海外で拉致されて強制労働させられていた日本人の若者。そういう時代がきたのだ

海外で拉致されて強制労働させられていた日本人の若者。そういう時代がきたのだ

ミャンマーの国境地帯で外国人が大量に監禁され、特殊詐欺に加担させられていた事件は、日本社会にも大きな衝撃を与えた。今回は260人の救出劇だが、それで問題は解決したわけではない。アンダーグラウンドでは、まだ何百人という外国人が、まだ監禁されたままだと指摘されている。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

海外で拉致されて強制労働

ミャンマーの国境地帯で外国人が大量に監禁され、特殊詐欺に加担させられていた事件は、日本社会にも大きな衝撃を与えた。

タイ政府当局の発表によれば、今年に入ってから260人を超える外国人がミャンマー側の詐欺拠点から解放されたのだが、解放者には日本人の少年も含まれていた。すでに1月に17歳の高校生が保護され、さらに2月中旬には16歳の少年が保護されたことが確認されている。

拉致された日本人が、国外で犯罪の強制労働させられていたのだから前代未聞だ。「こんな時代になってしまっているのか」という驚きが日本人にもあったはずだ。

国際的に問題視されているのは、内戦状態が続くミャンマーの混乱に便乗し、中国系の犯罪組織が国境近くに拠点を構築している点である。オンラインを通じた詐欺の需要が増大し、そこにミャンマーのような国では内戦や政治混乱による無法地帯が生まれた。

そこでは日本人だけでなく、台湾人も、韓国人も、アフリカ諸国の人々も、ありとあらゆる多国籍の被害者が押し込められていた。拉致される人間たちが多国籍なので、当然、被害者もまた多国籍である。このような特殊詐欺の拡大が、もはや全世界でとまらない。

詐欺グループは人身売買に近い手口を広げ、SNSや転職サイトを使って「高収入の仕事がある」「映画のエキストラ出演者を探している」などの甘い言葉で多くの人々を誘い込んでいた。

誘拐や脅迫という形で被害者を移動させるケースもあり、今回の事件でもタイからミャンマー側へボートで連れ去られる場面がいくつも確認されている。

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ロマンス詐欺を1日17~18時間も強制

中国人の男性は、映画のエキストラ募集を名乗るSNS求人に応募した結果、車で連れ回された挙句にミャンマーの国境地帯へ移送された。現地に着くと武装した監視役が常に見張っており、インスタグラムなどを用いたロマンス詐欺を1日17~18時間も強制されていた。

もちろん、休みも報酬もない。拉致されたすべての人間は、反抗すれば棒やスタンガンで拷問されていた。

こうした暴力は拠点内で日常的におこなわれていた。反抗したりノルマを達成できなかったりすれば、監視役による殴打や蹴りが浴びせられ、スタンガンで気絶するまで電気ショックを加えられていた。

生活空間は劣悪で、複数の二段ベッドがぎゅうぎゅうに詰め込まれ、狭いスペースに大勢の外国人が押し込められ、十数人が身を寄せ合って刑務所以下の劣悪な環境であったという。

中国人、台湾人、韓国人、そして日本人やアフリカ諸国出身者まで、国籍を問わず拉致されて連れてこられていた。日本人が拉致されたのも、日本国内の被害者を狙う詐欺電話などでネイティブの話し方が必要だったからだ。

ミャンマー北部やカンボジアの一部地域は、軍事衝突や武装勢力の影響で中央政府の管理が行き届かない。そのような地域では犯罪組織が強固な利権を築きやすく、人身売買や詐欺行為を取り仕切る拠点を自在に確保している。

最近報じられたカンボジアの事例でも、同様の詐欺拠点が数多く存在しており、拉致や監禁を伴う被害が多発している。

逃亡を試みる者は銃で威嚇されることもあるため、集団で協力しない限り成功は難しい。実際、無事に逃げ出せた被害者は少なく、今回の260人以上の解放劇に至るまでの道のりは長く危険に満ちていた。

こんなところに、日本人の未成年が拉致されて連れてこられていたのだ。

彼らはオンラインゲームをきっかけに犯行グループと接触し、旅費を提供される形でタイへ誘導されていた。現地に着いたらパスポートを取り上げられ、詐欺拠点に放り込まれ、詐欺の作業を強要されていた。

これだけの人々が拉致されていた。暴力は拠点内で日常的におこなわれていた。反抗したりノルマを達成できなかったりすれば、監視役による殴打や蹴りが浴びせられ、スタンガンで気絶するまで電気ショックを加えられていた。

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犯罪組織は簡単には壊滅しない

最近260人以上が一度に解放された事例は、各国の捜査機関やNGO、地元住民の情報提供が結実した成果でもある。被害者がSNS経由でひそかに助けを求め、外部の人々が情報をつなぐ形で少しずつ拠点内部の状況が伝わった。

たとえ軍や警察が介入しても、地元武装勢力との兼ね合いがあり、ミャンマー国内で強制的に踏み込むのは容易ではない。国境を挟むと法律や管轄権が変わり、捜査情報の共有や引き渡し手続きも複雑になる。タイ政府もこのあたりで苦慮したようだ。

タイ政府がおこなった260人以上の解放劇は、内戦状態にあるミャンマーとの国境地帯で進められた。タイ北西部にある国境の川を渡ってくる人々を保護し、すぐに安全な場所へ移送する手配がおこなわれた。

中には暴行の傷を負ったままの状態で渡ってくる被害者もおり、医療チームによる応急処置やカウンセリングが急務だった。

タイ政府はこれまでもミャンマーと協力して国境管理を強化してきたが、人身売買や詐欺拠点の存在は根深く、完全な撲滅には至っていないと発表している。国境付近の検問所には「だまされてミャンマーに連れて行かれた人はすべてを失う」と警告する看板が掲示されており、危険性を周知する取り組みも続いている。

台湾政府も自国民の救出に積極的で、中国系詐欺組織による台湾人の大量監禁が相次いであきらかになっている。台湾人の場合、拉致されたのは数十人とか数百人のレベルではない。数千人、である。

カンボジア政府も国際的な圧力を受けて、面倒くさそうに詐欺拠点の摘発に乗り出している。だが、犯罪組織は豊富な資金力と政治的背景を持ち、簡単には壊滅しない。

今回は260人の救出劇だが、じつはそれで問題は解決したわけではない。今回の260人超の解放はたしかに大きな前進である。だが、アンダーグラウンドではまだ何百人という外国人が、まだ監禁されたままだと指摘されている。

大規模な報道や国際社会の注目が集まると、犯罪組織は一時的に拠点を移転するので、完全に摘発するのは非常に困難なようだ。そこには、拉致されて救出を待つ日本人がまだ存在している。

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日本人は覚悟しておく必要がある

日本人の若者が詐欺組織に巻き込まれる背景には、経済的困窮や社会的孤立がある。日本は政治家の無能のせいで国が衰退し、多くの若者が経済的に窮地に落ち、自己責任だの負け組だの言われてあざ笑われながら必死で生きている。

そんな中で、SNSやオンラインゲームを通じて犯行グループのターゲットにされ、「海外で稼げる」「生活費を提供する」といった甘い言葉をかけられる。

貧困と孤立が深まる社会では、犯罪組織の誘いは非常に魅力的に映り、若者が安易に応募しやすい。金銭的にも精神的にも余裕のない状況下では、渡航先が違法な活動現場だとわかっても、簡単に断れない。

「海外旅行のついでに稼ぐことができる」とか言われたら、やってみようと思う若者がいても不思議ではない。しかし、実際にはミャンマーの国境地帯など極めて危険な地域へと誘導され、武装した監視下で過酷な詐欺行為に従事させられるのだ。

監禁の拠点では、犯罪者たちが銃や、ナイフや、スタンガンや、棍棒などで脅しているわけで、一度拠点に連行されると逃げ出すことは極めて難しい。それこそ、反抗者の中には殺されて、どこかに埋められた人間もいるはずだ。

事件の捜査が進めば進むほど、アンダーグラウンドでの人材取引や、渡航費用やビザの不正取得を手配するブローカーの存在もあきらかになっていくだろう。

ただ、日本の若者が経済的苦境に陥る状況が続く限り、第二第三の事件が繰り返されるはずだ。

貧困が広がって、本当にひどい光景が社会の裏側で広がってきている。貧困がこれほどまで荒んだ光景を生み出すとは、ほとんどの日本人は想像していなかったはずだ。ブラックアジアでは、もう10年以上も前から「こうなるのだ」と書いてきたが、ジグソーパズルのピースがはまるように、書いたことが現実になっている。

問題は、社会の荒廃は「はじまったばかり」という絶望的事実だ。犯罪組織が若者を拉致監禁して強制労働させる事件など、当たり前で、もっとひどいことも起きてくるようになるだろう。日本人は覚悟しておく必要があるのではないか。

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