一般人はほとんど使わないし知らない言葉に「自殺念慮《じさつねんりょ》」がある。「自殺を想像する」ことや、「自殺について真剣に考える」こと、あるいは「自殺を計画する」ような感情をまとめた精神医学専門の言葉である。
この言葉を知っている一般人は、精神科でそのような言葉を知った当事者なのかもしれない。自殺というよりも、「死」そのものについて真剣に考え、想像し、計画するのを「希死念慮《きしねんりょ》」と言うこともある。
自殺念慮、希死念慮を持った人たちというのは、普通に生きているとめったに会わないと思うのだが、アンダーグラウンドではしばしば「自殺念慮」「希死念慮」を持った人たちに会う。とくに女性が多い。
彼女たちの話を聞いていると、「死にたい」という気持ちがひしひしと伝わってくる。そして、彼女たちは死の予行練習としてリストカットやオーバードーズをしたりしている。
まだ未成年の女の子たちも「死にたい」と言っている。
どうしてそんなに死にたいのかと、普通に生きている私たちは思ってしまうのだが、こうした女の子のひとりは「私みたいな人間は生まれてきたのが間違いだったのだから死んでいるのがデフォ」と言ったのが記憶に残っている。
「これが希死念慮というものか……」
私はそう思ったのだった。この希死念慮について、知り合いの風俗嬢と話していたら「風俗やってる子は病んでるからだいたい、希死念慮はあるかも。実際に最後まで行ってしまう子は、たぶんアレをやってる子かも」と言った。
「アレって?」と尋ねると、彼女はそっけなくこう言った。