ある特定の企業は自分たちの儲けのために人々がギャンブル地獄に堕ちるのを望む

ある特定の企業は自分たちの儲けのために人々がギャンブル地獄に堕ちるのを望む

ギャンブルにのめり込んで犯罪に走る人が後を絶たない。彼らは「次は勝てるかもしれないのだから止めるわけにいかない」「ここで止めたら、ただの負け犬だ」と思って止められず、それがギャンブルによる損失を深める結果となり、最終的にはどうにもならなくなる。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

不正で手に入れた金をすべてギャンブルに注ぎ込む

2021年9月21日、群馬県の老人保健施設「あずま荘」の利用者らから現金をだまし取ったとして、46歳の男が逮捕されている。施設の利用者に過大請求をして総計で114万円を騙し取っていた。

さらに、この男は利用者の口座から勝手に460万円を引き下ろしていたのだが、それがバレて懲戒解雇されていた。この男はギャンブル狂で、不正に手に入れた金をすべてギャンブルに注ぎ込んでいた。

北九州市では、国土交通省九州地方整備局の47歳の係長が、船舶修理会社が受注できるよう便宜を図る謝礼として、数十万円相当の電化製品を受注企業に賄賂として要求していたことが発覚して逮捕されている。この男もギャンブル狂で、不正に手に入れた金をすべてギャンブルに注ぎ込んでいた。

沖縄の座間味村の村役場那覇出張所の40代の所長は、那覇と座間味島を結ぶフェリーのチケットの売上データを改竄《かいざん》して、売上金4000万円を着服する事件を起こしていて、懲戒免職された後に業務上横領の罪で刑事告訴されている。

この男もまたギャンブル狂で、不正に手に入れた金をすべてギャンブルに注ぎ込んでいた。4000万円をギャンブルに投じるのだから、尋常ではない。

警視庁は2021年6月に東京弁護士会所属の弁護士を逮捕しているのだが、この弁護士は依頼人の損害賠償請求の業務の中で、保険会社に自分の口座に金を振り込ませて、自賠責保険金616万円の全額を着服していたのだった。

この男もまたギャンブル狂で、不正に手に入れた金をすべてギャンブルに注ぎ込んでいた。弁護士がギャンブルに狂って犯罪を犯すのだから情けない。そういう事件も起きていた。

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不確実なものに賭けて膨らませる借金で地獄に

ギャンブルはその多くが負けになるのだが、たまに勝てるときがある。そのときの爆発的な喜びや快楽は脳内ホルモンをも変化させるほど劇的なものだ。

ギャンブルは闘争心と競争心を刺激するのである。勝てるか負けるかという緊張感はアドレナリンを噴出させ、テストステロンを大量に分泌させる。勝利したとき、その緊張感は歓喜に取って変わり、激しいカタルシスに昇華していく。

負け続けて追い詰められれば追い詰められるほど、それを乗り越えて勝ったときの爆発的歓喜は強いものになり、その爽快感が快楽として定着して離れられなくなる。

そしてその快楽は、報酬が入ってくることで倍加される。だから、ギャンブルは人を虜《とりこ》にしていき、それに深くのめりこんでいく人が出てくる。

日本では、パチンコ・FX(為替証拠金取引)・競馬・競輪・オートレースも宝くじもロト……とあらゆる種類のギャンブルが揃っており、挙げ句の果てに日本政府はさらにカジノまで作ろうと画策している。

これらすべてが人々を依存させる。そして、このギャンブル依存こそが人生最大のワナである「借金」の元凶になっていくのである。

借金はすべてが悪いわけではない。計画的で慎重な借金で人生を切り拓く人もたくさんいて、それは資本主義ではひとつの確立されたツールでもある。返済計画がよく練られた意味のある借金は、まさに成功を加速させるレバレッジになり得る。

ところが、ギャンブルのように不確実なものに賭けて膨らませる借金は人生を地獄に陥らせるだけである。どんな言い訳であっても正当化できない。

ギャンブルにのめり込む人は、勝率が50%以下のものに掛け続ける人だから、必ずじり貧になる。掛け金が多いと収入や資産を超える額を蕩尽し、そこで止まらないと借金が膨らんでいくことになる。

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「ギャンブルの負けはギャンブルで取り返す」がワナ

ギャンブルが好きだという性格は、その一点で人生が破綻してもおかしくない危険性を秘めている。他にどんな才能があったとしても、それを帳消しにしてしまう。

ギャンブル依存は、それが快楽と結びついている以上は止めることが難しい。自制心が効かなくなるからだ。止めようと思っても、負けが込むと「ギャンブルの負けはギャンブルで取り返す」という心理に陥って、勝つまで粘るようになる。

ギャンブルの負けはギャンブルで取り返す……。

一度でもギャンブルで想定以上に勝った経験をした人は、それがアダになって「自分はギャンブルの才能がある」と考えたり、「もう一度同じ経験をしたい」と思ったりする。あるいは、「ギャンブルでメシが食える」という心理にもなる。

これはすべてのギャンブルに共通するワナだ。いったん成功体験を得ると、どんなに負けても「絶対に成功できる」という気持ちから離れられなくなるのである。

負けがかさんで人生に悪影響が出ているにも関わらず、そこから離れられないというのは立派な依存症だ。しかし、本人だけは「自分は依存症ではない」と思っているので厄介だ。

「次は勝てるかもしれないのだから止めるわけにいかない」「ここで止めたら、ただの負け犬だ」と思うのである。しかし、それがよりギャンブルによる損失を深める結果となり、最終的にはどうにもならなくなる。

そのため、ギャンブルが好きでのめり込んでいる人の少なからずは、ある時点で収支のバランスを崩し、「借金地獄」の世界に足を踏み入れていく。

賭けに使うための借金は、多くの場合は「返せない借金」と化すので、借金の自転車操業が止まらなくなる。

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自分たちの儲けのために人々が犠牲になるのを望む

借金を返すために借金をする多重債務者となる人もいる。通常のキャッシュローンが使えなくなると、どんどん条件の悪い金融業者から借りることになる。

ここで切羽詰まると、やがては冒頭に紹介したように、会社の金を横領したり友人から金を借りて行方をくらましたりして犯罪者の領域に入っていく。問題はギャンブルにのめり込む人は決して特別な人ではないということだ。

意志の弱い社会不適合者や、生まれながらのアウトサイダーだけがのめり込むのではなく、ごく普通の人が何気ない日常の中でふとギャンブルに目覚めて離れられなくなっていく。

日本人の多くをギャンブル依存に引きずり込んでいるのは「パチンコ」業界だが、パチンコにのめり込む人は最初から自分が依存する傾向があるとは思っていない。

「うまく勝って、ちょっと小遣いでも増えればいいな」と思って何気なくパチンコを始める。しかし、そこで勝った負けたを繰り返しているうちに、依存傾向のある人はどんどんのめり込んでいき、やがては離れられなくなっていく。

パチンコホールなど、どこにでもある。普通の人は「ただのお遊びだ」と思って入り込み、勝負に熱くなる。そして、ふと「これは無尽蔵に金を失うギャンブルだ」と気付いたときには、もうギャンブル特有の高揚感を覚えてしまって抜けられなくなっている。

負けが込んで手持ちの金がゼロになったら終わりになるわけではない。そこからギャンブル依存者は借金をするようになり、借金が返せなくなると今度は犯罪にも手を染めるようになっていく。

パチンコホールは人々がギャンブルに堕ちるのを止めてくれない。むしろ自分たちの利益のために、人々がギャンブルに堕ちるのを望んでさえいる。なぜなら、人々がただひたすら金を注ぎ込んでくれればパチンコホールがひたすら儲かるからである。

パチンコホールだけではない。証券会社も、FX取引会社も、カジノ運営企業も、ゲーム会社も、ある特定の企業は「自分たちの儲け」のために人々がギャンブル地獄に堕ちるのを望んでいたりする。

これも社会のひとつの裏面である。そして、地獄に堕ちた人が今日も借金を膨らませ、犯罪を犯して逮捕される……。

邪悪な世界の落とし穴
『邪悪な世界の落とし穴 無防備に生きていると社会が仕掛けたワナにおちる(鈴木 傾城)』

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