暴力がはびこる無政府状態。貧国ハイチが極限的にヤバい状況になってしまった

国が崩壊したらどのような光景が生まれるのか、ハイチはよく示している。国家が崩壊し、治安を司る警察が完全に弱体化したら、暴力が社会を乗っ取り、支配し、人々を虐殺していくようになる。すでにハイチのギャングは裏社会の存在ではなく、国家そのものに取って代わる実力支配者となっている。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

ハイチは極限的にヤバい状況になった

2021年7月、ハイチの大統領ジョヴネル・モイーズが暗殺された。それ以降、この国では政治の空白と統治の不在が続き、国家の治安維持機能が崩壊した。そして今、極限的にヤバい状況になってしまった。

複数のギャング組織が首都の大部分を実効支配し、暴力がこの国の法律と化した。警察は装備・人員ともに不足して統制を取ることができず、完全にギャング集団に国が乗っ取られた。

国連の報告によれば、2024年1年間でハイチでは5600人以上が殺害された。誘拐事件も常態化しており、子供や学生、医師、商店主など社会を支える層が標的となっている。治安が破壊されることによって経済活動はもはや完全に停止状態だ。

暴力の形態は極めて残虐だ。住宅地を襲撃し家を焼き払う、住民を殺害して支配地域を広げるといった事例が多発している。

2024年10月にアルティボニット県のポン=ソンデでは、ギャングによる襲撃で115人以上が死亡した。さらに12月にはシテ・ソレイユ地区で大規模虐殺が発生し、200人を超える市民が犠牲になった。これらの事件は局地的な争いではない。首都全体を覆う暴力のひとこまである。

これらのギャング集団は道路や港湾を封鎖し、通行料を徴収している。こうした封鎖は食糧や燃料の流通を妨げ、物資の不足を引き起こしている。都市部の市場では価格が急騰し、貧しい層が食糧を手に入れられない。

ギャングから逃れるために地元を去る人も多く、2025年6月の国連人道問題調整事務所の報告では、国内避難民は130万人を超えたとされている。子供も学校に行くような状況ではない。女の子はかたっぱしから捉えられてレイプされている。

無政府状態である。

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貧困と腐敗の社会でのし上がってきた存在

国が崩壊したらどのような光景が生まれるのか、ハイチはよく示している。国家が崩壊し、治安を司る警察が完全に弱体化したら、暴力が社会を乗っ取り、支配し、人々を虐殺していくようになる。

ハイチは2010年に大地震に見舞われて経済崩壊した。そのときの地獄の惨状は、こちらに記録として残している。(ブラックアジア:略奪の都市となったハイチ。無法地帯に略奪者が闊歩する

そこにきて2021年にはふたたび巨大な地震と大統領暗殺があり、その後は正統性を持つ政府が存続しなかった。議会は機能せず、司法制度も腐敗や資金不足で停止状態となった。

地震で死体まみれになったハイチの地獄絵図はこちらに記録している。(ブラックアジア:【巨大地震】2021年8月14日、再び巨大地震に見舞われて地獄に堕ちたハイチの惨状

再建しようとしても、地震とハリケーンが繰り返し国土を破壊し、政府が復興支援を担えなかった。結局、ハイチは西半球でもっとも貧しい国と化し、国民の大多数が貧困状態に陥った。

そんな貧困と腐敗の社会でのし上がってきたのがギャング集団だった。

失業率は高く、若者は安定した仕事を得られない。その結果、ギャング組織が提示するわずかな報酬や生活保障が現実的な選択肢となり、若者が武装勢力に流入していくようになった。これがギャングの兵力拡大を支えている。

国際社会の調査では、アメリカなどから密輸された銃器がギャングの手に渡っていることが確認されている。これらは軍用レベルの火器を含む。いまや小規模なギャングでさえも、自動小銃や重火器を手に入れて住民を威圧することが可能になった。

一方で警察や軍隊は弱体化している。彼らは装備や給与が不足しており、ギャングに比べて圧倒的に不利な立場にある。

2023年1月にはポルトープランスで18人の警察官がギャングに殺害された。警察官自身が狙われる存在となり、士気は著しく低下した。

もはや、ハイチはここからどう復興できるのかわからない状況となった。政治の空白、治安機関の弱体化、国際的な武器流入、貧困の拡大、自然災害による社会の脆弱化が複雑に絡み合い、これらが相互に作用して国を破壊し尽くしている。

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ハイチの人口の半数以上が飢餓状態に

ハイチは完全なる暴力都市と化した。その暴力の拡大は市民社会に深刻な影響を及ぼしている。

もっとも顕著なのは市民への直接的な被害である。ギャングによる襲撃や抗争は無差別で、住民は家を焼かれ、財産を奪われ、女性や子供はレイプされ、少年は「使い捨て」の兵士として利用されている。

生活基盤の崩壊も大きい。ギャングは道路や港を封鎖して物資を管理しているため、食糧や燃料が行き渡らない。その結果、2024年にはハイチの人口の半数以上にあたる約560万人が深刻な飢餓状態となった。

2025年に入っても状況は悪化するばかりで、国内避難民は130万人を超えた。食糧不足に加えて水の供給も途絶し、衛生環境は悪化している。コレラなど感染症が拡大しているのだが、医療機関は患者を受け入れる能力を失っている。

ギャングの支配地域では学校が襲撃され、教師が誘拐されているので、子供たちは教育を受ける機会もない。おそらくこれは、次世代にわたり社会を弱体化させ、暴力の再生産を助長していくことになるはずだ。

農村部にも影響は及んでいる。農民はギャングの襲撃を避けるために土地を放棄し、耕作が途絶えた。

暴力と人道的危機は社会のあらゆる層を麻痺させている。日常の安全、教育、医療、食糧、住居といった基本的な生活インフラがすべてハイチから消え去った。人々は恐怖と欠乏の中で生きることを強いられ、そこから逃れることができない。

このハイチの惨状に対して、政府と国際社会はさまざまな対応を試みてきたが、いずれも十分な成果を挙げていない。国連も例によって、事態を収束させるような能力は持っていない。

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ギャング支配に揺れるハイチに未来はない

ハイチのギャングは、いまや政府をしのぐ武装能力を保持している。代表的な勢力としては「G9(G9 Family and Allies)」や「G-Pep」などが知られており、複数の武装集団が連合や抗争を繰り返しながら勢力圏を拡大してきた。

これらの組織はしばしば腐敗した政治家や治安当局と裏側でつながりを持ち、カネと脅しで影響力を強めてきた。そもそも、「G9」の創設者は、元国家警察の警察官出身である。

この男はジミー・シェリジエというのだが、通称は「バーベキュー」だ。なぜ、バーベキューなのかというと、言うことを聞かない人間や住民は家屋ごと、容赦なく焼き尽くすからだ。

G9は「9つの最強ギャング」を連合させる形で構成されていた。だからギャング9なのだ。その後も勢力は拡大し、少なくとも 12 のギャングが同盟関係を結んでいるという記述も存在する。

このG9が、ハイチの首都ポルトープランス市域の 80%前後を支配しているという報告がある。このG9と対抗する形で生まれたのが「G-Pèp」で、この組織はG9 に同調しないギャングや、G9 の支配に抵抗する勢力を中心に構築されていた。

最近、これらのギャングは連携を組み、共同戦線を張る動きを見せており、これによってハイチの首都全域はギャングが掌握することになったと評価されている。彼らは市街戦で自動小銃や重火器を使用し、国家警察を圧倒的する。

すでにハイチのギャングは裏社会の存在ではなく、国家そのものに取って代わる実力支配者となっている。

かつて世界最悪レベルの殺人率を記録していたエルサルバドルでは、ナジブ・ブケレ大統領が強権を発令して、世界最悪のギャング集団「マラス」を巨大刑務所に放り込んで治安を取り戻したが、ハイチにそうした「救世主」が登場するのだろうか。

いずれにしても、ギャング支配に揺れるハイチに未来はない。

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