今では信じられないかもしれないが、1970年代のニューヨークは「腐ったリンゴ」と揶揄される薄汚い大都会だった。しかし、この頃のニューヨークの匂い立つような悪徳を当時のドキュメンタリー映画、娯楽映画、報道、写真などで見ると、本当に惹きつけられるものがある。
1971年のニューヨークは、経済的な危機に直面していた。アメリカ全体がベトナム戦争の長期化で疲弊し、1970年代初頭には「スタグフレーション」という経済停滞とインフレが同時に進む状態に突入していた。
1971年8月、ニクソン大統領は金本位制を停止する「ニクソン・ショック」を発表し、ドル価値が下落。国際経済が混乱に陥り、ニューヨークのような大都市にもその影響が波及した。
市内の失業率は上昇し、1970年には5.8%だったものが、1971年には6.5%を超えてしまった。仕事が減り、市民の生活は苦しくなった。
ニューヨーク市自体も財政難に苦しんでいた。税収が落ち込み、公共サービスの予算が削減された。ゴミ収集が遅れ、街には汚物があふれた。地下鉄や道路の整備も進まず、インフラは老朽化した。
1975年、ニューヨーク市は破産寸前に至るのだが、1971年はその前兆がはっきり現れた年だった。企業や工場は人件費の安い郊外や他州に移転し、都市部の雇用は激減した。特にブルックリンやブロンクスでは、空き家が増え、放置された建物が目立った。
ブロンクスは特に荒廃が進んだ地域だった。1970年代初頭、放火事件が急増し、1971年だけで数百件の火災が記録された。家主が保険金目当てに建物を燃やしたり、貧困層が暖を取るために火を起こしたりした結果だ。
焼け跡が広がり、街は廃墟のようになった。住民の3分の1が貧困線以下で暮らし、食料や住居を確保するのも難しかった。こうした状況は、犯罪や売春の増加に直結した。仕事がない人々は、生きるために非合法な手段に手を染めた。
そんな時代がアメリカにあったなんて信じられるだろうか? ニューヨークが荒廃していたなんて信じられるだろうか?