深刻化するタイの超高齢化。タイ政府は思いっきり「これ」をやるような気がする

深刻化するタイの超高齢化。タイ政府は思いっきり「これ」をやるような気がする

タイの高齢化は日本よりもさらに深刻になっていきそうだ。今は小手先の対応をしているが、いよいよ間に合わなくなったらタイ政府はどうするのだろうか。私は、タイの国民・社会・政府の気質から、思いっきり「ある方向」に突っ走るような気がしてならないのだ……(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

果たして、タイ政府はどうするのだろうか?

かつて、東南アジアといえば若者が多く、労働力が豊富な地域というイメージが一般的であった。実際、フィリピンやインドネシアはそのイメージのままの国である。インドネシアでは、どんな辺鄙《へんぴ》な島にいっても、子供たちだらけだ。

日本では田舎にいけばいくほど子供が消えて高齢者まみれになるのと対極で、それだけでもインドネシアの人口動態がどうなっているのかがわかる。

フィリピンでも、街を歩いていたり、屋台のジュースを買ってそこらに座って飲んでいると、いつも子供たちが好奇の目でいっぱいにして見知らぬ私にまとわりついてくる。そういう国なのだ。

ところが、である。タイに関しては、そのイメージはもはや過去のものだ。この国では高齢化が急速に進んでいる。平均年齢は40.1歳に達し、フランスやイギリスといった先進国とほとんど変わらない。

この背景には、出生率の低下と平均寿命の延びがある。タイの平均寿命は医療技術の進歩と公的医療サービスの普及、そして健康意識の向上によって年々伸び続けている。一方で、出生率は低下し続け、現在では1.32にまで落ち込んでいる。

これは日本の1.26とほとんど変わらない。さらに、2040年までには高齢者の割合がもっと増加し、超高齢社会になると予測されている。

タイ政府はこの問題に対応すべく、高齢者支援政策や雇用促進、介護予防など、さまざまな取り組みをおこなっているが、間に合わない可能性が高い。

いつのまにか、タイも老いたのだ。タイの高齢化は、経済や社会インフラに多大な負担を強いることが予想される。

果たして、タイ政府はどうするのだろうか?

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伝統的な家族支援の仕組みが機能しなくなる

タイの高齢者人口はすでに約1,200万人に達し、全人口の約18%を占めている。2022年にはもう高齢社会に突入していたのだが、高齢者は驚くべき速度で増加しており、10年後には、超高齢社会へと移行することが確実視されている。

日本とまったく同じで、平均寿命の向上に加えて、出生率の低下が続いていることが、この現象の背後にある。

特に都市部では、高齢化のスピードが加速している。首都バンコクでは、出生率が0.8にまで低下しており、これは東京の1.08を下まわる数値だ。

地方部では2.2と比較的高い出生率が維持されているが、それでもタイ全体の高齢化をとめるには至っていない。ある意味、東南アジアでも有数の大都市になったバンコクの進展が、高齢化を加速させたといっても過言ではない。

そして、この高齢化がタイでも社会問題を引き起こしている。

タイの高齢者はその多くが田舎に取り残されている。しかし、その高齢者たちが、いまだに大半がインターネットにもアクセスしないし、スマートフォンも持っていない。彼らは現代社会から取り残されたままなのだ。

タイの高齢者市場の規模は年間9,000億バーツ以上とされており、健康食品、美容製品、日常生活の支援サービス、さらには高齢者向けの住宅市場が拡大している。

しかし、この成長はタイの田舎の貧しい高齢者が享受できるわけではなく、経済格差や都市部・地方部間のインフラ格差が非常に深刻な状態で存在していることが、高齢者問題を悪化させている。

タイでは、長年にわたり家族による高齢者ケアが一般的とされてきた。

仏教が根づくこの国では、高齢者は尊敬されるべき存在であり、家族がその世話をするのが当然とされている。この価値観がいまだに強く、老人ホームに入れることは「親不孝」とみなされるケースが多い。

ところが、都市部への人口集中が進み、若者が地方から都会へ移住することで、この伝統的な家族支援の仕組みは機能しなくなっていた。

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日本と同じ現象が、タイでも起こっている

タイの高齢者世帯の平均人数は1980年には5.2人であったが、2017年には3.09人にまで減少している。「老いた親は子供が面倒をみる」というスタイルは、大家族であったら子供たちがそれぞれ分担して資金援助や介護をすることができた。

しかし、子供が少なくなったら、少ない子供でやりくりしなければならない。単純に、数の問題でそれがキツくなったということでもある。まして、子供たちが物価の高い都会に定住してそこで仕事や家庭を持っていると、田舎に戻れない。

それなのに、独居高齢者の割合もこの20年で倍増しており、家族による支援の限界が浮き彫りとなっている。さらに、地方部では医療や福祉インフラが十分に整備されていないため、都市部との格差も拡大していく一方だ。

まったく日本と同じ現象が、タイでも起こっているのだった。

タイ政府は、高齢化に伴う課題に対して、さまざまな「小手先」の施策を展開している。30バーツ医療制度や高齢者行動計画の策定などがその一例だが、財政的な問題や実施体制の不備が目立つ。

たとえば、医療保険の適用範囲には限界があり、高齢者が受けられる治療が限られていることが問題視されている。社会保障制度についても、公務員向けの年金制度や民間企業向けの年金制度があるが、その加入率は生産年齢人口の3分の1程度でしかない。

年金は少ないがもらえるだけマシで、年金がもらえない層がかなりの数で存在する。そのため、多くの高齢者は生活が成り立たず、家族からの援助や低賃金労働に依存しているのが現状だ。

このような状況を見ると、タイの場合、高齢化によって「これから起こる社会問題」は、かなりひどいことになるというのが見えてくるはずだ。タイ政府も日本政府と同じくこの問題を放置してきたので、高齢化問題はもっと深刻になる。

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タイ政府は問題解決のためにどうするのか?

タイが日本よりも深刻な高齢化問題に直面するであろうというのは、経済発展がまだ十分でない段階で高齢化が進行していることが第一に挙げられる。

日本やドイツ、イギリスのような先進国では、高齢化に対応するための余力がまだ残っている。しかし、タイの場合、まだ国としての富の蓄積が不十分であるため、社会保障や医療のインフラ整備が追いついていない。

それに、出生率の低下が今後も続く見通しとなっているのもキツい。

政府は出生率を上げるための施策を展開しているものの、実質的な効果は限定的だ。若者が結婚や出産を避ける傾向が強く、特にバンコクでは顕著だ。理由はまったく日本と同じだ。

タイの都市部、特にバンコクのような大都市では、生活費が急激に上昇している。家賃や食費、交通費などの生活コストが高く、若者にとって結婚して家庭を持つことが経済的に厳しい現実になっている。

キャリア優先と女性の社会進出、家族観や結婚観の変化、仏教的価値観と個人主義の広がり、結婚しなければならないという社会的プレッシャーの減少などが一気にタイの社会を飲み込んでいる。

若者は結婚する余裕が消えつつあるし、無理に結婚する理由もなくなっている。子供が減って高齢者が増えるのは確実なのだから、やはりタイでも増税が当たり前になっていき、現役世代の負担が増え、それがますます高齢化を加速させる負のスパイラルに入る。

タイ政府はこの問題をどのように解決しようとするのだろうか。

タイ社会は、タクシンを追放するための軍事クーデターでも、マリファナ解禁でも、同性愛に対する結婚平等法でも、何か解決したい問題があったら、社会が激変するようなことでも思いっきりアクセルを踏み込むクセがある。

それを考えると、タイ政府は少子高齢化を解決するために、一気呵成の移民政策に舵を切るように思える。先進国の人間ならカネさえ持ってきたら永住権も国籍もポンポン与え、タイ国民との結婚を奨励するような政策を全開でやっていくように思える。

後先構わずやって、だめだったら急にブレーキをかけてやめてしまうというのがタイの国民や社会や政府の気質だ。少子高齢化の解決もそういうやり方をするような気がしてならない。

果たして、どうだろうか?

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