コロナで経済苦、政権と王室は堕落し、抗議活動で政治的混乱に陥っているタイ

コロナで経済苦、政権と王室は堕落し、抗議活動で政治的混乱に陥っているタイ

プラユット政権と王室はタイ民衆の「敵」となった。もしプラユット首相が今のような強硬なやり方を改めないのであれば、タイの抗議デモはいよいよ「暴徒化」していくことになる。タイの抗議デモはいったん起これば非常に長く続く。そして、タイの混乱を鎮めるプミポン国王はもういない。(鈴木傾城)

「新未来党」の躍進と挫折

タイが再び揺れ動いている。タイでは2014年の軍事クーデターによってプラユット首相が軍事政権を樹立した。この軍事政権は2019年5月まで続いたのだが、この時の総選挙で反軍政の議席が過半数に達しなかったので、結局はプラユット首相が継続することになった。

この選挙ではプラユット首相がタクシン派を押さえるために意図的に反軍政派が勝てないように、あらゆる仕組みを導入したことによって実に不透明な結果となって人々の間にしこりを残した。

事実、この選挙ではタクシン元首相派の「タイ貢献党」が躍進していたのである。タクシン元首相の影響力はいまだに地方で強く、タイの社会では国民が分断されたままであるということが露呈した。

つまり、プラユット首相は全面的に国民の支持を得ているのではなく、権力に固執するために選挙を歪めたというのが事実だった。

この2019年の時に凄まじい勢いで票を伸ばした政党があった。それが選挙数ヶ月前に結成された「新未来党」である。

この政党を率いるタナトーン・ジュンルンアンキット氏は40歳で、当初から明確に反軍政を訴え、デジタルエコノミーとテクノロジーを中心にした政権運営を政策にしていた。

この政党は従来の政党とはまったく違い、徹底的にインターネットとSNSを使った政党活動で若者の絶大な支持を得た。

プラユット首相はこの「新未来党」の躍進に大きな衝撃を受け、「資金の流れが不透明だった」と難癖を付けてタナトーンの議員資格を強引に剥奪し、「新未来党」の解党を命じたのだった。

プラユット首相の独裁の流れが成功したかのように見えた。しかし2020年10月現在、プラユット首相は「新未来党」を支持していた若者たちが率いる民主化デモで窮地に落ちている。

若者たちが率いる民主化デモ

ワチラロンコン国王という懸念

もし、タイ経済がプラユット首相の独裁下でも順調に経済成長していたら独裁の流れに不満に思いながらも、タイの人々はそれを受け入れたかもしれない。しかし、2010年代のタイ経済はそれほど目覚ましいものではなかった。

さらに2020年には悲劇が襲いかかった。

中国発コロナウイルスによって全世界の人々の流れが遮断され、観光立国で生きていたタイに甚大な経済的ダメージを与えることになったのだ。

観光に依存してきたタイにとって、これは私たちが想像する以上のダメージだった。一瞬にして250万人もの雇用が失われてしまったのだ。

8月の時点で、タイの2020年第2四半期の実質GDP成長率は前年同期比マイナス12.2%となっている。観光も貿易も止まり、人々の世帯収入も激減した結果、個人消費支出も前年同期比6.6%減となっていた。

この中で、失業や収入激減という経済苦の直撃を受けたのが若年層だった。不況になれば真っ先にクビを切られ、仕事がなかなか見つからない。どこの国でも若年層はそうした扱いを受けるのだが、タイもそうだった。

そして、コロナで経済苦に落ちているタイ人の神経を逆撫でした存在がある。

ワチラロンコン国王である。ワチラロンコン国王がどんな人物なのかは、すでに全世界が知っている。ブラックアジアでも何度も取り上げた。(ブラックアジア:タイ・ワチラロンコン国王の引き起こすトラブルで王室の権威は傷ついていく?

次々と配偶者を取り替え、ダンサーと結婚し、妻を素っ裸で踊らせ、20人の妾を引き連れてドイツに向かってハーレム暮らしをする。ヘソ出しのタンクトップとサンダルでドイツを練り歩いて全世界の笑い物にされる。

タイ国民が経済苦にあえいでいる中、ワチラロンコン国王はまったく国民に寄り添うこともなく、やりたい放題の生活を送っている。それだけでなく、王室資産を次々と個人名義に切り替えて贅沢三昧を続けようとしている。

ワチラロンコン国王は1年のほとんどをドイツで過ごすのだが、この滞在費はもちろん国家予算である。貧困で苦しんでいるタイの国民が、税金で、このとんでもない下劣な国王のハーレムと贅沢三昧を支えている。

映画『ハンガーゲーム』で、独裁者に抗議する主人公たちが見せた「三本指」の手振り。プラユット首相の独裁に反対するという意味である。
こんな格好でドイツのショッピングセンターを練り歩いて遊び回っているのがワチラロンコン国王。

マグマが噴火したような状態に

タイ人は王室を愛してきた。これはひとえに、どんな時でも国民に寄り添ってきた前プミポン国王が敬愛されていたからだ。慎み深く、清廉を好み、聡明だった国王がいたからこそ、タイ人は国家を愛し、王室を愛し、国王とタイを同一視した。

紛れもなく、プミポン国王は「国父」だった。しかし2016年10月13日、プミポン国王は崩御された。(ブラックアジア:タイのプミポン国王が崩御して王室の権威は崩壊するのか?

『タイがどうなるのかは誰にも分からない。しかし、プミポン国王が在籍していた頃と同じような安定感はもう望めない』と私は書いた。

このプミポン国王の喪失に不吉なものを感じたのは、もちろん私だけではない。人格者が去って、品性も何もない下劣を絵に描いたような人間が後を継ぐ。これで問題が起きないはずがない。

実は、ワチラロンコンが国王になってから不敬罪の適用が極度に増えて、ワチラロンコン国王を揶揄する人たちが数十年にも及ぶ実刑判決を受けるような事態が続いていた。プラユット首相も不敬罪を利用して、反体制派を摘発している姿もあった。

こうした状況の中、いよいよ2020年になって国民の不満は押さえられなくなり、押さえていた圧力を吹き飛ばしてマグマが噴火したような状態になった。

「コロナでタイ人が全員苦境に落ちた」
「相変わらずプラユット首相が独裁政治をしている」
「ワチラロンコン国王は遊びたい放題にある」

人々は4月からストリートに繰り出して「民主化しろ」「プラユット首相は退陣せよ」と叫び、さらには「王室を改革せよ」「不敬罪を廃止せよ」「王室の予算を削減せよ」と要求した。

タイ人は誰も「王室を根絶せよ」とは言っていない。ワチラロンコン国王のやりたい放題を何とかしろと言っている。

人々は4月からストリートに繰り出して「民主化しろ」「プラユット首相は退陣せよ」と叫び、さらには「王室を改革せよ」「不敬罪を廃止せよ」「王室の予算を削減せよ」と要求した。
「新未来党」のタナトーン・ジュンルンアンキット氏。彼の躍進が、プラユット首相を焦らせ、今の事態を招いている。

経済危機が目の前まで来ている

こうした若者が始めた抗議デモは大きなうねりとなって、今のタイを覆い尽くすようになっている。

しかし、今日までプラユット首相は徹底的に民主化デモを押さえつけ、対話も拒み、要求を聞く姿勢も見せなかった。むしろ、こうしたデモを力づくで抑え込もうとして、抗議デモの指導者を次々と逮捕していくのだった。

デモのリーダーはすでに20人以上が逮捕されている。

しかし、こうした政府の強権が発令されればされるほどデモはむしろ人々の支持を得ることになり、一度のデモで十数万人が参加するほどの大規模なものになっている。

10月14日、王室の関係者が乗った車列をデモ参加者が取り囲んで進行を妨げるという事件が起きた。これにプラユット首相は激怒し、翌日には非常事態宣言を発令することになった。

現在、タイでは5人以上の集会は禁止されている。しかし、民主化を求める人々はこうした政府の発令をまったく無視して今もなお大規模な抗議活動を繰り広げている。

警察が乗り込んでデモの参加者を片っ端から逮捕し、放水によってデモ隊を蹴散らしたのだが、この光景がSNSで拡散されたことによって、いよいよ人々の現政権への「怒り」が頂点に達して、よりデモ参加者を増やすことになった。

2020年10月15日の非常事態宣言から、プラユット政権はタイの民衆の「敵」となったということもできる。なぜなら、プラユット政権は「民衆の要求に聞く耳を持たない」ことを証明したからである。

もしプラユット首相が今のような強硬なやり方を改めないのであれば、タイの抗議デモはいよいよ「暴徒化」していくことになる可能性は非常に高い。タイの抗議デモはいったん起これば非常に長く続くのは、タクシン派と王室派の激突を見ても分かる通りだ。

すでにタイの混乱を鎮めるプミポン国王はいない。

中国発コロナウイルスによって観光も貿易も瀕死の状態に陥り、経済危機が目の前まで来ている中で、政治的混乱も発生しているのが今のタイだ。タイがどのような状況になってしまうのか私も固唾を飲んで見守っている。

『ハンガーゲーム』。今回のタイ民主化デモで見せている「三本指」のシンボルマークは、この映画から来ている。

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