パキスタンでの爆弾テロ。隣国への憎悪と経済危機と政治不信は何をもたらすか?

2025年11月、イスラマバードで自爆テロが発生している。司法の中心が攻撃され、治安機関の機能不全と政治の混迷が露呈した。インドとの対立、タリバンとの軋轢、そして国内の宗派分断が重なり、暴力は終わらない連鎖となっている。これが何をもたらすのか注視する必要がある。(鈴木傾城)

鈴木傾城

プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。経済分野を取りあげたブログ「フルインベスト」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。連絡先 : bllackz@gmail.com

イスラマバードで自爆テロが発生

2025年11月11日、パキスタンの首都イスラマバードで自爆テロが発生している。

現場はG-11地区にある地区・セッションズ裁判所の正門付近で、正午すぎ、徒歩で近づいた男が警察車両のそばで爆発物を起動させ、激しい爆炎が司法施設の前を焼き尽くしたという情報が報道されている。

死者は12人、負傷者は30人を超えた。犠牲者の多くは裁判所関係者や通行人だった。

爆発は裁判の進行中に起き、周囲には弁護士や傍聴者が多数いた。爆心地には複数の車両が停車しており、炎上した車から上がる黒煙は数キロ離れた場所からも確認されたという。

救急車と消防隊が駆けつけたが、現場は血と瓦礫に覆われ、負傷者の多くが即死に近い状態であった。警察は、攻撃者が司法施設への侵入を試みたが、厳重な警備に阻まれたため入口で爆発させたと発表した。

現場の警察官によれば、攻撃者は自爆ベルトを装着し、警察車両の前で爆破をおこなった。これにより車両は大破し、警備担当の警官数名が死亡した。

現場からは攻撃者の頭部と破片が発見され、捜査当局がDNA鑑定を進めている。司法省は「国家の中枢を狙ったテロ行為」として緊急声明を出し、連邦内務大臣モヒシン・ナクビは「法の象徴を攻撃した重大な挑発」と述べた。

事件発生直後、イスラム武装組織「パキスタン・タリバン運動(TTP)」の分派が犯行声明を出した。しかしTTP本体は関与を否定し、分派が独自に実行したものだとする声明を出している。

TTPは過去にも警察施設や治安部隊を標的とした攻撃を繰り返してきたが、首都の司法施設を狙った自爆攻撃は異例である。

この事件を受け、パキスタン政府は国家非常警戒レベルを引き上げ、首都圏の裁判所・政府機関・報道機関に対して警備強化を命じている。司法関係者は「裁判所は市民の最後の防壁であり、法の尊厳が狙われた」と述べ、恐怖と怒りを隠さなかった。

インドの代理勢力によるもの?

パキスタンはしばしば爆弾テロが起こる国である。かつてのベナジール・ブット元大統領も自爆テロで死亡している。

爆弾でちぎれた遺体が点々と転がり、怪我人が苦しむその凄惨な現場はブラックアジアにも記録している。(ブラックアジア:ベナジール・ブット元大統領が爆死した凄惨な現場の一部始終

あれからパキスタンは平和になったはずだったが、ここに来てまたテロが起きているのだからパキスタン人の衝撃は私たち以上に大きなものがある。今のところ、自爆犯の正体や背後組織の特定は進んでいない。

政府はすぐに「国外勢力の関与」を示唆したが、証拠は提示されていない。しかし、国民の多くも、「やったのはインドかアフガニスタンだ」という意識がある。

パキスタンは長年にわたり、東のインドと西のアフガニスタンという二つの不安定な国境を抱えてきた。両国との関係は相互不信に満ち、政治的・宗教的対立が絡み合っている。

特にインドとの関係は、カシミール地方をめぐる紛争によって半世紀以上にわたり緊張状態が続いて今も終わらない。次の核戦争はインド・パキスタン間で起きるという不安は今も続いている。

カシミールをめぐる対インドとの軍事衝突は、2025年5月にも発生した。

インド領カシミールで起きた武装襲撃を契機に両軍が衝突し、双方で死傷者が出た。これを機に両国の外交関係はふたたび険悪化している。

パキスタンのシャリフ首相は、今回のイスラマバード爆破事件についても「インドの代理勢力によるものだ」と発言したが、その主張を裏付ける証拠は提示されていない。インド外務省は即座に「事実無根の主張」と反論している。

タリバンとの対立も続いている

一方、パキスタンとアフガニスタンとの関係も極めて複雑だ。パキスタン・タリバン運動(TTP)は、アフガニスタンのタリバン政権が復権して以降、国境地帯で活動を拡大してきた。

タリバンの一部勢力はアフガニスタン側に安全地帯を持ち、パキスタン国内での攻撃を計画しているとされる。両国は協力体制をうたってきたが、実際には越境テロをめぐる対立が続いている。

パキスタン政府はアフガニスタンに対し、タリバンの幹部を拘束・引き渡すよう求めているが、実現していない。

この「二重の火種」は、パキスタンの国家安全保障を長期的に圧迫している。インドとの軍事的緊張が続くなか、アフガニスタン側からは武装勢力が流入し、国内の治安部隊は常時二正面の警戒を強いられている。

国防予算の多くがこれらの対応に充てられ、教育やインフラなど民間分野への支出は後回しにされている。

パキスタンはイスラム国家として建国されたが、その内部にはスンニ派とシーア派の対立があり、さらにアフガニスタンのタリバンとは微妙な宗教的立場の違いがある。国家としてイスラム武装勢力を完全に敵視すれば宗教保守層を刺激し、逆に容認すれば国際社会の信用を失うという板挟みの構造にあるのだ。

インドとアフガニスタンという二つの隣国が、政治・宗教・軍事のいずれにおいても安定していない以上、パキスタンの安全保障は恒常的な不安定性を抱え続ける。今回のテロは、そうした国際的緊張の延長線上で起きたものだ。

経済危機と政治的不信の中で起きていること

イスラマバードは、長らくパキスタンでもっとも安全な都市とされてきた。軍本部が置かれ、国会や最高裁判所など国家機関が集中する行政都市として設計されたため、治安は厳重で、テロの標的になることは少なかった。

だが今回の自爆テロは、その「安全神話」を根本から覆した。

事件発生前の数か月間、国内ではすでに警告が出ていた。パキスタン内務省が発表した統計によれば、2025年上半期における国内テロ件数は前年同期比で約38%増加している。とくに首都圏での攻撃未遂は過去5年間で最多に達していた。

だが政府は、「首都は完全にコントロール下にある」と主張し続け、具体的な対策を講じなかった。結果として、爆弾を抱えたひとりの男が司法施設の門前まで到達したのである。

事件当日、警察と情報部門のあいだでテロ警告の共有が遅れたことが判明している。首都圏警察は「不審者情報を把握していた」と述べたが、具体的な警備強化は実施されていなかった。

パキスタン政府は早急に犯人の背景を突きとめる必要があるが、もしその正体がわかると、実のところまたやっかいなことになる。

パキスタン国内では、宗派対立、民族対立、そして政治的暴力が複雑に絡み合っている。警察や軍がテロ組織への報復作戦をおこなえば、数週間後には別の都市で自爆攻撃が発生する可能性がある。その繰り返しが止まらない。

パキスタン内部でも過激なテロ思想に染まる若者も増えている。背景には、経済危機と政治的不信があり、貧困層の若者が過激思想に取り込まれやすい環境があるからだ。

このテロがパキスタンをテロ地獄・暴力の連鎖の引き金になるかどうか危うい局面にまで来ている。どうなってしまうのか、パキスタンに注目している。

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