
多重債務が増えると、貸す側も借りる側も双方が同時に不幸になる。貸倒率の上昇は貸金業者の経営を圧迫し、中小の低収益の事業者ほど不良債権の増加に耐えられなくなる。取り立てが苛烈になっていく。借りる側も生活がますます自転車操業になるとによって精神的にも追い込まれていく。(鈴木傾城)

プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。経済分野を取りあげたブログ「フルインベスト」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。連絡先 : bllackz@gmail.com
物価上昇でふたたび多重債務者が増加
低所得層がひたひたと追い詰められている状況が明らかになっている。金融庁によると、今年3月末時点で、多重債務者が147万人に増えたという。貸金業者から3件以上の無担保借り入れがある人は、2021年3月末の114万人から約3割増加だ。
この短期間の増加幅は近年の家計統計でも異例の動きである。
生活費の上昇が続いているが、実質賃金は厚生労働省が出している最新のデータで9か月連続のマイナスとなっているので、日常の支払いを補うための借り入れが増加したのが見て取れる。
総務省の消費者物価指数(CPI)は2024年の平均で前年比2%台後半の上昇が続き、食料や電気料金など基礎的な支出の負担が拡大している。食品インフレに至っては6%から7%、コメなんかは数年前から見ると150%以上の上昇になっている。
これでは低所得層が追い詰められても不思議ではない。特に単身世帯や非正規雇用者層で支出超過の割合が増えているのだが、彼らは足りなくなった生活費を補うためにカードローンを利用し、これが多重債務の入口になっているようだ。
実態は金融庁のデータ以上にひどい可能性もある。というのも、金融庁のデータベースは貸金業法の対象である業者の情報に限定されており、クレジットカードのリボ払い、後払いサービス、固定費の分割契約など、事実上の債務に近い支払い負担は反映されないからだ。
これらを含めれば、実質的に返済余力を超えて生活を継続している層は統計より多い可能性が高い。
多重債務が増えた背景には、借り入れの敷居が低下した点も挙げられる。オンライン申請や即日審査の普及により、数十分で複数社に申し込みが可能になり、以前よりも借金の増え方が急速になっている。
総量規制で年収の3分の1を上限とする仕組みは存在する。ところが、信用情報が反映される前に複数社へほぼ同時に申請すれば、実質的に規制をすり抜ける。借りまくる必要がある人は、そういう抜け穴を使っているようだ。
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借金に見えない借金も増えている
近年では、多重債務が一因とされる自殺者数も増加している。2024年の自殺者のうち、債務問題が背景にあるとされたケースは853人で、2021年以降増加傾向が続いている。債務問題が生活困窮と精神的負荷の双方で深刻化しているのだ。
とにかく物価上昇に追いつく賃金上昇が必要なのだが、賃金上昇は往々にして物価上昇に遅れるものだ。実質賃金は2022年から2024年まで3年連続でマイナスである。非正規雇用者などはなおさら賃金上昇が後になる。
この非正規雇用の割合は全労働者の約37%前後で推移し、パンデミック以降も構造的に高い水準が続いた。フリーランスやギグワークと呼ばれる働き方も増加し、収入が月ごとにばらつく層が厚みを増した。
このような人々にとって、臨時の収入不足を補うためのカードローン利用は日常的な手段になりやすく、結果的に複数社からの借り入れにつながりやすい。
現在はカネが借りやすく、借金に見えない借金も増えていきている。
サブスクリプション契約、リボ払い、BNPL(後払い決済)、スマホ端末の分割払いなどは、あまり借金とは意識されていないのだが、これらも立派な借金である。毎月、絶対に支払わなければならないものだ。
しかし、信用情報機関が把握するのは「貸金業法が適用される借り入れ」であって、これらはカウントされない。こういうのをカウントすると、低所得層の借金は実は実態以上に重いものになっているのだろうと想像できるはずだ。
この借金は信用情報機関も見えないが、うっかりしていると当の本人にも見えない。だから、利用者は「なぜかわからないけれどもカネがない」という状況になってしまい、返済限界に近づいていくことになる。
気づいたときは、もう返せない。金銭リテラシーのある人は収支をしっかり把握しているものだが、世の中はそういう人ばかりではない。自覚のないまま生活に追い詰められていく人のほうがむしろ多数派だろうと思う。
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そのストレスは24時間365日続いていくのだ
総量規制は、年収の3分の1を超える貸し付けを禁止する仕組みとして2010年に導入された。制度の目的は、過剰な借り入れによる生活破綻を未然に防ぐことであり、当時は一定の効果を発揮した。
だが、最近はどうだろうか。多重債務者増加を見る限り、この規制は現代の金融環境に完全には対応していないようにも見える。
オンライン型や中小規模の事業者は迅速性を重視し、負債情報が完全に更新される前の申し込みをそのまま受け入れる。特にスマートフォンアプリ経由の少額融資は、数分単位で審査が完了する。
そのため、スマートフォンで次々と借金を申し込んだら、総量規制に引っかからずにカネが借りられるのだ。もはや、総量規制は有名無実化しているとも言える。その結果として、「多重債務の増加」という現象がある。
多重債務が増えると、貸す側も借りる側も双方が同時に不幸になる。貸倒率の上昇は貸金業者の経営を圧迫し、中小の低収益の事業者ほど不良債権の増加に耐えられなくなる。そうすると、例によって取り立てが苛烈になっていく。
借りる側も生活がますます自転車操業になるとによって精神的にも追い込まれていく。返すべきものが返せないストレスというのは並大抵のものではない。カネが足りないと返済日が近づくたびに強い不安が生じ、日常生活の判断能力も低下する。
督促連絡が増える段階で精神的負担は顕著になる。
返済が遅れれば、電話やメールが頻繁に届き、借り手は常に「いつ連絡がくるか」をビクビクながら生活することになる。これは強い緊張を常時抱える状態であり、睡眠や仕事にも影響するだろう。
さらに遅延が続くと、勤務先や家族への連絡が入る可能性が頭をよぎるため、社会的信用を失う恐怖が精神的圧力として加わる。そのストレスは24時間365日続いていくのだ。
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自殺に向かう「極限の精神状態」
以前、『どん底に落ちた養分たち』という本を書いたことがあったのだが、この書籍ではパチンコ依存に陥って追い込まれている人たちをノンフィクションで取り上げた。(どん底に落ちた養分たち――パチンコ依存者はいかに破滅していくか? )
パチンコ依存で追い込まれるというのはどういうことなのかというと、要するに「借金で追い込まれる」ということなのだ。彼らの話を聞いていると、私自身もノイローゼになりそうなくらいキツかった。
私が印象に残っているのは所沢に住んでいた男性のことだ。彼はパチンコ依存になって消費者金融でカネを借りていたのだが、やがて200万円近くの借金を返せなくなって、いよいよ闇金にカネを借りるところにまで突入していった。
それで、彼に「闇金はどうやって見つけたんですか?」と聞いたら、驚いたことに彼から闇金にコンタクトしたのではなく、闇金のほうから彼の電話番号に電話をかけてきたというのだ。「サラ金の奴らが僕の電話番号を売ったんじゃないか」と彼は言っていたが、こうやって彼は闇金でカネを借りることになった。
その利息は「トサン」だった。つまり10日で3割の利息である。年利にすると1095%である。こんなのを借りていたら返せるはずがない。ところが、闇金の男はこのトサン(年利1095%)を「良心的」だと言っていたのだ。
なぜ年利1095%が良心的なのかは本書を読んでほしいのだが、あきれてモノも言えないとはこのことだ。あまりにも強烈すぎて、私は今でもこの話を聞いたときのことを昨日のことのように思い出す。
多重債務になって追い込まれて、闇金にまで足を踏み入れると、もはやそこに待っているのは修羅場である。借金まみれになって自殺に至る「極限の精神状態」は私たちの想像以上のものがある。
多重債務が増えているという記事を見て、私は非常に憂慮している。ふたたび日本の社会の底辺では、どん底に飲み込まれていく人たちで膨れ上がりそうだ。
もし、まだ『どん底に落ちた養分たち』を読んでいない人がいたら、借金まみれの地獄がいかに強烈なのかを読んでみて欲しい。







コメント
かつて住宅ローンを返済中、利率は借り手にかなり優しいものだったにも関わらず、利息返済ばかりで元本がなかなか減らない状況には苦しい思いをしました。
2010年代のバンコク滞在でクレジットカードのキャッシングをしまくって、帰国後頭を抱えたことがあります。その時初めてリボ払いを利用してしまいました。半年くらい支出を切り詰めて完済しましたが、リボの利用は貸し手にとってものすごく「おいしいお客さん」になってしまう上に、借り手側には借金であるという意識が薄いヤバいシステムですよね。まあ、ものすごく楽しかったから後悔はしていませんが。