◆寂しがり屋のクーン。彼女が見つけたのはフェラチオの仕事

◆寂しがり屋のクーン。彼女が見つけたのはフェラチオの仕事

タイ編
「スター・オブ・ラヴ」というバーがある。バンコク・パッポンの中程に位置するあまり目立たない特殊なバーである。

このバーはゴーゴーバーではないので、半裸で踊り狂う女性はいない。待機する女性も5人前後である。

細長いカウンターと、擦り切れたような古いソファがあるだけで、耳をつんざくような音楽もない。しかも店は狭く、場末の雰囲気がぷんぷんと漂っている。

他のバーが派手で猥雑で混乱したエネルギーに満ちていることを考えると、このバーの陰気で陰湿な雰囲気はどこか異質であることは誰もが感じるはずだ。

確かにこのバーは異質だ。普通のバーではない。

「スター・オブ・ラヴ」は、ブロージョブ・バーだった

この店はずいぶん昔からあったはずだ。あまりにも地味で目立たないので、最初はこんな店があることすら知らなかった。

パッポンは数十回も数百回も通っているのに記憶に残ったことすらない。

この店には何の印象も残らず、スター・オブ・ラヴという店名さえ記憶から飛んでいた。

ところが、この店には熱狂的な常連がいる。このバーは特殊なサービスを行っており、そんなサービスに釣られて常連がやって来るのだ。

この店のサービス。それは白人(ファラン)の言う「ブロー・ジョブ」、日本人の言う「フェラチオ」、タイ人の言う「スモーク」である。

ここの女性たちは、やって来る男たちのペニスを口で射精させるのが仕事なのだった。それ以外に何もしない。性行為もない。フェラチオだけがメインになっている。

最初、この店がそのようなタイプの店であることを知らなかった。それを知ったのは、インターネットで白人(ファラン)の書いたいろんな記事を読むようになった頃だった。

「この薄汚いバーで女にブロージョブしてもらったが、仕事を手抜きしようとする。最悪だ」

「部屋は不潔でゴキブリが壁を走っていた」
「女は歳を取っていて美しくない」

そのような罵詈雑言が並んでおり、たまに「いや仕事熱心な娘がいた」というコメントが取ってつけたように書かれているのだった。

袋小路(デッド・エンド)の状況

「薄汚い」というのは問題ではなかった。ヤワラー(チャイナタウン)に行けば、手の施しようがないくらい不潔で臭くて薄暗くて汚い旅社がいまだにある。

カンボジアに行けばさらに荒廃した置屋が待っている。カンボジアの置屋に慣れてしまうと、スター・オブ・ラヴなどまったく問題はない。

女性が「美しくない」というのも苦笑するしかなかった。そもそも、白人(ファラン)の「彼女は美人だ」というのが、まったくアテにならない。

文化・人種・環境によって美人・不美人の感覚はまったく違う。だから非アジア人種が自分たちの感覚で「彼女は美人だ」「不美人だ」と決めつけているのを読んでも参考にもならないのだ。

そういうわけで、興味本位でスター・オブ・ラヴに足を運んでいる。ところが、である。

居並ぶ数人の女性たちを見て、今回ばかりは白人の意見がどうも正確だったと知ることになった。

30歳過ぎの女性たちが、疲れたような笑顔でこちらを見つめて笑いかける。

水商売にどっぷりハマってこの世界から逃れることができなくなったので、しかたなく、男たちの射精欲を直接満足させるようなサービスに走らざるを得なかった……。

そんな袋小路(デッド・エンド)の状況がぷんぷんと臭ってきた。

その後は再びこの店に顔を出すこともなく、懐かしく思い出すこともなければ、まだやっているのかどうか気にすることもなかった。

正直言うと、女性にブロージョブさせて、射精したら「さようなら」という殺伐としたサービスがとても嫌だ。夜の世界に入り浸ることが多いにもかかわらず、そうだった。

かなり若く見える娘がおずおずと左隣に

だから、スター・オブ・ラヴに再び足を踏み入れたのは、まったくの偶然としか言いようがない。

キングス・コーナーでひとしきりガトゥーイたちと冗談を言い合った後にパッポンを目的もなくぶらぶら歩いていたときだった。

ドアを半分開け、やはり身体を半分だけ出した25歳前後の女性が、道行く男たちに声をかけて営業活動をしており、ほとんど偶然に彼女は目が合った。

「カモン」と彼女は笑いながら言った。

例のブロージョブ・バーか、と考えていると彼女は腕をつかみ、”This bar is very good!”(ここはとってもいいのよ!)と言いながら奥に引きずり込む。

決心がつかないとき、いつもそうやって女性やポン引きに引きずられるがままになる。

もちろん、明らかに暴力バーやぼったくりバーだと分かっている場合はついていかないが、そうでないのならあえて逆らわない。

中に入ってドアが閉まると、急にパッポンの喧噪から遮断されて、静かで程良い暗さの空間になった。

バーの中は縦長の変哲のない部屋で、入口の右側にカウンターがあり、左側にはソファが置いてあった。

客はビヤ樽のような腹を突き出した白人がふたり、女は店に呼び込んだ女性を含めても4人しかいない。場末感は何もかわっていなかった。

白人たちは男同士で話に夢中になって女たちには見向きもせず、女たちはソファで暇を持て余している。

「ソファの方に座って」と呼び込みの女は言った。言われたとおりにすると、小柄でかなり若く見える娘がおずおずと左隣に座った。

このようなバーは、ゴーゴーバーのダンサーを引退した30歳過ぎの女性がやるものだと固定観念にとらわれていたので、左隣の娘が若いことにかなり驚いた。

呼び込みの女は、娘の若さに驚く客の反応を笑いながら、「イエス。彼女はとても若いわよ。17歳なんだから。それにこの店に来て3ヶ月よ」と言った。

しばしば実年齢よりも若く見える

英語で会話している間、17歳の娘は息を潜めるような顔で、じっとこちらを見ていた。振り返って彼女を見ると、はにかんだ笑顔を浮かべて対応する。

“English?”(英語は?)と訊くと、彼女は”No English”(ノー・イングリッシュ)と答えて、困ったように呼び込みの女を見た。

“Khun Chu Arai khap?”(名前は何ですか?)

タイ語で話すと、彼女はぱっと顔を輝かせて「クーン」と答える。

クーンは確かに17歳と言われればそんな気がするが、実際にはもっと若く見えた。全体的に華奢なところがそんなイメージを醸し出していた。

褐色の肌や少し低い鼻はイサーンから来たという娘によく見られる典型的なタイ族の顔だった。派手な顔つきではない。しかし、親しみの持てる好きな顔だった。

呼び込みの女が店の説明を始めた。

「彼女はスモークするわ。値段は500バーツよ。彼女でいいわね? でも、今は部屋が使われているから、しばらくここで彼女と話してて。あなたは日本人でしょ。日本人好きよ。たまにこの店に日本人が来てくれる。たまに、だけどね。毎日じゃない」

白人の新しい客が店に入ってくると、相手をしていた女は立ち上がって新客をカウンターの奥に連れて行った。

カウンターの向こう側にいた女性のひとりが嬌声を上げて彼にキスを求めている。どうやら彼も常連だった。

「君は本当に17歳かい?」と英語とタイ語とジェスチャーを入り混ぜて彼女に訊くと、彼女は「イエス」と言った。華奢で小柄な彼女は確かに17歳に見えたが、もっと若い気がしてしょうがない。

「本当かい?」と冗談めかして疑わしそうな目で彼女を見つめると、クーンは「イエス……」と言うが、しばらくして吹き出しながら「ノー」と答えた。

「何歳なの?」と畳みかけると、彼女は「20歳」であることを白状する。どうもそれが本当の歳らしい。

17歳よりも若いような気がすると思っていたので、逆に20歳と言われると返す言葉が見つからなかった。

タイの女性はしばしば実年齢よりも若く見えるが、クーンもまたそうだった。恐らく子供時代の慢性的な栄養失調がクーンの発育を妨げたに違いない。

わたしはイサーンから来たの

今の日本人は食事も欧米型になって飽食も当たり前の状態になり、小学校の低学年でも初潮を迎えるくらい身体は成熟している。

しかし、かつての日本は諸外国から「実年齢より若く見える」と言われていた。

今のタイがそうだと考えれば分かりやすい。つまりそれは、まだタイに貧困が残っていることを意味している。残っていたのではなく、いまだ残っているのである。

バンコクの子供たちがマクドナルドに見られるファーストフードを当たり前のように食べている中で、イサーンの子供たちは飢えに泣くという経済格差がすでに生まれている。

それが貧しい娘たちを夜のビジネスに追いやっている。クーンもまたそんな図式の中でパッポンに流れ着いたのだろう。

しかもクーンが所属するバーはゴーゴーバーではなくブロージョブ・バーである。

ゴーゴーバーでも田舎から出てきたばかりの20歳の娘には衝撃的な世界であるはずなのに、ブロージョブ・バーと来れば、最初は屈辱以外の何物でもなかったはずだ。

部屋はなかなか空かなかった。呼び込んだ女も暇を持て余して隣に座った。

クーンにはコーラを奢ってあげていたが、呼び込みの女にもコーラを奢った。このうち30バーツだか40バーツは彼女たちのチップとなるのはキングス・グループと同じシステムだ。

呼び込みの女は「わたしはイサーンから来たの。クーンも同じ。友達なの」と教えてくれた。

彼女が先にスター・オブ・ラヴで働き、貧困でにっちもさっちも行かないクーンを見かねてこのバーを紹介したらしい。それがクーンには良かったのか悪かったのか、批評のしようもなかった。

少なくとも言えることは、クーンがパッポンに来たことによって、彼女のその後の人生は売春を中心に回っていく生活になることが決定づけられたということだ。

貧しい女性が夜の世界に足を踏み入れて金を手に入れることを覚えると、そこから抜け出すのは非常に難しい。

それは道徳的に悪いことなのかもしれないが、それによって娘と娘の家族は生活していくことができる。

物を認識する基準が違うということを知った瞬間

やがて背の高い白人の男と、その男性にぶら下がるようにくっついたタイ人の娘が、押し黙ったまま奥の通路から出てきた。

「終わったみたい」と呼び込みの女が言った。

クーンを促して立ち上がろうとすると、「部屋をクリーンにするから、ちょっと待って」と、呼び込みの女が押しとどめる。部屋を掃除している中年のおばさんの姿が見えた。

やがて掃除が終わり、クーンと立ち上がると、呼び込みの女は再び制した。

「ちょっと待って。あなたはクーンとわたしと一緒に部屋に行くつもりはない? クーンは英語ができない。わたし、フェラチオがとてもうまいのよ」

英語のできない入店したばかりのクーンを手助けしようと思ったのか、それともクーンが英語の苦手なのをダシにして自分も一儲けしようとしたのか分からない。

しかし、クーンとふたりだけで部屋に行くことを彼女に伝えた。

娘に英語ができなくて会話にならないというのは珍しいことではない。そんな状況でも素晴らしい時間を過ごすことができる。

クーンは手を取って部屋に連れて行ってくれた。

部屋は6畳ほどの空間で、粗雑な作りだった。最初は部屋ではなかったのを、後で無理やり部屋に作り替えたような感じである。

入口の左側に殺風景なベッドがひとつ置いてあり、入口奥には洋服かけがあった。その洋服かけは半壊して右側に傾いでいたがそれでもまだ現役のまま使われていた。

屋根は波形のトタンが見える。パッポンにしてはあまりにいい加減な作りに少々あきれた。

しかし、クーンが嬉しそうに「良い部屋でしょ!」と言うのを聞いた時には思わず絶句した。

イサーンで育ったクーンと、日本の都会で育った人間の、物を認識する基準が違うということを知った瞬間だった。

スモークだけだから

壁には健康的な白人男女がビーチで絡み合っているポスターが貼ってあった。しかし、安っぽい部屋にそんなポスターを貼ってもムードも何もなかった。

クーンはベッドに上がった。服を脱いで、というしぐさをするので全裸になった。クーンは上半身だけ裸になる。

クーンにも全裸になってくれるように言った。クーンは「でも、スモークだけだから」と言うので「もちろん、分かっている」と答えた。

しかし、クーンは渋っていた。無理もなかった。スモークだけの約束なのに、全裸になると最後の行為までやられてしまう危険が増す。

恐らく酔った男なら、華奢なクーンを押さえつけても最後までやってしまうに違いない。

肩をすくめてクーンに「分かった。そのままでいいよ」と伝えた。クーンは一瞬、本当にいいのかという表情で客が怒っていないか窺っていた。

彼女の髪を撫でて怒っていないことを伝えると、安堵した表情を浮かべて仕事に入った。彼女はきちんとビジネスをした。三ヶ月で誰がどうやって彼女に仕込んだのだろう。

クーンをここに連れてきた同郷の女が、この店のオーナーを相手に教え込んだのだろうか。

ビジネスが終わるとクーンをわきに寝かせて、それからゆっくり話をした。「イサーンから来たのかい?」と改めて確認するとクーンはうなずいた。

「パパとママはイサーンで、自分だけがバンコクに出てきた」

クーンは身振り手振りで教えてくれた。

「寂しいわ。いつもママに電話してお金がなくなる。電話で泣くの。ママと話して、いつも泣いてるわ」

クーンはそう言いながら、人差し指でポロポロと涙をこぼすしぐさをした。

家族と暮らしていたイサーンから心細い思いでバンコクにやって来て、毎晩ホームシックに泣く娘の姿がここにあった。

彼女を庇護するものはバンコクにはいない。彼女の身に何かあったとしても、彼女の家族は誰ひとりとして助けに来ない。

彼女はパッポンでひとりぼっちだ。

荒廃した女になって行くのか?

「イサーンに帰らないのか?」と訊くと「だめ。パパ、ママ、お金がないから」と答えた。

しばらくクーンを抱擁していたが、やがてクーンは身体を起こして着替え始めた。

彼女に現金を渡し、ついでに200バーツほど余分に握らせた。

“Telephone to mama”(ママに電話してくれ)と言うと、クーンは合掌(ワイ)をした。

かつてタイの女たちはよく合掌(ワイ)を見せてくれたが、最近は昔ほどでもない。急にクーンが愛おしくなった。

部屋を出て、抱擁しながら別れを惜しんだ。

相変わらずビヤ樽のような腹をした白人の男たちが内輪の話に夢中になっており、ふたりほどの女性が暇を持て余していた。

店を出て名残惜しく振り返ると、最初に呼び込んだ女が半身だけをドアから外に出して手を振っていた。

「明日もおいで!」

バンコクにはこういうバーがあちこちに点在している。

どのバーも娘たちの評判はあまり良くない。毎日ブロージョブを繰り返しているうちに、すっかり男を見くだすようになるようだ。

それもそうかもしれない。

彼女たちが見る男たちは、無防備に恍惚し、娘たちに「もっと、もっと」と、だらしなく哀願しているのである。

それはある意味で、男たちが見せるもっとも情けない、そして尊厳もプライドもない姿かもしれない。

そんな男たちの姿を娘たちは見続けている。クーンもそんな男たちを見続けて、やがては荒廃した女になって行くのだろうか……。

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