言《ひとこと》に尽きた。知り合いはこう言っていた。
「あの娘たちは、タイの東北地方《イサーン》や、北部の山岳民族の娘で、冷蔵庫と引き替えに売り飛ばされたんだ」
他にも「無学な地方の娘を誘拐してきたらしい」とか「バンコクの工場で働けると騙してそのまま軟禁している」という話もあった。
それだけではない……
(インターネットの闇で熱狂的に読み継がれてきたカンボジア売春地帯の闇、電子書籍『ブラックアジア タイ編』にて、全文をお読み下さい)
記事の写真にある冷気茶室が2月で完全閉鎖されたという情報を読者からもらいました。かつて「男の天国、女の地獄」と呼ばれた冷気茶室は、これで歴史に消えた可能性があります。1980年代は100バーツ、2000年代でも400バーツほどでラオスの女性が売春ビジネスをしており、最後は華僑系の高齢者ばかりが集う老人ホームのようになっていました。高齢者と共に、消えたのだと思います。
【鈴木傾城】
冷気茶室。なんかこの響きそのものがアヤシイですね。w
時代は変わったということなんでしょうか。
そう言えばタイも物価が上がってリタイヤ組がヒーヒー言っておられるようです。むかしは100バーツだったんですね。今となっては信じられない価格ですね