特殊詐欺グループの拠点は東南アジアが舞台になっていることが多い。闇バイトで集められた若者は、到着後にパスポートを没収され、監視下で働かされる。それは、強制労働ともいえるし、現代の奴隷制度ともいえる。闇バイトを募集したら、いくらでも集められる。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
カンボジアを拠点にする特殊詐欺
2024年11月、特殊詐欺グループの拠点責任者を含む4人の男が、フィリピンから日本への移送中の飛行機内で逮捕された。これらの男たちは特殊詐欺グループの一員だったのだが、それぞれ「闇バイト」で集まったとされている。
このグループは、カンボジアの首都プノンペンを拠点にして、日本へ詐欺の電話をかけまくって金銭を窃取していた。被害総額は約10億円に上る。2023年7月には、長野県大町市の80代女性から275万円をだまし取ったことも確認されている。
捜査の過程で、グループの拠点から押収されたパソコンや携帯電話、高齢者の個人情報が記載された名簿などが重要な証拠となった。これまでに29人の男が起訴されており、今回逮捕された4人は拠点への摘発前にフィリピンに逃走していたが、今年7月にフィリピン当局に拘束されていた。
警察は、タイのバンコクに逃走したとされるリーダー格の男を含む日本人3人の行方も追っており、グループのさらなる実態解明を進める方針だ。
ところで、ルフィ事件でもそうだったが、特殊詐欺の実行グループの拠点は東南アジアであることが多い。それには、いくつもの理由がある。
闇バイトで集めた若者を国外に出すことによって逃亡を防ぎやすい。そして、フィリピンやカンボジアでは、法執行機関の能力や国際協力体制が十分に整っていないので犯罪が継続しやすい。
さらに東南アジアでは比較的安価で高速なインターネット接続が利用可能だ。人件費や生活費が日本と比べて安いため、犯罪組織の運営コストを抑えることもできる。そして、外国での活動は、犯罪者の身元特定を困難にする。
もともと、フィリピンやカンボジアは昔からアンダーグラウンドの人間が好む国だったのだが、今も状況は変わっていないのがわかる。
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海外なら、それだけで時間が稼げる
カンボジアは、日本人の特殊詐欺グループだけでなく、韓国人の特殊詐欺グループ、中国人の特殊詐欺グループも、それぞれ集まっている国でもある。この現象の背景には、詐欺グループにとってカンボジアが地理的・制度的に「活動しやすい環境」となっている要因があるようだ。
カンボジアは東南アジアの中でも比較的緩やかな入国管理制度を持つ国であり、外国人が短期滞在や長期ビザを取得することが容易だ。
現地の警察や司法機関も資金や人材が限られているため、詐欺行為が発覚しても、摘発に時間がかかる場合が多い。
日本のどこかに拠点を作って数十人の男に電話詐欺をさせていたら、日本の警察ならすぐに身元を特定して一網打尽にされてしまうだろう。海外なら、それだけで時間が稼げる。カンボジアならなおさらだ。
これらの詐欺グループは「未払い料金」「親族の緊急事態」などの手口で高齢者を騙し、電子マネーや銀行送金を通じて巨額の資金を集める。騙されるのは、ほぼ大半が高齢者である。
高齢者は自分が取った電話が、カンボジアからの遠隔操作によるものであるとは思いもしないだろう。しかし、実際はそうなのだ。
この問題が深刻なのは、被害総額がかなり巨額だからでもある。警察庁の統計によれば、2022年の被害額は約370億円で、前年から約88億円も増加している。さらに、2023年には約441億円に達している。2024年はもっと多いだろう。
警察庁は、このうちの30%が海外拠点からの操作によるものと推測している。中でも、カンボジアを拠点とするグループによる被害は20%以上を占めていると見られる。
2023年4月、カンボジア南部で摘発された日本人詐欺グループ19人のケースでは、彼らが1か月間で約1億円を詐取していたことが判明した。このような数字は、詐欺グループの運営規模と効率性の高さを示している。
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それは、現代の奴隷制度ともいえる
2023年9月にはプノンペンのアパートで日本人20人以上が拘束されていた。そのアパートは「詐欺のオペレーションセンター」として利用されていた。現地当局によると、このグループは1日に数百件の電話を日本国内にかけていた。
成功率が約5%。これは一見低い成功率に思える。だが、詐欺対象の金額が大きいため、グループ全体としては莫大な収益を上げていたことになる。
やはり被害者の多くは高齢者であり、1人当たりの被害額が平均して100万円を超えていた。こうした高齢層は、金融リテラシーが低く、認知も低下していて、電話詐欺に引っかかりやすい状況にあった。
カンボジアで活動する日本人詐欺グループは、単なる犯罪者の集まりではなく、階層的かつ組織的な構造を持つ犯罪ネットワークである。ただ、闇バイトの男たちを管理する「責任者」はいるが、本当の黒幕はいない。
黒幕は日本国内や、場合によっては、ほかの国に拠点を置いて、現地の「オペレーター」たちを管理している。オペレーターは、詐欺電話をかける実行犯として活動しており、その多くが「高収入」の闇バイトに騙されて現地に連れてこられた若年層である。
これらの実行犯は、到着後にパスポートを没収され、監視下で働かされる。
仕事を拒否すれば暴行を受けたり、家族に危害を加えると脅迫されるケースも報告されている。そうなれば、あとは強制されて犯罪に加担するしかない。強制労働ともいえるし、現代の奴隷制度ともいえるだろう。
すでに、こうした特殊詐欺は日本で格差問題が広がっていった2000年代初頭から顕著に報告されるようになっているのだが、そう考えるとすでにシステムは20年以上の実績とノウハウがあるといえる。
詐欺のノウハウは、社会の裏側でいくつもの犯罪組織に「共有」されている。
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日本の貧困が生み出した邪悪な世界
2000年代初頭は、電話を通じて親族や知人を装って金銭を騙し取るのが主流だった。詐欺の電話が「母さん、俺、俺」だったので「オレオレ詐欺」という言葉で総称されるようになった。
だが、次第に「俺、俺」が陳腐化していくと、手口が多様化するようになった。そこで警察庁は2004年12月、これらの詐欺を総称して「振り込め詐欺」と命名した。
その後は「暗号資産にしろ」だとか、「キャッシュカードをポストに入れて待機しろ」とか、かならずしも「振り込め」ではなくなったので、2013年以降は「特殊詐欺」という名称が広く使用されるようになって、現在はこの特殊詐欺が主流の呼び方になっている。
日本は高齢者が今後も激増していく。厚生労働省によると、2025年には日本国内の65歳以上の人口が、全体の30%を超える見込みである。65歳以上の高齢者数は約3,657万人、75歳以上の高齢者数は約2,179万人となる。
これが犯罪グループにとって魅力的なターゲット層となる。
そうであれば、これらの特殊詐欺グループの暗躍はさらに広がっていく可能性が高い。おそらく、今後も東南アジアがオペレーションセンターの拠点となって、詐欺が仕掛けられていくだろう。
国際犯罪は複数国の法執行機関の連携が必要であり、ここが摘発の障害となる。特殊詐欺グループはこの捜査の脆弱性を突いて、国を次々と変え、拠点も頻繁に変えて犯罪を継続していく。
警察が拠点を何とか摘発しても、黒幕は逮捕されていない。そのため、黒幕はふたたび別のグループを組成して、同じ犯罪がおこなわれる。
犯罪をおこなわせるための人員の確保も困らない。日本は非正規雇用の一般化で若者を切り捨て、使い捨てにする社会になっているので、生活困窮で苦しむ若者なんか山ほど見つかる。
若者が詐欺活動に関与する背景には、こうした貧困があるのは明白だ。高収入のアルバイトを募集したら、若者はそれが闇バイトであるとわかっていても、選択の余地はないと感じてしまう。
これらの要素を総合的に考慮すると、カンボジアを拠点とする日本人特殊詐欺グループは、さらに進化して高齢者から貯金を盗み続ける。これも、日本の貧困が生み出した邪悪な世界である。
そんな怖い仕組みになっているとは…。
今まで1度も国外に出た事がなく喋れるのは名古屋弁オンリーでこんなところに連れて来られたら恐怖でしかないです。
彼らはいつ帰ってくれるんだろう。そして求人通りの報酬もらえているのかな。。
闇バイトと最初からわかって応募する人は別として、そうじゃない人は騙されてしまわないように応募する前に誰かに相談したほうがいいかもしれないですね。
どいつもアホそうな顔してるわw
こーゆうのは現地で射殺してほしいね。