◆パプアニューギニアの劣悪な環境の中で売春をしながら生きる女性たちの現状

パプアニューギニアという国がある。インドネシアの東側にある国だ。人口は約688万人ほどで、広さは日本の1.5倍なのが意外に大きな国である。そこには、深く険しい人跡未踏の山々と、凄絶なまでに美しい海がある。

ただし、そこは「地上の楽園」でも何でもない。

特にパプアニューギニアの首都ポートモレスビーは、貧困と暴力が渦巻く地獄でもある。最近も、パプアニューギニア関連の記事で目を惹いた事件があった。

ポートモレスビー周辺に位置するバルニ(Baruni)居住地で、若い女性が誘拐・集団強姦・殺害されるという凄惨な起きていたのだ。

このバルニ居住地というのは貧困層が勝手に住み着いた治安の悪いスカッター(非公式居住地)地区である。被害者は32歳の女性だったが、彼女は早朝に複数の男たちによって空き地に連れ出され、数十人に暴行を受け死亡した。

容疑者は20人以上に及ぶとされ、一部報道では18歳から29歳の男性6人が起訴された。この事件を受けて、警察と政府はバルニ地区に対し大規模な強制立ち退きと住宅破壊を実施した。

ひとりの女性が拉致されて数十人の男たちに次々とレイプされて最後は殺されるというのだから相当ひどい事件なのだが、ポートモレスビーは暴力にまみれた都市であり、こういう事件が多発しているのは憂慮すべき事態だ。

ポートモレスビーでは急速な都市化と人口増加により、スカッター(非公式居住地)と呼ばれる無許可の住宅密集地が拡大している。研究機関の報告では、都市住民の少なくとも半数がこうした計画外の居住地に住んでいるとされる。

バルニもそのひとつで、主に中央州ゴイララ地区出身の移住者が長年にわたり住み続けてきた地域だった。勝手に住み着いているので、インフラは整備されておらず、電気・水道・下水といった基本的設備は欠如している。

こうした環境の中で治安の悪化が進み、殺人事件やレイプ犯罪が頻発しているのが実情である。

膨大な貧困層がスカッターに暮らすことに

貧困の中での売春も盛んで、首都ポートモレスビーは売春の温床となっている。彼女たちもまた安全な場所で売春ができているわけではなく、男たちから暴力行為を受け、警察官にまでレイプされている。

身体を売る女たちは、ストリートだけでなく、バーにも、鉱山にも、伐採エリアにも、あらゆるところにいる。

実はパプアニューギニアは地下に大量の資源が眠る国であり、そういう意味では「豊かな国」でもある。金、銅、石油のような地下資源が豊富で、開発されていけば莫大な富がこの国から産出される。

だが、現地の人たちにその富が回ることはない。なぜなら、彼らは多国籍企業にほんのわずかな金で土地を売り渡して、それで終わりになるからだ。

私たち先進国の人間たちにとっては10万円や20万円は端したカネだが、そんなカネも彼らにとっては信じられないほどの大金である。彼らは安値で土地を売り飛ばしたとは思っていない。

だが、その土地の下に莫大な地下資源が眠っていることを考えると、タダでくれてやったようなものである。その土地の下にある地下資源は何千億円、何十兆円もの収益を生み出すが、すべて多国籍企業に持っていかれ、彼らには回らない。

地下資源のアクセスから追い出された現地の人々は、もらった金が切れると住む土地も家もなくなった状態となり、貧困の中をさまよい歩く。豊かな自然、豊かな土地があったとしても、それはもう彼らのものではない。多国籍企業のものだ。

そのため彼らは首都ポートモレスビーに集まってそこで何か仕事でも見つけようとするのだが、貧困国にそんな都合良く仕事があるわけでもない。果物を売っても、そんなものはこの国のどこにでも自生している。

海産物を売っても誰でも取れるのだから、たいしてカネになるわけでもない。

かくしてポートモレスビーを取り囲むように、スカッター(非公式居住地)が立ち並び、膨大な貧困層がそこに暮らすようになる。

治療が必要な貧困層が病院にいかない

パプアニューギニアの貧困率は人口の39.9%と言われているが、依然としてこの国の人々は「極度」の貧困状態にあると言っても過言ではない。

この貧困の中で女性たちも暮らしているが、パプアニューギニアは女性とって非常に苛酷な国である。貧困、虐待、性暴力。今もパプアニューギニアには女性が犠牲になり続けている。

パプアニューギニアには家庭内暴力、虐待、性暴力が満ちあふれているが、15歳から24歳までの女性のうち、3分の2は生きていくために身体を売ったことがあるという信じがたいデータもある。

国連が言うので数字には信憑性はあまりないのだが、生活のために売春ビジネスが蔓延しているという事実はあちこちで取り上げられているので、数字はともかく売春が多いのは間違いのない事実でもある。

パプアニューギニアでは「男の暴力」がモノを言う世界であり、女性の発言力は弱い。セックスワーカーなら、なおさらだ。彼女たちの多くはコンドームを使って欲しくても使ってもらえない現実に直面している。

そのため、この国もまた例に寄らずセックスワーカーはHIVやエイズにまみれている。あまり知られていないが、この国は太平洋地域において HIV感染者数・有病率ともに、もっとも高い国のひとつである。

地域全体のHIV報告例の95%以上をパプアニューギニアが占めるような惨憺たる状況だ。そのためによけいにセックスワーカーたちは差別や排除や暴力の対象にされている。

しかも悪いことに、彼女たちの中に病院にいくことや治療を受けることを拒絶する層が3分の1以上もある。どこの国でもそうなのだが、病気になって一番治療が必要な貧困層が病院にいかないという傾向がある。

なぜなら、病院にいけばカネがかかるからだ。

せっかくセックスワークで得たカネを病院で使ってしまったら、稼いだ意味がない。多少具合が悪くても我慢する。そのため、貧困層の女性であればあるほど病院にいこうとしない。

そのため蔓延しているのはHIV・エイズだけでなく、他の性病もまた同様だ。あらゆる性病がパプアニューギニアで広がっている。

1回あたりのセックスは日本円で数百円

この国のセックスワーカーは、誰からも関心を持たれることもなく、救いがあるわけでもなく、レイプ・性病・暴力・予期せぬ妊娠という危険の中で生きている。そして、彼女たちの存在は誰からも見つめられることもなく、闇から闇に消されていく。

かと言って、セックスワークから離れたら極貧に落ちるのみだ。

パプアニューギニアの女性にとって、貧困は単なる経済的困窮ではない。生きる条件そのものが奪われた状態であるとも言える。教育へのアクセスは制限され、農村部では初等教育すら修了できないまま結婚を強いられている。

都市に逃れたとしても、待っているのはスラム化した非公式居住地である。バルニ居住地だけでなく、どこも水も電気もない湿った地面に、トタンと布で囲った仮設の小屋が立ち並び、そこに家族が押し込められている。

仕事はなく、物乞いとセックスワークだけが現実的な収入源である。ただ、1回あたりのセックスは数キナ、日本円で数百円程度でしかない。身体を売って豊かになれるわけではない。

ポートモレスビーの夜は犯罪が渦巻く危険地帯である。その市場跡や港湾の裏通りに女性たちは立っている。警察の取り締まりがあっても、それは保護ではなく暴力の延長にすぎない。

レイプ、ワイロの要求、拘留中の虐待が国際機関の報告書に記録されている。

女性たちは自らの身体を「罰金」として差し出すしかない。あきれたことに、コンドームを所持していたという理由で逮捕されることもある。さらに客としてやってくる男もコンドームを嫌うので感染防止策さえままならない。

ピルなんか飲んでいる女性はほとんどいないので、妊娠の心配は常につきまとう。それが彼女たちの置かれている現状でもある。貧困と搾取の循環の中に埋もれ、彼女たちは地獄に堕ちる。

都市に逃れたとしても、待っているのはスラム化した非公式居住地である。バルニ居住地だけでなく、どこも水も電気もない湿った地面に、トタンと布で囲った仮設の小屋が立ち並び、そこに家族が押し込められている。

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