贅沢品(ラグジュアリーブランド)のワナ。それで自己顕示欲を満たせなくなる理由

贅沢品(ラグジュアリーブランド)のワナ。それで自己顕示欲を満たせなくなる理由

ラグジュアリーブランドを所有することは、果たして本当に恒久的な満足感を生むのだろうか。そうではないことがわかっている。ラグジュアリーブランドをひとつ買った人は、それで満足するのではなく、次から次へと他の高額商品を買い漁るようになっていくのだ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

懐中電灯を集める女性はそれほどいない?

家を出てそこらへんの道を歩いたら石はゴロゴロ落ちていると思うが、そういう石を見ても何の関心も持たない女性が、ダイヤモンドを見て心をときめかしたりする。なぜなら、そこらへんの石は無価値だがダイヤモンドは高額だからだ。

「そこらの石は光らないけど、ダイヤモンドはキラキラ光るから好き」という女性もいるが、光るのが好きなら懐中電灯でも買っておけば暗闇ではダイヤモンドよりも光る。しかし、懐中電灯を熱狂的に集める女性はいないだろう。

要するに、ダイヤモンドは「高い」というだけで女性を惹きつけていることになる。

スーパーにいったらビニールのレジ袋が3円くらいで売ってると思うが、そういうのを見ても何の関心も持たない女性が、ルイヴィトンのバッグを見て心をときめかしたりする。なぜなら、レジ袋は安いがルイヴィトンは高額だからだ。

そういう女性の虚飾を笑う男も、見てくれが良いがやたらと高額なポルシェを買って悦に入っていたり、ロレックスを買って見せびらかしていたりする。私が聞いたこともないような高額ブランド品の時計の名前をいって自慢してくる男もいる。

そういうのは、普通の人が買えないほど高い価格がついている。本人は「高いものを買える自分」に酔って、まわりの人間にマウントを取って優越感に浸りたいから、そういうのを買っている。

高額なブランド品は、単にそのものの実用性や美しさだけではなく、そのものが持つ「社会的なステータス」を誇示しているにすぎない。高価なものを所有することは、他人に対して自分の経済力や成功を誇示する手段として機能する。

そして、それが一部の自己顕示欲の強い人間には自己肯定感を高め、自尊心を満たす。ブランドのステイタスが自分のステイタスように錯覚するのだ。

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そこには激しいまでの自己顕示欲がある

じつのところ、私自身は意味もなく高額なブランド品は興味も関心もない。ブランド品を身につけていたり、自慢していたりする人を見ても、うらやましいとも何とも思わない。

私もそんなものを買おうと思ったら買えるカネはあるかもしれないが、そんなものにカネを使おうとはまったく思わない。今まで一度も高額なブランド商品に関心を持ったこともない。

「高価なもの」を手に入れることは、多くの人々にとってマウントするための自己表現の一環であり、他者からの評価を得るための手っ取り早い手段となる。

こうした「高価なもの」は、マーケティング用語では「ラグジュアリーブランド」と呼ばれるのだが、このラグジュアリーブランドの購買意図に与える影響を分析した結果として、5つの上位次元が影響を及ぼしていることがわかっている。

その5つとは、「名声、エリート主義、独創性、洗練性、情趣」であるという。

このマウントの正体がここにある。ラグジュアリーブランドを手に入れたい人は、それを身につけることによって「名声が欲しい」「お前らと違う」「エリートとして扱え」「すごいと思え」「洗練されていると認めろ」と叫んでいるわけである。

そこには、激しいまでの自己顕示欲がある。ラグジュアリーブランドが高額であればあるほど、自己顕示欲が強いということになる。自己顕示欲をカネで買ったものがラグジュアリーブランドだったのだ。

私はそんなものを買って誰かと比較して自分を高めたいとは思わないし、そんなマウントを取っても自分が優越感に浸れるとはまったく思わない。しかし、そうしたい人が大勢いる。

また、現代は「カネこそすべて」の弱肉強食の資本主義なので、そうしたラグジュアリーブランドを身につけた人は成功者として扱われる。そのため、まだ自己顕示欲を満たせない人が、羨望する構図が社会にある。

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手に入れたものは、どうでもいいモノに堕していく

しかし、ラグジュアリーブランドを所有することは、果たして本当に恒久的な満足感を生むのだろうか。

どうやら、そうではないことがわかっている。ラグジュアリーブランドをひとつ買った人は、それで満足するのではなく、次から次へと他のラグジュアリーブランドを買い漁るようになっていくのだ。

なぜか。じつは、ラグジュアリーブランドは買った瞬間から効果が急激に薄れていくものだからである。

たとえば、超高額なロレックスを買ったとする。それを自分の知り合い全員に自慢してまわったとする。その日は誰もが「おお、すごいね」といってくれるかもしれない。では、次の日はどうか。次の日にもそれを自慢したら「いや、それは昨日も見た」といわれて、もう関心は示してもらえない。

つまり、ラグジュアリーブランドを使った自己顕示欲は、たった1回しか使用できないのだ。しかたなく、新しい知り合いを作って自慢したとしても、自慢できる相手なんか限られている。その時点で、超高額なロレックスで自慢できる局面が限られてしまう。

それだけではない。本人も手に入れたモノに対して急激に冷めていく。

人は新しいものや刺激に慣れてしまうのだ。これを「ヘドニック・アダプテーション」というのだが、欲しいモノを手に入れたあと、最初はよろこびや興奮を感じても、急激にその新鮮さに薄れて、満足感が減少していく。

結果的に、最初の感情的な高揚感が薄れて、それがすごいと思わなくなっていく。自分自身がそれに慣れるし、飽きるのだ。

そうしているうちに、次から次へと新しい商品やトレンドが登場する。人々はつねに新しいものに興味をそそられる。ある商品を手に入れた直後に、より新しいものや魅力的なものが目に入ると、手に入れたものへの興味が薄れて、新たなモノに対して渇望が高まる。

新しいモノを買ったら、また知り合いに自慢できる。しかし、もちろん、それも一回きりの効果である。だから、ラグジュアリーブランドでしか自己顕示欲を満たせない人は、永遠に新しいモノを買いまくっていくしかなくなる。

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ラグジュアリーブランドのワナから脱する

つまるところ、ラグジュアリーブランドは誰かに見せびらかすことでしか機能しないのに、その効果は一回だけの非効率なものであったのだ。これがラグジュアリーブランドのワナである。

多くの人は成金になれないので気づかないが、モノによって自己顕示欲を満たすというのは、そういうことなのだ。

ブランドのバッグ、ブランドのファッション、ブランドのアクセサリーを次から次へと買いまくる女性は、まさに一回しか自己顕示欲を満たせないので、ラグジュアリーブランドのワナにハマって「買い物依存」になっていく。

どこかの財閥の御曹司みたいに無尽蔵にカネがあるのなら、死ぬまでそうやって「馬鹿げたほど高額な商品」を買いまくっていけるのだろうが、だいたいの人は資産は有限なのでどこかでカネが尽きる。

その瞬間に、「カネを使いまくって破綻した馬鹿なやつ」と嘲笑される存在に転がり落ちていくしかない。

本当の意味で、ラグジュアリーブランドに愛着がある人は、買ったものを愛し、それを何十年も大切にし続けるのだろう。しかし、自己顕示欲のためにラグジュアリーブランドを使う人は、一瞬で非効率な「ラグジュアリーブランドのワナ」に堕ちる。

そこから脱するためには、モノで自己顕示欲を満たすのではなく、虚飾やステータスに依存せずに生きる道があることに気づく必要がある。その「気づき」こそが、自分自身の価値観と本当の欲求を知るための入口である。

ただ、ラグジュアリーブランドで自らの存在価値を消費している人たちは、自己表現、人とのつながり、感謝の心などに存在価値は認めていない上にラグジュアリーブランドに目がくらんでいるので、よほどの覚醒でもない限り、こうした価値観には気づくことがない。

そのため、一生ラグジュアリーブランドのワナから脱することができないまま、今日も無駄金を使いまくる。

そういう人が増えるのであれば、私ならラグジュアリーブランドを提供する企業の株、たとえばLVMHのほうを買うだろう。自己顕示欲の強い人からカネを巻き上げる企業から分け前をもらう。そういう株にもあまり関心はないが、ブランド品を買うなら、その会社の株を買うくらいの分別はある。

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