
フィリピンを拠点に不動産業などを展開していたとされる「S DIVISION HOLDINGS INC.」の関係者たち9人が、無登録で外国社債を販売し、約2,400人からおよそ170億円を集めていたとして逮捕されている。この詐欺師たちが用いた勧誘の手口は、「高利回りの約束」を前面に押し出したものだった。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
「年利最大24%の利息が得られる」という詐欺
フィリピンを拠点に不動産業などを展開していたとされる「S DIVISION HOLDINGS INC.」の関係者たち9人が、無登録で外国社債を販売し、約2,400人からおよそ170億円を集めていたとして逮捕されている。
警視庁の捜査によれば、この資金集めは2021年から2023年にかけておこなわれたもので、投資家に対して「フィリピンの事業はこれから成長する」「社債を購入すれば毎月配当が入る」「年利最大24%の利息が得られる」といった説明が繰り返されていた。
須見容疑者は45歳で、日本とフィリピン双方に事業拠点を持ち、現地では現地在住の日本人向け新聞「まにら新聞」の看板を掲げた建物を拠点としていた。
投資家への勧誘では、この新聞事業や不動産事業などの事業実績を強調し、あたかも安定した企業活動に裏打ちされた投資案件であるかのように装っていた。実際、勧誘時には「まにら新聞などの事業を展開している」と明言し、信頼感を高めるための材料として利用していたようだ。
ただ「まにら新聞」側はこの件に関していっさいの関与を否定し、「報道にあるS DIVISION社とはすでに関係がない」と公式に発表している。だが、名称が勧誘に利用されたことは事実であり、外部から見れば新聞社の信用が投資判断の一因になった可能性は否定できない。
資金の集め方は典型的な高利回り型の社債販売で、金融商品取引法が定める登録を経ずに実施されていた。証券取引等監視委員会は大阪地裁へ業務停止命令の申立てをおこない、その後、実際の業務停止命令が出された。
これにより、販売活動は法的に停止されたが、その時点で多くの投資家はすでに多額の資金を投入していた。
ブラックアジア 売春地帯をさまよい歩いた日々・フィリピン編。フィリピンにある売春地帯を鈴木傾城がさまよい歩く。ブラックアジア・フィリピン編はこちら
常識ある投資家は「馬鹿か」と思う内容
配当は2024年1月を最後に途絶えたという。配当停止の理由としては「銀行の規制が厳しくなり送金できなくなった」という説明があったが、この説明は客観的な根拠を欠く。実際の資金の流れや事業収益の状況は不透明なままであった。
この詐欺師たちが用いた勧誘の手口は、「高利回りの約束」を前面に押し出し、投資家の関心を引くものであった。
提示された条件は、100万円の投資で年8%、300万円で年10%、500万円で年12%、さらに「最大年利24%」といった数字が示され、毎月の配当支払いを約束する形であったという。
最大年利24%……。
こんな高利を約束している時点で、常識ある投資家は「馬鹿か」と一笑に付して終わりだが、こういうのに惹かれる人も大量に存在する。
勧誘の際には、フィリピンでの不動産事業や現地新聞発行事業といった、見栄えのする事業活動が強調された。現地の写真や事務所の映像が用いられ、実在の事業を背景にすることで「たしかな事業基盤がある」という印象を与えていた。
募集主体は金融商品取引業の登録を受けていなかった。つまり、金融庁や証券取引等監視委員会による事前のチェックを経ておらず、投資家保護の枠組みがまったく機能しない状態で、多額の資金がやり取りされていたことになる。
行政処分が下されるまでの期間、勧誘活動は日本国内でも広くおこなわれ、セミナー形式や個別面談、さらにはSNSや知人紹介といった方法で広がった。
資金の大部分が実際に事業運営に使われたのか、それとも他の投資家への配当や個人的な流用に充てられたのか、資金の行方は極めて不透明だ。
行政処分の内容を見ると、実際に投資家から集められた資金のうち、事業へ送金されたのは一部にすぎず、大部分は別の目的に流用されていた可能性が高い。
こうした資金の使い方は、どう見てもポンジ・スキーム型の資金循環(ネズミ講)である。新規投資家からの資金で既存投資家への配当をまかなう構造になっていたと推測できる。
ブラックアジア 売春地帯をさまよい歩いた日々・インド/バングラ編。「売春地帯をさまよい歩いた日々」の中でもっとも過酷だったインド・バングラ。そのすべてが、こちらで読めます。
高利回りと元本保証を同時に提示する案件
配当の停止と同時に元本返還も困難となり、事実上、投資家の資金は回収不能の状態に陥った。2400人に及ぶ投資家の被害総額は約170億円に達しており、個々の被害額は数十万円から数千万円規模まで幅広い。
現状では、資金の回収はほぼ不可能と見ていい。刑事事件としての立件と並行して、被害者の民事上の対応が進められている。
今回の事件は、海外事業を名目に高利回りをうたう投資勧誘という点で、もはや聞き飽きるくらい聞いている「ありふれた詐欺手口」でもある。高利回りと元本保証を同時に提示する案件は、ほぼ例外なく詐欺なのだ。
「一般の金融商品よりもはるかに高い利回り」を保証するという約束で、「これは詐欺だな」と気づかなければならない。最大24%といった数字は、通常の株式配当や債券利回りを大きく上回る。この時点で、頭がおかしいと思ったほうがいい。
この利回りを達成するための事業内容には、海外不動産、未上場株、海外事業への参画といった、現地事情の把握が難しい分野を選んでいるのだが、これも詐欺にありがちな内容だ。
投資家は、直接現地を確認することが難しい。そのため、提供される資料や説明に依存せざるを得ない。これが、詐欺師どもの狙いでもある。
こういう詐欺の配当や元本の支払いは、「最初だけ」は約束通り実施されることが多い。これは新規投資家からの資金を原資として支払う構造であり、表面的には安定した事業のように見える。
だが、資金流入が鈍化すると即座に配当が滞り、元本返還も停止する。
このような詐欺は、国内外を問わず繰り返し発生しており、対象となる分野は時代とともに変化してきた。過去には海外不動産や鉱山開発、エビの養殖への投資、近年では仮想通貨や暗号資産関連事業が同様の構造で利用されている。
表面的な事業内容は異なっても、極端な高利回りの約束、無登録業者による販売、情報の非対称性という3つの要素が共通して存在している。
インドネシアの辺境の地で真夜中に渦巻く愛と猜疑心の物語。実話を元に組み立てられた電子書籍『カリマンタン島のデズリー 売春と愛と疑心暗鬼』はこちらから。
そそのかされて舞い上がっている時点でカモ
無登録業者や不透明な事業への投資は、その時点で検討すらしなくていい。
たとえ、詐欺ではなくても投資する理由がない。こうした案件では、事業実態や財務状況を外部から検証することがほぼ不可能であり、配当や利回りの約束に裏付けとなる客観的な証拠が存在しないことが多い。
そんな状態で投資を考えるのは、はっきり言って常識がない。厳しい言い方になるが、投資をする資格がない。SNSやセミナーでそそのかされて舞い上がっている時点で、カモである。
投資を考えるのであれば、株式市場に上場している企業にとどめておくべきだ。上場企業は四半期ごとの決算発表や有価証券報告書などで、事業内容や財務状況を公開して外部監査も受けている。
証券取引所や金融庁による規制の下におかれ、虚偽報告や不正会計が発覚すれば速やかに制裁が科される。この透明性と監視体制は、無登録業者や海外未公開事業には存在しない信用である。
また、上場株式や上場投資信託(ETF)などの金融商品は、市場で日々取引されて、価格は需給によって透明に形成される。仮に損失が出たとしても、その要因や経緯は公開情報から追跡でき、将来の投資判断に活かすことができる。
無登録の海外案件では、このような検証の機会すら存在しないのだ。
投資の世界では、利回りとリスクは表裏一体であり、極端に高い利回りを提示する案件は、それに見合うかそれ以上のリスクを内包している。元本保証や固定配当をうたう未登録の海外事業は、その時点で危険信号である。だいたい詐欺だ。
被害者は数十万から数百万円を失ったかもしれないが、こんなのに引っかかっている時点でいずれは失うカネだったと思ってあきらめるしかない。高利回りをうたう不透明な案件に惑わされては人生が終わる。
今後も、このような詐欺は山のように現れては消えていく。騙されないように気をつけてほしいと思う。




コメント
詐欺事件は判を押したように東南アジアが拠点となっていますよね。
東南アジアでは詐欺は重罪ではないのでしょうか?
かくいう私も騙されやすい人間なので、詐欺には気をつけなければ、と常々思っています。
最大年利24%….??? サラ金の貸し出し金利より高くないですか??
あと、ここの読者諸賢に現地在住のお知り合いやご友人等の関係者がいらっしゃったら、本当に申し訳ないのですが。私の勝手な思い込みなのですが、フィリピンという国やそこに暮らす人達に関する私のイメージからすると、彼の国にてまともなビジネス・商売をするのは極めて困難なのではないでしょうか?(夥しい数の分厚い貧困層・極貧層、未整備のままの法制度、縁故主義・世襲政治、等)。
だいたい、フィリピン国内にある企業で有名な企業と言われても、私は全く知りません。それに、S&P500の年平均利回り(11%くらいか?)を上回る収益を上げている企業がフィリピン国内に存在するとは、到底考えられません。
あとは、まあ、フィリピン男性で、所謂「働き盛り世代」とされる世代にある人達は、ロクに働かない(というか、ロクな仕事が無い)、というイメージが….。こういった人達が日本のサラ金の年間貸し出し金利を上回る程の仕事をするとは、到底考えられません。
「フィリピンやフィリピン企業への投資」と言われると、正直、私はこういうイメージを抱いてしまいます。。
フィリピンにて生活している人達、本当に申し訳ございません。。