イスラエルとハマスの停戦合意。しかし、77年間にわたる憎悪の歴史は続いていく

イスラエルとハマスの停戦合意。しかし、77年間にわたる憎悪の歴史は続いていく

イスラエルとハマスのあいだには長年にわたる深い不信感があり、わずかな衝突が合意全体を崩壊させる可能性もある。今回はガザが壊滅的なダメージを受けていることもあり、ハマス側は立て直しに時間を要するかもしれない。しかし、77年間にわたる憎悪の歴史は続き、衝突は終わることがない。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

イスラエルとハマスの停戦合意

2025年1月17日、激化していたイスラエルとハマスの軍事衝突に突如として転機が訪れ、両者は停戦合意の締結に至った。昨年まで幾度となくおこなわれた話し合いが不調に終わってきた状況を考慮すると、この合意は大きな転換点となる。

周辺国のエジプトやヨルダン、さらに湾岸諸国が水面下で圧力をかけつつ、国連や複数の調停機関が尽力したことが背景にある。だが、とりわけ2025年に入り、ふたたび大統領の座に就いたドナルド・トランプが積極的に発言を繰り返し、中東情勢への関与を強めた点が大きい。

トランプは選挙期間中から「イスラエルの安全を守る」と強調し、ハマスに対して「地獄を見るぞ」と警告し、「自分の政権が発足する前にハマスが人質を解放しなければならない」と強調していた。

就任後も徹底的な対ハマス制裁を示唆した一方、イスラエル側にも「一方的な攻撃をエスカレートさせれば国際社会の支持を失う」と厳しい姿勢を見せた。

トランプ特有の強硬路線が賛否を呼びながらも、結果的には両陣営を交渉のテーブルへ押し戻す形になり、エジプト政府の仲介努力と国連調整官の調停が合わさって、今回の合意成立をもたらした。

この停戦合意の前段階では、イスラエル軍がガザ地区を中心に大規模な空爆と地上掃討作戦を展開し、ハマス側もトンネル経由やロケット弾による攻撃を続行していた。イスラエル国内の南部地域では市民生活が著しく脅かされた。

一方、ガザ地区もインフラ破壊が深刻なレベルに達し、医療・食糧事情が極限状態に追い込まれていた。このまま交戦が長期化すれば、さらなる国際批判がイスラエル政府に集中し、ハマスの求心力も低下するため、両陣営にとって負担が膨張する構図だった。

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衝突を終わらせるための布石となるか?

各国の政治的駆け引きの結果、6週間の停戦期間を設けることが合意された。これは単なる一時的な休戦ではなく、双方が実質的な衝突を終わらせるための布石として位置づけられている。

戦闘が長期化し、ガザ地区の被害が壊滅的なレベルに達したこと、さらに国際社会の圧力がかかったことが、今回の合意成立を後押しした。

合意の中核をなすのは、戦闘行為の停止と人質解放である。ハマスはイスラエル人の人質を約33人解放する見込みで、その対象は女性や子供、50歳以上の男性が含まれるとされている。

これは、国際世論が人質の安全確保を強く求めた結果であり、特に欧米諸国がイスラエル政府とハマス双方に圧力をかけたことが背景にある。一方で、イスラエル側もガザ地区の人口密集地域から軍を撤退させることが求められており、実質的に戦闘の前線を縮小する方向へ舵を切った。

これは、ガザ地区の市民への被害を抑えるとともに、ハマスとの直接対決を避ける狙いがある。イスラエル政府は、あくまで軍事的優位を維持しつつ、戦略的な撤退をおこなうというスタンスを取った。

この停戦合意は、単に軍事的衝突を終わらせるものではなく、人道支援の再開という側面も持っている。ガザ地区は戦闘の激化により、インフラが壊滅的な打撃を受け、食糧や医薬品が深刻に不足する事態に陥っていた。

国連をはじめとする国際人道支援機関は、停戦の発効と同時に、支援活動の拡大に向けた準備を進めている。特に、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は、戦闘が続く中で支援活動が大きく制限されていたが、停戦によって医療や食糧供給のルートを確保し、住民への支援を本格化させる意向を示している。

これまでの経験からも、停戦が成立しても短期間でふたたび戦闘が再開される可能性は否定できないため、国際社会は迅速に支援を提供し、状況が安定する前に最低限の生活基盤を立て直す必要がある。

停戦合意の履行を確実にするため、国連は監視機関を設置し、イスラエルとハマスの双方が合意内容を遵守しているかを監視する予定である。これには、国連平和維持部隊の派遣や、第三国による監視団の組織化が含まれる可能性が高い。

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その持続性は依然として不透明なまま

だが、イスラエルとハマスのあいだには長年にわたる深い不信感があり、わずかな衝突が合意全体を崩壊させる可能性もある。特に、ガザ地区におけるハマス以外の武装勢力の動向や、イスラエル国内の強硬派の反応が、停戦の行方を左右する要素として注視されている。

総合的に見ると、この停戦合意は、双方にとって完全な勝利を意味するものではない。

イスラエルにとっては、ガザ地区からの軍事撤退はハマスへの譲歩と見られかねない。一方、ハマスも人質解放という形で大きな交渉カードを失うことになり、内部の強硬派からの反発を受ける可能性がある。

それでも、この合意が成立した背景には、双方が軍事的な限界に直面し、これ以上の戦闘継続が得策ではないと判断した現実がある。

イスラエル国内では、戦争の長期化に伴う経済負担や国際的な批判が高まり、ハマス側でもガザの壊滅的な状況により市民の支持を維持するのが困難になっていた。結果的に、双方が互いに譲歩する形で停戦が実現した。

しかし、その合意の持続性は依然として不透明なままである。過去にも停戦が成立したあと、何らかの挑発行為によってすぐに戦闘が再開された例は少なくない。

イスラエルがガザ地区の特定の武装勢力に対して限定的な攻撃を実施する可能性もあり、ハマス側も停戦中に軍事力を立て直す動きを見せる可能性がある。さらに、停戦が延長されるかどうかも大きな課題となる。

6週間後に何が起こるのかは、誰にもわからない。

イスラエルとハマスの憎悪の歴史は非常に長い。イスラエルとハマスの対立は、1948年のイスラエル建国と第一次中東戦争に端を発する。この戦争によって約70万人のパレスチナ人が故郷を追われ、「ナクバ(大惨事)」と呼ばれる歴史的な苦難が始まった。

イスラエルは建国を勝ち取ったが、その代償としてパレスチナ人の怒りと憎悪を生み、それが現在まで続く紛争の根底にある。以降、両者の衝突は77年間途絶えることなく続き、和解の兆しが見えたことは一度もなかった。

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ハマスはイスラエルの消滅を目指す立場

憎悪の連鎖を決定的にしたのは、1967年の第三次中東戦争である。この戦争でイスラエルはガザ地区、ヨルダン川西岸、東エルサレムを占領し、パレスチナ人はさらなる喪失を経験した。

イスラエルは占領地にユダヤ人入植を進め、パレスチナ側の民族的アイデンティティを脅かした。一方、パレスチナ人はこの状況に反発し、PLO(パレスチナ解放機構)を中心に武装闘争を強化していった。

しかし、PLOは1980年代から外交路線へと傾きはじめ、イスラエルとの和平交渉に舵を切るようになる。この動きに反発し、より強硬な手段を取る組織として1987年に誕生したのがハマスだった。

ハマスは政治的交渉を重視するのではなく、イスラム主義に基づく武装闘争を前面に押し出した。彼らにとって、イスラエルの存在そのものが許されるものではなく、イスラエルの消滅を目指す立場を崩さなかった。

第一次インティファーダ(民衆蜂起)を契機に、ハマスは爆弾テロや自爆攻撃を用いることで、イスラエルに対する徹底抗戦の姿勢を示した。これに対し、イスラエルは軍事的な弾圧を強め、パレスチナ自治区内での監視や封鎖を強化する。こうして、武力の応酬は止まることなく続いた。

2005年にイスラエルがガザ地区から撤退し、2006年の選挙でハマスがパレスチナ自治政府の多数派を占めると、事態はさらに悪化した。

パレスチナ内部でハマスとFatah(ファタハ)の対立が激化し、2007年にはハマスがガザを完全掌握。これ以降、ガザ地区は実質的にハマスの支配下に置かれ、イスラエルとの武力衝突が常態化した。

イスラエルはガザに対して厳しい封鎖政策を取り、ハマスはそれに対抗するためにロケット攻撃を繰り返した。これが、2014年、2021年、そして2023年の大規模衝突へとつながっていく。

これが、77年間にわたる憎悪の歴史である。そして、この憎悪が消える兆しは、いまだに見えない。今回の合意も一時的なものであり、時がくればふたたび軍事的な衝突が引き起こされることになるはずだ。3月以降に状況がどのように変わっているのかは注視する必要がある。

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