◆破滅。欲望の街で死んでいった男たちの怨念が、身に染みた

◆破滅。欲望の街で死んでいった男たちの怨念が、身に染みた

タイ編
破滅するということはどういうことだろう。男がドラッグとセックスで破滅していくのは珍しいことではない。

ずっと夜の闇をさまよってきていると、普通の人よりも破滅していく男を間近に見ることができる。また、間接的にもよく破滅した男のことを見たり聞いたりする。

逮捕された人も多い。会社員、土木作業員、タクシーの運転手、教師、会社経営者……。

みんな夜の世界に関わったばかりに、坂道を転がり落ちるように転落し、破産し、逮捕され、結果的には破滅した。

エイズ問題は昔も今も深刻な問題だ

破滅するというのは、「破滅の美学」という言葉もあるように、一部では憧れの対象にもなっている。

確かに文学や映画では美しいかもしれないが、それは誤解だ。実際にはそんなに美しいものではない。

拘置所や刑務所の服役はつらいだろう。すべてを失ったあとの日雇いの仕事や肉体労働は殺伐とした気持ちになるだろう。

日本で住み込みの仕事をしたり、木賃宿を転々とするのも充実した生活とは言い難い。

破滅とは、そういうものだ。

エイズに感染したというのも大きな破滅になる。タイで流行しているHIVウイルスはもっとも感染力の強いサブタイプE型だと言われている。日本人は、1年に70人ほどが感染しているという試算もある。

フィリピンでもエイズは深刻な問題で、そもそも日本でエイズ・パニックを引き起こしたのはフィリピンの女性だった。すなわち、1986年の松本エイズ・パニック事件である。

これは、強制送還されたフィリピン女性がエイズ検査の結果、陽性だったことが分かったことに端を発した。

彼女は松本市のソープランドで働いていたことが判明し、とたんにエイズ・パニックが引き起こされた。

マスコミは彼女を抱いた男たちを追跡したり、外国人女性が銭湯で拒否されたりした。

エイズの女性は夜の世界ではごく身近な存在である。男がHIVに感染したとしてもそれは自業自得の類なのだ。男たちは危険な女を通して自分の死をもてあそぶような人生を生きている。

死を目の前にして、人が冷静でいられるのかどうかは分からない。

たぶん、自分の人生が本当にこれでよかったのかと、後悔のひとつはあるに違いない。

破滅というのは、一気に来るのではない

最初から何も持っていなかった人間は強いが、何かを失った人間は気落ちして弱くなる。

自分の快楽が抑えられなかったせいで社会の底辺に転がり落ちたり、死が迫ったりした人間には特に社会の冷たさが身に染みるはずだ。

その過程で、借金を背負ったり、家庭を失ったり、仕事を失ったりすることもあるだろう。社会のレールから脱線したとき、人は気落ちして弱くなる。

タイの女性に金を散財したあげくに金を失って、住み込みの仕事をしなければならなくなったという男の話もよく聞く。

実際にそうなってしまった男を知っている。彼は金が貯まったら、再びタイに行って同じ事を繰り返す。

破滅というのは、一気に来るのではなく、そういう生活を繰り返すことによって、最期ににっちもさっちもいかなくなって追い込まれるということだ。 習慣性の地獄なのである。

女にすべての金を注ぎ込んで破滅するというのは、なるほど思い切りがよくて見事だとは言えるかも知れない。しかし、そのあとの、底辺でもがく生活は美しくない。

フィリピンの女に惚れて、退職金を持ってフィリピンに移住したものの、家と金を取り上げられて大使館前に捨てられたという男がいた。

女のしたたかさよりも、男の哀れさの方が印象に残る事件だった。もちろん、それも決して美しいものではない。

それが明日の我が身だと思うと、なおさら破滅の美学を気取って他人事のように構えることもできない。

誰でも破滅は回避したい。しかし、夜の熱い女たちに惹かれていると、いずれ破滅するのは時間の問題ではある。

刑務所で知ることになる

世の中には、もともと自滅傾向のある男がいる。女と麻薬で自滅を加速させる姿も何度も見ている。麻薬と女は、どちらも自堕落な人間を強烈に惹きつける。

もともと自滅志向の男は、目先のことしか考えられないので、魑魅魍魎が渦巻く夜の世界では、簡単にカモにされてしまう。

そうでなくても彼らは自分から墓穴を掘って自滅する。金をばらまくように使ったり、未成年と付き合ったり、これ見よがしに麻薬を摂取するからだ。

しかし、それを見て教訓を得ようとする人はいない。教訓どころか、それはすぐに忘れ去られて、別の破滅型の男がその席を埋める。

カンボジアでは延々と逮捕される日本人のニュースが続いていたことがあった。この国はドラッグと児童売春が吹き荒れていた闇の時代があったのである。

しかし、時代が変わり、カンボジア政府は国からドラッグとセックスを一掃する決意をした。

そんな世の中の変わり目を理解できない男が多かった。そんな男たちが片っ端から逮捕されていく。週刊誌で逮捕写真付きで「国辱」と罵られた男さえいた。(ロリコン犯罪(2)逮捕者が続出していたカンボジアの暗部

しかし、何十人も逮捕されているのに、なぜか危険が分からないのである。愚かだと形容する以外にない。さぞかしプノンペン警察はもらえる賄賂の額を計算しながら喜んだに違いない。

日本人を逮捕したら金になることをプノンペン警察はすでに知っていた。そして、NGOは警察に密告するルートを作り上げている。

それが何を意味しているのか分からない男は、刑務所で知ることになった。

夜の闇を知ってしまった男

フィリピンでは日本人で初の死刑囚になったのは、鈴木英司氏だった。彼は夜の女から麻薬入りの土産品を渡され、「何も知らないまま」それを運んで空港で逮捕された。

悪意を持ったプロの女がワナをしかけたら、男には勝ち目がない。

鈴木英司容疑者はモンテンルパ刑務所で無罪を主張し続け、何とか逆転無罪を勝ち取って日本に戻ることができた。

しかし、失われた人生は戻ってこない。時計の針を戻すことはできないからである。

もしフィリピンで女性を連れ込んで逮捕されたとする。そして女性のバッグの中から麻薬が発見されたとしよう。

腐敗したフィリピンの警察の担当者は、恐らく「これは金になる」と考えるだろう。

「女性のバッグの中から麻薬が見つかった」のではなく、「ホテルの部屋から麻薬が見つかった」という拡大解釈的な報告をするだけで、男から金を絞り取ることが可能になる。

腐敗した世界では悪意が渦巻いている。

もっともいい解決方法は、危うき場所、つまり欲望の街には近寄らないことだ。しかし、夜の闇を知ってしまった男は、繰り返しその地を訪れ、ついにそこに巣食うことになる。

そんな中で、借金を背負ってまでひとりの女に貢ぐ男も数人知っている。いつの間にか、筋金入りのハイエナになってしまった男も知っている。

一度はまりこんだら容易に抜け出せないのがこの世界の特徴でもある。だから、多くの男が行き着くところまで行って、最後に自滅する。

騙されるのは避けられない

” No Money,No Honey”(金の切れ目が縁の切れ目)

夜の女たちは冗談めかして言うが、それは「鉄の掟」である。金がなければ、欲望の街に入場する資格すらない。

まずは、捨てる金がなければならない。捨てる金がないのにそこにいるのならば、それが破滅の確実な引き金となる。

男は自分の金をすべて捨てる覚悟をしなければならない。もともと、金には執着がない男が生きていける。

そこでは女が欲しいと言えば正当な金を払う必要があるからだ。それは理不尽な額であることも多い。あるいは、騙されてむしり取られることも多い。

騙されて金を取られるのは悲しいことだが、すぐに忘れるようにしないと生き抜くことはできない。

もちろん、うまく立ち回るのも必要だ。しかし、騙されるのは避けられない。覚悟しておくべきだ。

覚悟しておけば、実際に騙されてもそれを受け入れられる。気が楽でいい。

うまく立ち回ることばかり考えていると誰も信用できなくなる。また、いざ自分が騙されたときに誰かを憎むはめになる。憎むべき人が増えてしまうと、そこには居づらくなる。

この世界では、そういうものだとあきらめることも必要なのだ。騙されることに対して免疫が必要だ。盗られた金にいつまでも未練や怒りが残る性格は、生き残ることはできない。

6,000円で、実刑判決12年

欲望の街というのは金を捨てる場所だ。女に捨てるのか、それとも奪われて失うのかの違いはある。しかし、金が消えてなくなるという結論は同じだ。

盗られてもダメージが残らない程度に防衛しておけば、あとは何とかなる。

しかし、失った金に対して寛大でいられるのは、貯金のある間だけなのだろう。

持ち金がどんどんなくなってしまうと、熱い身体を持った女たちの肩を抱いて酒を飲みながら、次第に焦燥感に駆られていく。

欲望の街で享楽的な生活を覚えた男たちは、だいたいはカタギの仕事など面倒くさくてやってられないと頭から拒否する傾向がある。

だから、遅かれ早かれ軍資金が足りなくなるのは目に見えている。そのうち生活費すら事欠くようになる。

そこで、何か一攫千金のような商売はないかと捜し回るか、手っ取り早くあぶく銭を手に入れられないかと考えることが多い。

インターネットで妙な商売をはじめたり、日本人相手に欲望の街ガイドをしながら食いつないだりするうちは、まだ真っ当な生き方を模索しているようでそれなりに好感が持てる。

しかし、違法すれすれのいかがわしい写真や動画を売りさばくようになったり、右も左も分からない旅行者を相手に詐欺を働いたり、他人のものを盗んだりすることしか思いつかない男たちもいる。

いや、そこまで彼らは追いつめられてしまったという言い方もできるかもしれない。

中には睡眠薬強盗をして逮捕された日本人もタイにいる。

月本恵一という男は30歳までタイで無職のまま過ごしていたが、そのうちに金に困るようになった。

そこで、この男は、日本人観光客に近づいて睡眠薬入りのコーヒーで相手を眠らせて現金を奪ったのだった。

結局、逮捕されて懲役12年の刑を受けることになるのだが、彼が奪った現金というのは6,000円だった。

愚かだし、馬鹿げているのは確かだが、そうでもしないと生きていけないと彼は思いつめ、追いつめられていたのだろう。

死にたくなった理由が分かった

欲望の街では女たちを追いつめているのと同時に、そこで金を失う男たちをも追いつめる。ビジネスに身を投じることもできず、かと言って他人を騙すこともできない。

苦悩したあげくに追いつめられ、自殺するのだ。

あるとき、スクンビット通りでひとりの日本人が寂しい生涯を終えていたのが小さなニュースになった。

首つり自殺だった。場所はスクンビット通りの横道にひっそりと建っている「ビジネス・イン」という名の安ホテルだ。

今では新館ができて居心地のいい清潔な部屋を提供しているが、当時は薄汚れた旧館しかなかった。

52歳の日本人がそこで首を吊って死んだ。

このホテルは歓楽街の中心に位置している。テルメにもナナ・プラザにも近い。ソイ・カウボーイに歩いて行くのもいい。女たちと遊び回り、ホテルに連れ込むには最適な場所だと言っていい。

自殺した男が最後に選んだ死に場所はいったいどんなホテルだったのか。

あるとき、その旧館の「ビジネス・イン」に泊まってみた。

名前からして、コンパクトにまとまった小ぎれいな部屋だと思ったのだが外れた。築30年の汚れが、壁や、洗面所や、天井や、カビ臭い部屋の臭いに堆積していた。

洗面所には小さなゴキブリが這い回っている。煤けた鏡に映る自分の姿は陰鬱だったし、部屋は暗かった。彼が死にたくなった理由が分かったような気がした。

陰鬱な空気の中には、人を死に向かわせる毒のようなものが含まれていて、それが死に向かって人を突き動かすのである。

男たちの怨念や寂しさが身に染みた

プロの女に興味がなければこの場所を選ばない。かといって、金がないから他のいいホテルには泊まれなかったのだろう。

スクンビット通りのビジネス・イン(旧館)は、確かにヤワラー地区よりはマシなのは違いない。

しかし、この地区のまわりのホテルから見ると、明らかに場末であり、安物だった。場末の雰囲気というのは、人を荒んだ気持ちにさせる。

女に取り憑かれ、金を失った男が行き着く先は、そんな場末の場所でしかなかった。

うらぶれた安ホテルの一室で、男がどのように自殺したのか検証していた。

ちょうど首を吊るにちょうどいい梁があったが、高さがそれほどない。自殺するには自分の足で立ち上がらないという決意が必要だ。

そこで、男は浴びるほど酒を飲んで恐怖心を麻痺させてから首を吊ったのだ。

酔って立てないようにして、男は絶命した。

すぐ近くの「マンハッタン・ホテル」でも29歳の日本人の男がチェックインした8日後に自殺した。それ以降、マンハッタンでは幽霊が出ると噂が立つようになった。

男が死んだホテルの部屋で寝転がって天井を見ながら、欲望の街で破滅した男たちの怨念や寂しさが身に染みた。

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