優しさに満ちた日本もまた「邪悪」に覆い尽くされる社会になっても私は驚かない

優しさに満ちた日本もまた「邪悪」に覆い尽くされる社会になっても私は驚かない

「優しさ」が社会の根底にある日本で生きていると想像すらもできないかもしれないが、災害や暴動によってエリアが無法化するたびに、略奪・暴力・レイプ・犯罪が吹き荒れて社会が騒乱になる国や場所もあるのだ。ひとたび法と秩序が吹き飛ぶと、人々がここぞとばかりに略奪と暴力に走る。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

優しさの「深さ」や「範囲」を問題にする人もいる

優しさの深さは人によって違う。ホームレスに小さなお金をそっと差し出すまでが限度の人もいれば、ホームレスのために食事や住居を与え、更生できるまで尽力するところまでする人もいる。

また優しさをかける範囲も、人によって大きく違っている。自分の子供にしか優しさをかけない人もいれば、友人や顔見知りの人にも優しさをかける人もいれば、見知らぬ人ですらも優しさをかける人もいる。

優しさの深さや範囲は人によって異なっているのだが、それでも多くの人は自分以外の誰かを助けるという気持ちを持っているのは間違いない。相手の立場になって考えることができるのだ。

優しさの深さや範囲を問題にする人もいる。しかし、それは間違っている。そうではなくて、そうした優しさを持っていること自体が重要なのだ。

どこかで災害が起きて莫大な被災者が助けを求めている時、一番に駆けつけて黙々と復興支援に手を貸す人たちも夥しくいる。駆けつけることができなくても、募金や寄付で少しでも何とか役に立てるようにしたいと行動する人もいる。

どの行動も美しい。こうした人たちがいるから、社会はうるおいがある。

いま世界のあちこちで巨大な災害が次々と発生していて、そのたびに被災に遭った現場では大きな犠牲が生まれている。地球の環境は過酷になってきており、以前には考えられなかったスケールの自然災害が起きている。

大きな地震、吹きすさぶ暴風雨、強烈な熱波、豪雪……。そのどれもが、かつては考えられないようなスケールなのだ。これから私たちはいつ、こうした災害に巻き込まれるのか分からない状況にある。

常にこうした優しさや助け合いが発揮できれば素晴らしいことなのだが、人間社会はとても複雑で常により良い行動が見られるわけではない。

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災害が起きるたびに騒乱になる場所もある?

日本人は被災者を見捨てない国民性がある。「困ったときはお互い様」「助け合いの心」を自然に発揮し、それを当たり前だと思う「優しさ」が社会の根底にある。

だから日本は数々の災害に遭っても不死鳥のように蘇ってきた。(ダークネス:大災害に見る日本人の真の能力。日本人の真骨頂は戦いに勝つことではない?

しかし、これらのものは全世界が共通して持ち合わせているものではない。そして、常に機能するものでもない。

何らかの大きなトラブルで他人が苦しんだり困っているのを見ると、何とかして助けてあげたいと思う心の優しい人がいる反面、他人の不幸を嘲笑ったり、他人の苦境に喜んだりする人もいる。

東日本大震災が起きていた時、被害に遭った地域の人を指して「そのまま沈没しろ」「天罰だ」と嘲笑い、「地獄に落ちろ」と罵った外国人もいた。日本を指して「国民性が悪いから天罰を受けているのだ」と嘲笑って日本の苦境を喜ぶ外国人もいた。

善良である人たちがいる反面、邪悪な人間も一定数存在すると日本人が思い知った瞬間だった。

自身だけでなく法と秩序が吹き飛ぶ事態が起きた時、そこに乗り込んで火事場泥棒のような真似をしたり、略奪やレイプをしたりする冷酷な集団もいる。

彼らは他人が苦しんだり困っている姿が深刻であればあるほどサディスティックに嗤(わら)う。「もっと苦しんでる方が面白い」「もっと悲しんでいる方が楽しい」と考えるのだ。

あるいは、警察能力が消えた空白を狙って犯罪を引き起こす。「弱っている相手を叩きのめして奪える」「どさくさに紛れて略奪して得する」と利己主義な論理で行動するのである。

自分を相手の立場に置き換えて考えることができない。他人の苦しみや悲しみに同情することができない。他人が困っている姿を見たいという邪悪な心さえも持つ。そして自分の利益だけしか考えない。

1999年のカンボジアの売春地帯では何があったのか。実話を元に組み立てた小説、電子書籍『スワイパー1999』はこちらから

警察と司法が強いので「仕方なく」法と秩序を守っていた

こうした邪悪な心を持った人たちを見ると、私たちは世の中の深淵をのぞいてしまったような気持ちになってしまう。「助け合い」が当たり前だと無意識に考える日本人は、ことさらそうした念を強く持つのかもしれない。

しかし、世界は優しさよりも利己主義が蔓延しているのが普通だ。

「優しさ」が社会の根底にある日本で生きていると想像すらもできないかもしれないが、災害や暴動によってエリアが無法化するたびに、略奪・暴力・レイプ・犯罪が吹き荒れて社会が騒乱になる国や場所もあるのだ。

ひとたび法と秩序が吹き飛ぶと、警察が機能しているから犯罪行為を抑えていた人たちがここぞとばかりに略奪と暴力に走る。そうした人々が「集団」で存在すると、一瞬にしてその場が無法地帯になってしまうのだ。

日本では災害が起きても暴動・略奪・強盗・暴力・殺人・レイプが吹き荒れることがないので世界から賞賛される。

それが賞賛されるのは、世界はそうではないことの裏返しなのである。世界は災害のたびに暴動が起こってしまう。途上国も先進国も関係ない。2010年にハイチ大地震が起こったのだが、その時に首都ポルトープランスで凄まじい略奪が吹き荒れたのを覚えている人もいるはずだ。

その時の光景はブラックアジアは記録に残している。(ブラックアジア:略奪の都市となったハイチ。無法地帯に略奪者が闊歩する

アメリカでも、何か起こるたびに暴動が起きたり略奪が始まったりする。最近ではBLM(Black Lives Matter)の抗議デモが吹き荒れた時、デモは過激な暴動となり、街が燃え、銃撃戦が起き、略奪が広範囲に広がったのが記憶に新しい。

イギリスでもフランスでも変わりがない。法と秩序が吹き飛ぶと、一瞬にしてその場が無法地帯になってしまう。

人々は善良だから法と秩序を順守していたのではなく、ただ警察と司法が強いので「仕方なく」法と秩序を守っていたというのが分かる。先進国だから国民が洗練されているわけではない。

インドの貧困層の女性たちを扱った『絶対貧困の光景 夢見ることを許されない女たち』の復刻版はこちらから

現実主義者になるというのはどういうことなのか?

世の中は「きれい事」だけでは成り立っていない。場合によっては狂気が支配することもある。だから、優しさや助け合いを忘れないように持っておくのと同時に、嘲笑や利己主義をも社会の暗部には存在するということを同時に考えておく必要もある。

つまり、自分がトラブルに落ちた時、優しさどころか嘲笑を浴びせられることになる可能性もあるということなのだ。優しさや助け合いだけで世の中は成り立っていない。それはリアルではない。

現実には、善良なものと同時に必ず邪悪なものも存在する。

この「邪悪なもの」を意識して、どちらの存在もあることを認識するのが「現実主義者」であると言える。自分が邪悪になる必要はないが、邪悪の存在を意識しておくのは大切だ。

「自分だけが良ければそれでいい」「相手が不幸であればあるほど心地良い」「弱っている相手から奪いたい」と考える邪悪な存在は、必ず自分の眼の前に登場するものだからである。

「優しさ」ばかりが世の中だと思ったら裏切られる。しかし邪悪の存在を想定しておくことで、裏切りを見抜くことも対処も防御もできる。

そう考えると、「現実主義者になるというのはどういうことなのか」が分かってくるはずだ。現実主義者になるというのは、まずは世の中の裏側に渦巻く「邪悪を知る」ということなのである。

日本人は今まで幸運なことに「優しさ」が機能する社会の中で生きていくことが可能だった。しかし社会がグローバル化して日本国内の状況も急激に変化している。いつまでも優しさだけが機能する社会であり続けるとは言えない。

日本もまた「邪悪なもの」に覆い尽くされる社会になっても私は驚かない。

法と秩序が弾け飛んだ瞬間に、略奪・強盗・暴力・殺人・レイプが現場で吹き荒れるような国になってしまったとしても驚かない。

日本国内に政治から見捨てられた貧困層が溢れかえり、低賃金の奴隷労働のために連れてこられた外国人で満ち溢れ、政治が機能しなくなったら、いずれは邪悪さが吹き荒れていくだろう。

邪悪な世界の落とし穴
『邪悪な世界の落とし穴 無防備に生きていると社会が仕掛けたワナにおちる(鈴木 傾城)』

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