堕落と退廃の極み、フィリピン・アンヘレスのフィールズ通りをぶらぶらと歩いているときだった。横から一人のドア・ガールが声をかけてきた。
「どこに行くの? 中に入りなさいよ」
人なつっこい目だった。優しい感じの瞳と、清潔な着こなしは好感が持てたが、その顔立ちに驚いた。まだ若かった頃、よく話していた日本の女友達とそっくりだった。|醸《かも》し出す雰囲気も、まぶしそうにこちらを見つめる目つきも、体つきも、いろんなものがよく似ていた。
カミールというのが、彼女の名前だった。
昔の女友達に似ている彼女に惹かれた。
売春地帯をさまよい歩いていると、ときどき「誰かと似ている」と思わせる女性に会うことがある。そういう女性と出会うと、思わず見つめずにはおられない。
もちろん、瓜ふたつというわけでもなければ、完全に一致しているわけでもないのだが、全体的にあらゆるものが似ている女性がいるのである。
カミールも、本当にそうだった。
彼女はフィリピーナで、特に日本人に近いというわけでもない。人種も生き様も住んでいる場所も世代も違う。それなのに、カミールとその昔の知り合いだった日本人女性は、そっくりの雰囲気があった。
懐かしい人なつっこさ。懐かしい柔和さ。
長らく会っていない人に会った……。彼女を見つめていると、そんな感情すら湧いた。
日本人の「知り合いの女性」は、まだ日本女性とも恋愛感情を持てた若い頃に、よく話をした年上の人だった。
小鳥に関係する仇名(あだな)が彼女の呼び名だった。タイ女性で言えば、さしずめ「ノック」という名前になるに違いない。
(インターネットの闇で熱狂的に読み継がれてきた売春地帯の闇、電子書籍『ブラックアジア フィリピン編』にて、全文をお読み下さい)

この記事を読んで心地よく、幸せな気分になりました。無意識に昔の女性を思い出す事はよくあります。まだ会った事がありませんが、もし一番夢中になった女性とそっくりな人に巡り会ったらそれだけでどきどきすると思います。色んな衝動に駆られてしまいそうですけど…
二度と現実化しない甘酸っぱい思い出と、目の前の現実とが交錯する瞬間。
自分の人生の節目となる、奇跡的な出来事ではないでしょうか。
傾城さんの実体験に基づいた私小説的な内容ですね。
私が入会してからはお見かけしない文章です。
ご自身の経験に基づいて丁寧に紡ぎ出された文章は、記事ではなく、「作品」です。
思わず自分を重ねてしまいます。