ジョリビー。フィリピンの国民食を提供する企業は東南アジアでも成功できるか?

ジョリビー。フィリピンの国民食を提供する企業は東南アジアでも成功できるか?

フィリピンにおけるジョリビーの存在感は絶対的だ。「ジョリビーこそフィリピン人のソウルフード(国民食)だ」という人もいるくらいだ。それくらいジョリビーはフィリピン人の生活に定着している。最近このジョリビーが台湾やシンガポールにも進出しているというのを報道で知った。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

フィリピンでもジャンクフードまみれ

身体に良いものだとか、健康食品だとかは大の苦手で、ほとんどジャンクフードしか食べない私は、フィリピンでもジャンクフードまみれの日々を送っていた。ジョリビーはアンヘレスにいたときは、かなりの頻度で利用していた。

フィリピンをうろついていたら、あの赤と黄色の鮮やかなカラーリングに身を包んだハチのキャラクターの看板はどこでも目に入る。

浮かれた笑顔で顧客を迎えるそのマスコットは子供向けのようで最初は入りづらい気持ちもあるのだが、馴染んでしまうと、どうということはない。店内では、大学生や社会人など幅広い層がそこで食事する姿が印象に残っている。

ジョリビーで人気なのは、香ばしいチキンジョイだ。私はチキンナゲットのほうがメインだった。ハンバーガーは、まあまあそれなりの味だ。これを歯が溶けるくらい甘いアイスティーで流し込みながら食べる。ほとんど毎回このメニューだった。

奇妙なことに、ジョリビーではライスメニューもあったりする。私自身はハンバーガーとチキンが目当てなので、そういうのは一度も食べたことがないが、フィリピン人は嬉々として食べていた。

フィリピンの歓楽地アンヘレスにいたときも、ウォーキングストリートから道をはさんだ向こう側にジョリビーがあって、朝から晩まで多くの人々が列を作っていた。地図で見てみると、今もまだこの店は存在していた。

もう長いことフィリピンには行っていないので、すっかりジョリビーの味も存在も忘れてしまっていたのだが、最近このジョリビーが台湾やシンガポールにも進出しているというのを報道で知った。

それで、ひさしぶりにこのファーストフードのことを思い出した。

もう長いことフィリピンには行っていないので、すっかりジョリビーの味も存在も忘れてしまっていたのだが、最近このジョリビーが台湾やシンガポールにも進出しているというのを報道で知った。

ジョリビー・フーズ(JFC)という企業

ファーストフードの世界では、マクドナルド、バーガーキング、ケンタッキーフライドチキンのような国際ブランドが強大な力を握っている。ところが、フィリピンではジョリビーが大健闘しているのだ。

ジョリビー・フーズ(JFC)はフィリピンの外食産業で最大手であり、国内だけで約1,200店舗を展開している。日本のマクドナルドが全国津々浦々に根を下ろしているのと同様、ジョリビーもフィリピンのあらゆる街角でその赤い看板を掲げている。

ローカル企業が、世界企業とここまで互角に渡り合えるのはなかなかだ。

報道では台湾やシンガポールを拠点に店舗展開を図るとのことだったが、フィリピンで育ったこのブランドを、まずは東南アジア、そして東アジアでも展開してもらいたいものだ。

報道によると、ジョリビーは台湾の家庭料理チェーン「双月食品社」の株式70%を取得し、約1億380万台湾ドルを投じて買収をおこなっている。双月食品社は台湾のみならずシンガポールにも同チェーンが店舗を有しているため、ジョリビーは台湾とシンガポールに拠点を得る。

すでにフィリピン国内で確固たる地位を築いたジョリビーにとって、海外市場の開拓は当然の進路だといえる。特に東南アジアはそれぞれの食文化が複雑に絡み合い、人口増加も後押しして外食産業が拡大している。

ところで、私がアンヘレスにいた頃はウォーキングストリートを抜けたフィールズ・アベニュー側に中華料理のファーストフード「チャウキング」があって、これまた私の馴染みの場所だった。

今回のジョリビーの拡大路線に興味を持って調べてみると、なんとこの「チャウキング」もジョリビー・フーズの経営する店だった。私は知らずして、ジョリビー・フーズの経済圏の中で生きていたらしい。

ほかにも、バーガーチェーン「チャンプ」や現地のベーカリーチェーンなどにも投資して、巨大チェーンを拡大している。ジョリビー・フーズ全体が抱える国内外総店舗数は約6,480店だというので、思ったよりもスケールが大きな企業だ。投資したいが、日本から投資するチャンネルは残念ながら見当たらない。

フィリピン人とジョリビーの深い結びつき

フィリピンにおけるジョリビーの存在感は絶対的だ。「ジョリビーこそフィリピン人のソウルフード(国民食)だ」という人もいるくらいだ。それくらいジョリビーはフィリピン人の生活に定着している。

フィリピンは、甘味や塩味を強めに効かせた味つけが好まれやすい。ジョリビーのスパゲッティは私は一度も食べたことがないのだが、トマトソースの甘味に加えてホットドッグやチーズなどを大胆に組み合わせるスタイルでフィリピン人には人気が高いという。

今のところマクドナルドが勝てないのは、米食文化が根強いフィリピン人のために、ジョリビーがライスメニューを用意したからなのだろう。ライスメニューは、ビーフタパだとかソーセージエッグライスなどがある。

値段は、スラム飯に比べると高いが、べらぼうに高いわけではない。こうした安価でボリュームのあるメニュー構成も、社会的に所得格差が大きい同国の事情に合致している。

あと、フィリピンの祭典やお祝い事には、ジョリビーのパーティーバケツを用意するのは一般的なのだという。家族愛や仲間との結束が重んじられるフィリピン社会では、大人数での食事が重要な儀式のようになっている。

ジョリビーのチキンはライスと一緒に満足感を得られるため、大勢が集まる場にも理想的な選択肢だ。この点でジョリビーはただのファーストフードではなく、家族や友人とのコミュニケーションを醸成する場を提供する企業として機能している。

海外への出稼ぎに行ったフィリピン人が、祖国に帰省したときに「最初に食べたいのがジョリビーだ」という話もよく聞く。海外に長期で出張にいっていた日本人が「吉野家の牛丼を食べたい」という感情に似ているのかもしれない。

いつか日本にも進出してほしいと思っている

ジョリビーは双月食品社の買収で台湾・シンガポール市場への足掛かりをさらに強化し、今後5年間で事業規模を倍増させると公言している。アジア市場は人口増加と中間層の拡大によって、外食産業の需要が膨らんでいる。

ジョリビーは台湾だけではなく、東南アジア全域への進出を狙う。シンガポールは経済や金融、観光の中心地として国際的な地位を確立しているため、ここで成功すれば世界へのアピール効果が高まる。

ファーストフードの味覚面で多様性を取り込みながら、米食文化やスパイスへの耐性があるアジア圏の人々を取り込む狙いは明白だ。近年はアメリカや中東など海外拠点も増やしてきたジョリビーだが、アジア市場へのさらなる浸透は企業ブランドを固める上で必須となる。

ただ、海外企業の買収が進むと、経営資源の分散やブランド価値の希薄化を招く可能性があると指摘する声もある。

ジョリビーの買収先が増えるほど、事業をコントロールする難易度が跳ね上がるのは事実だ。商品開発で各国の味覚に合わせようとすると、アイデンティティがぼやける恐れもある。

ただ、私自身はフィリピンのローカル発祥の企業が、ここまでグローバルに存在感を示す姿に素直によろこんでいる。

願わくば、いつか日本にも進出してほしいと思っている。ジョリビーは中東にも店舗を出しているのだが、なぜ中東なのかというと、フィリピン人の出稼ぎが中東には膨大な数で存在するからだ。出稼ぎフィリピン人と共にジョリビーも進出しているのだ。

かつて、ジョリビーは日本に進出する計画もあったのだという。もし、日本にやってくるとしたら、フィリピン人の人口が多い地区になるのだろう。現在、日本でもっともフィリピン人の人口が多いのは愛知県だ。約4万3,000人近くのフィリピン人がいる。

次に東京だが、東京では足立区の竹ノ塚地区のフィリピンパブ密集地に彼らは集まっている。(ブラックアジア:「竹の塚」のリトル・マニラ。フィリピン女性は今もいる

とすれば、ジョリビーが日本に進出するのは名古屋か足立区なのだろう。

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