ベネズエラの壊滅的な国家混乱はアンダーグラウンドで何を生み出すか?

ベネズエラの壊滅的な国家混乱はアンダーグラウンドで何を生み出すか?

ベネズエラについては、しばしば書いているのだが、状況はますます悪化し、混沌としている。(ブラックアジア:インフレ率は100万%。ベネズエラはもはや国家崩壊したも同然の国だ

ベネズエラは資源国家であり「石油」が出る国なのに、停電がしばしば起きて電気が来ても配給制となった。電気が来ないのであれば、インフレ対策で取り入れられた仮想通貨も使えないし、携帯電話すらも使えなくなる。

国民は飢えて野垂れ死ぬか、何も持たないで周辺国に密入国してどん底を味わうかの二者択一になってしまっているのだ。

特権階級以外は誰もカネを持たないので、売春ビジネスですらも成り立たなくなっている。売春すらも成り立たない国になったというのは、想像を絶する世界だ。それが今のベネズエラである。(ブラックアジア:地獄に堕ちた女たち。ベネズエラで売春さえも成り立たなくなった理由

こんな状況になっているにも関わらず、ニコラス・マドゥロ大統領は依然として権力の座に居座り続けるつもりなので、ベネズエラの混乱はまだ続くかもしれない。

では、最終的にベネズエラはアンダーグラウンドで何を生み出すのだろうか。この混乱の中で生まれるモノに、私は少し寒気を感じるものがある。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。

自国通貨が吹き飛んだら高級自動車

国家破綻(デフォルト)すると、どういう状況になっていくのか。

国の借金が返せなくなってデフォルトを起こすと、まず貨幣の価値が暴落していく。通貨の価値がなくなるのだから、それは制御できない暴落になる。当然、インフレが起きるが、そのインフレというのは10%や20%ではない。

ベネズエラを見て分かる通り100%、200%、300%と価格が上昇し、歯止めが効かなくなると、10万%、20万%、30万%と繰り上がっていき、100万%や200万%という想像を絶するハイパーインフレになっていく。

紙幣価値が毎日「目が覚めると消えていく」のだから、誰もが真っ先に考えるのは無価値になっていく自国の通貨を現物に換えることだ。

ゴールドやダイヤモンドのような貴金属に人々は殺到する。それだけでない。高級自動車も売れることがある。裕福な人が楽しみで買うのではなく、通貨よりも高級自動車の方が自国通貨よりも価値が残るからである。

それは個人の精一杯の資産防衛なのだ。

しかし、そうやって資産を防衛しても、人間には生活がある。何とかして日々の生活を乗り切らなければならない。とにかく通貨が見る見る無価値になっていくので、明日のミルク、明日のパンを買うために、誰もが銀行に殺到して金を引き下ろす。

国が崩壊した時、パニックにとらわれた人たちが我先に預金を引き出そうとして銀行の窓口に殺到する姿は崩壊国家ではお馴染みだ。どこでも国がデフォルトした瞬間、銀行に殺到する人々の姿が見られるようになる。

行列ができ、大混乱が続き、それが報道されるとさらに多くの人が蒼白になってさらに銀行に殺到する。当然、銀行は殺気立った人たちのすべてに対応できないまま店を閉めざるを得ない。

ここからパニックが起きる。取り付け騒ぎが起きて政府の対策が後手後手になると、銀行は持たない。あっと言う間に手持ちの現金を失い、機能停止して潰れていく。

 

ベネズエラで起きている暴動。ベネズエラは資源国家であり「石油」が出る国なのに、停電がしばしば起きて電気が来ても配給制となった。電気が来ないのであれば、インフレ対策で取り入れられた仮想通貨も使えないし、携帯電話すらも使えなくなる。

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国家破綻した国で地獄が再現する

無価値になる紙幣を一刻も早く物に変えなければならないので、食料品は一瞬にして買い占めに合う。残った商品も売り惜しみで一挙に値段が暴騰していく。

品物の値段は2倍でも3倍でも、いくらでも上がっていく。それで済めばいいほうだ。10倍、20倍にもなっていくことも普通にある。どんな値段になっても、人はそれを買うからだ。

これは決して珍しい現象ではない。1945年の日本は敗戦して何もかも失った。そのあとにやってきたのはハイパーインフレだった。昭和21年には預金封鎖も起きた。新円切り替えも起きた。

かつて世界はそういったハイパーインフレを何度も経験してきている。ドイツでも、日本でも、アルゼンチンでも、ロシアでも、ジンバブエでも、あちこちの国でそれが起きた。

現在、これが起きているのがベネズエラである。

破綻した国家に残されるのは価値のない紙幣なのだ。国が機能停止して銀行の取り付け騒ぎが大規模に起きると、翌日にはすべての銀行から1ドルも引き出すことができない事態になる。

仮に引き出せたとしても、それで物を買おうとしたら、すでに目の前で品物が大暴騰していて何も買えない。

これは、私たちが売る方の立場になって考えてみれば分かる。今日売るよりも明日売るほうが100倍の値段がつくかもしれないのだから、売り惜しみをするはずだ。

ドイツ・日本・アルゼンチン・ロシアで起きた国家破綻とハイパーインフレを見ていくと、それは必ず起きている。

たとえば、1998年の国家破綻したロシアではどうなったのか。寒さに凍えた老夫婦が紙くずになったルーブル紙幣を焼いて暖を取り、やがて燃やす紙幣がなくなるとふたりで頭を撃ち抜いて死んでいった。

 

ベネズエラで起きている暴動。破綻した国家に残されるのは価値のない紙幣なのだ。国が機能停止して銀行の取り付け騒ぎが大規模に起きると、翌日にはすべての銀行から1ドルも引き出すことができない事態になる。

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国家崩壊が闇の中で生み出すものとは?

国家破綻が起きると、それからは「物が買えない、金がない」の問題ではなくなる。社会秩序が吹き飛んでいく中で、文字通り生きるか死ぬかのサバイバルになる。

誰もが仕事などしている場合ではないから、会社はつぶれ、流通がとまり、失業者が溢れ、治安も崩壊する。政府はあってなきが如くの状態になる。

そんな中で、かろうじて機能している中央銀行は、ハイパーインフレと狂乱物価の混乱をなんとか押さえようとする。どのような手があるのか。

ハイパーインフレに対応した新紙幣を発行して、旧紙幣を廃止する。

当然、旧紙幣と新紙幣の交換は無効になるので、その瞬間に旧紙幣はゼロ価値になる。紙くずである。紙幣は紙くずになり、紙くずをいくら持っていても何の意味もない社会になる。金がモノを言わないのであれば、何がモノを言うのか。

台頭するのは「暴力」である。

日本人はもう忘れているかもしれないが、日本の暴力団は、1946年から1950年のハイパーインフレの時代に、次々と巨大化していったのだ。日本の無条件降伏=国家崩壊が、暴力組織を生み出した。

ロシアでも共産体制の崩壊から国家崩壊の時代に、ロシアン・マフィアが台頭し、それがロシアのアンダーグラウンドを暴力で染めていった。

メキシコも1982年と1994年に経済破綻しているが、それからどうなったのかというと、世界でも最凶だと言われているドラッグ・カルテルを生み出す元になっていた。(「殺戮大陸メキシコの狂気」史上最悪の犯罪組織

カンボジアでは1970年からベトナム戦争に巻き込まれてロン・ノル政権時代に経済破綻して行ったが、そこで台頭したのが超暴力主義のポル・ポト軍だった。

第一次世界大戦後のドイツのハイパーインフレは何を生み出したのか。ナチスである。ナチスは暴力主義(ファシスト)の政権であり、結局ヨーロッパはナチスに翻弄されて世界を巨大な暴力に巻き込んでいった。

国家破綻が最終的に生み出すのは「強力な暴力組織」なのである。

このことを思うと、これからベネズエラのアンダーグラウンドで何が台頭してくるのか、だいたい予測がつくはずだ。ベネズエラには、時代を変えてしまうほどの「暴力組織」が誕生する土壌が十分に整っている。

誰も制御できないほどの「暴力組織」がベネズエラのアンダーグラウンドで生まれても、私は驚くことはないだろう。(written by 鈴木傾城)

 

ベネズエラで起きている暴動。これからベネズエラのアンダーグラウンドで何が台頭してくるのか。誰も制御できないほどの「暴力組織」がベネズエラのアンダーグラウンドで生まれても、私は驚くことはないだろう。

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