◆狂気に憑かれたような目で、ゆっくり首を絞めてきたナーム

◆狂気に憑かれたような目で、ゆっくり首を絞めてきたナーム

タイ編
この日、久しぶりにソイ・カウボーイを歩いていた。ソイ・カウボーイは面白いストリートだ。

バーの女性たちは店の入口で客を呼び込むのではなく、道を数人の女性で塞ぐように立ち尽くして、やって来る男に抱きついて来る。

女性から目を反らしていれば無理強いされることはない。しかし、目が合うと大変だ。数人の女性に抱きつかれた上に、無理やり店の中に引きずり込まれてしまう。

甘い声、甘い目つき、甘い匂い

路上に立って客を引いている女性たちが好きだ。

もっとも原始的なビジネスの姿をそこに見る。道に立って男に秋波を送り、店の中に引きずり込む。

甘い声、甘い目つき、甘い匂い、柔らかい身体……そんな女の武器をすべて使って男を誘ってくる女に、男は抵抗する術(すべ)もない。

こんなソイ・カウボーイで出会ったナームも、そうやって抱きついてきた奔放な女性のひとりだった。親しみのある笑顔に女らしい雰囲気は非常に好感が持てた。

彼女は顔を何度となく見つめてきて、目が合うたびにとろけるような顔になってしがみついてくる。 タイ女性にしては色白で、顔の彫りが深く、非常に艶めかしかった。

健全な香気というよりも、深酒をした娘が顔を火照らせて男に絡みつくような、どこか危うい香気に近い。そんな娘の熱い誘惑に負けて彼女の所属する店に入った。

名前も聞いたこともない小さな店だった。縦長の奥に一列のカウンターがあって、女性がふたり音楽に合わせて気が乗らないような顔で身体を揺らしていた。

奥に太った白人の男がひとりいた。男はダンサーのひとりにビールの入ったグラスを上げながら、さかんにモーションを送っていたが、娘は素知らぬ顔をして踊っている。

ふたりに何があったのか知らないが、あまりうまくいっていないことは見た瞬間に分かった。


驚くほどハイセンスに変わっていったソイ・カウボーイ。

間違いなくヤーバーが効いている

そんな光景を観察しながらソファに座ると、左隣にはナームがべったりとくっついた。そして、妖艶な目つきで、猫のように身体をすり寄せて甘えるのだった。

彼女は露骨だった。上腕を取って、わざと自分の乳房になすりつけて反応を見たり、掌(てのひら)を取って、そっと自分のスカートの中に忍び込ませたりする。

それは、もう一刻も早くセックスをしたくてしたくてしかたがない、という風に見えた。

もしこれが男を落とすための計算されたテクニックだとすると、この娘は本物のプロフェッショナルに違いない。

しかし、彼女は計算し尽くして客を落としにかかっているというよりも、本当にセックスが欲しくてしょうがないような感じに見えた。

すでに目は潤んでいるし、態度は直接的で悶えるようだった。

この女性はいったいどうしたのだろう。アルコールに酔っているのだろうか。何かの麻薬に酔っているのだろうか。それともこれが彼女の地なのだろうか。

注文を取りに別の娘がやって来たが、ナームは甘えるのに忙しくて、まったく彼女を無視していた。

ウエイトレスはあきれたような笑みを浮かべ、肩をすくめて見せた。コーラをふたつ頼む。ウエイトレスが注文を取りに来ても無視するほど余裕のない娘は初めてだ。

「ヤーバー(覚醒剤の錠剤)を飲んでいるのかい?」と尋ねると、ナームは”No”(いいえ)と答えた。

なぜそんなことを聞くのか訝しがるような顔つきだ。それが本当か嘘か見抜く力はない。じっと彼女を見つめていると、彼女はとうとうズボンのジッパーを降ろしはじめる。

セックスを求めている。それも、今すぐそうしたいと思っているようだった。

間違いなくヤーバーが効いている。

「ホテルに行きたいのか?」と聞くと、ナームは「イエス」と言った。そして、小さく忍び笑いをして抱きついて来る。これは、よほど質の良いヤーバーだったに違いない。

メディカル・チェック

すぐに彼女をペイバーした。しかし、この娘を自分のホテルに連れて行くのも不安なので、この近くのホテルに連れ込むことにした。

こういうときに便利なのは、ソイ・アソーク入口にあるアソーク・ホテルだ。

白人(ファラン)たちも一時的に女性を連れ込むのによく使っている連れ込み宿だ。一時的に女性を連れ込んで楽しむにはロケーションがいい。

ホテルの部屋に入ると、ベッドに転がるように倒れて、お互いの服を脱がし合った。

普通は最初に「シャワーを浴びて」ということになるのだが、ナームはいっさいの手順を省略して、そのままセックスに突入することを望んだ。

ふとコンドームを忘れたことに気がついた。部屋にも常備していない。

「コンドームは持ってるのかい?」と聞くと、ナームは持っていないと答えた。

「コンドームはいらないわ。ピルを飲んでいるから」

ためらっていると、ナームは「心配しないで」と自信たっぷりに言う。

そして、突然ベッドから起きあがると、持ってきたハンドバッグから小さな黄色の冊子を大事そうに取り出して見せた。

それはメディカル・チェックを記録するための冊子であった。古い冊子だが、ナームがこれを大事に扱っているというのは、折れ曲がったり破れたり欠けたりしていないことで分かった。

パラパラめくると、そこには彼女が検査を受けた日つがびっしりと書き込まれてあった。

ワン・ウィーク、ワン・タイム

ゴーゴーバーに勤める女性たちは、一週間に一回性病の診察を受けることになっている。

本当のところはどうなのか少々疑問を持っていたが、これを見ると意外にまじめに検査に取り組んでいるというのが推測できた。

病院へ行くというのは面倒なことだ。

もちろん痛みや苦痛があれば飛んで行くだろうが、さして異常もなく、ただの検査だけに一週間に一回も検査に行くのは大変なことだ。

だから定期的な検査というのは、あまり厳密にされていないのではないかと勝手に考えていた。

しかし、ナームが見せてくれたこの冊子を見ると、その推測は完全に外れていたと言わざるを得なかった。

彼女は毎週毎週、必ず検査を受けているようだ。

これは店が強制するからしかたがなく行っているのではなく、自発的に行っていることを意味している。強制だったら続かない。自発的だからこそ、これだけ検査を繰り返し行えるのだ。

時には危険な相手とセックスをしなければならないときもあっただろう。あるいは体調を崩してもセックスをしなければならない時もあっただろう。

そういう時にナームが頼りにしているのは、一週間に一回の病院の検査なのだというのが、この律儀に一週間ずつ日付の書き込まれた冊子に現れていた。

「ワン・ウィーク、ワン・タイム、わたしはメディカル・チェックを受けているわ」

ナームはそう言いながら冊子を開いて最後の日付を見せた。そこには昨日の日付が書き込まれていた。

“I trust you.”(信じてるわ)

「これを見て。昨日の日付になっているでしょ。わたしは性病は持っていないし、エイズでもない。だから心配しなくてもいいの。コンドームはいらないわ」

そこで、このようなことを言ってみた。

「俺はエイズじゃない。でも、もしエイズだったらどうする?」

しかし、ナームは大して気にする風でもなく、「あなたはエイズじゃない」と言った。

「だって、エイズの人はそんな話はしないから」そう言いながら、冊子をハンドバッグの中にしまい込み、すぐに抱きついてきた。

彼女の裸のわき腹をくすぐると、彼女は身をよじって笑い転げ、それから猛烈なディープキスを求めてきた。

彼女に応えながら、どうすべきか悩んだ。コンドームをつけるべきだがコンドームはない。

今さら服を着替えて部屋から出てカウンターにコンドームをもらいに行くのもムードがない。いや、そもそもムードと命を引き替えにしていいものだろうか。

エイズの抗体ができるのは大体二週間ほどかかる。その二週間の間でナームがキャリアと接触していたら?

ナームのメディカル・チェックは、彼女自身が自分の健康状態を定期的に知る手がかりにはなる。しかし、今が安全であるという保証にはまったくならない。

“I trust you.”(信じてるわ)

ナームは目を見つめながら言った。コンドームなしでセックスをするつもりでいるようだ。

その言葉を聞いて、覚悟を決めた。

ソドムに生きている男女がお互いに「信じている」と言い合っても、それは責任もなく保証もない虚しい言葉であることは分かっていた。

しかし、「信じていないが、もうしかたがないから覚悟した」というよりはスマートだ。

ゆっくりと首を絞めてきた

実際のところ、ナームを心の底から信じているわけではなかったし、ナームもそうだろう。

それなのに相手が性病やエイズでないことを「信じている」と言い合うのは、不安を打ち消したいという無意識の現れだったに違いない。

彼女は激しかった。やはりヤーバーを摂取しており、それが効いている。ケダモノのような狂態や喘ぎ声は、あまりにも常軌を逸していた。

しかし、途中からさらに驚く事態を経験するハメに陥った。

身体の上で暴れ馬のように暴走するこの娘は、急に目を開けて熱い視線をこちらに向けると、ゆっくりと首を絞めてきたのである。彼女の狂気に憑かれたような目つきが異様に恐ろしかった。

“Trust me.”(わたしを信じてね)

ナームは、ゆっくりと腕に力を入れ始める。思わず彼女の両腕を引き離した。

“What are you doing?”(何をしているんだ?)
“It’s very good. feeling good!”(これ、気持ちが良いのよ)

彼女は自分の首を絞める真似をして、「こうすると気持ちが良い」と言いながら、再び首を絞めようとする。

“Trust me.”(わたしを信じてね)

首を絞められ、それに耐えた。きつくなると首を振る。すると、彼女は手を離した。

しかし、またゆっくりと首を絞めつけて来て、耐えられなくなって首を振る。彼女は手を離す。

彼女は男の首を絞めている間も腰を動かし続けていた。もし我慢し続けて失神したとしても、覚醒剤が身体に駆けめぐっているナームは、そのまま絞め続けるはずだ。

彼女の首をゆっくりと絞めた

殺されるかもしれない。

しかし、意識が落ちる前に彼女の手を払い除けることができるはずだという自信があった。

だから、彼女の為すがままにしていたが、あまりに執拗に続く首責めに困惑した。

彼女は行為に興奮しており、身体中が汗ばんで髪は振り乱れたままになっていた。

体位を入れ替えて上になると、今度はナームが両腕をつかんできて、自分の首のところに持っていった。そして、”Come on”(やって)と言うのだった。

自分が首を絞められていたことに軽い興奮を覚えていたのかもしれない。何の違和感もなく彼女の首をゆっくりと絞めていった。

徐々に絞めて行けば、この娘はどういう反応を見せるのだろうかという好奇心が倒錯に駆り立てたのかもしれない。

ナームはうなずき、もっと絞めて欲しいと意思表示する。

彼女は首を絞められるのを待っていたのだ。抵抗するわけでもなく、一心不乱に快楽を貪っている彼女の首を、ゆっくりと、少しずつ絞めていく。

人の首を絞めたことなどないので、力の加減が分からなかった。

下手して彼女が死んだら殺人者だ。「彼女が絞めてくれと言ったから絞めたので、殺すつもりなどなかった」と言ったところで、誰も信じてくれない。

首を絞められるというのは苦しいことに決まっており、そんな行為を好むような異常性愛者の存在はめったにない。

何かトラブルがあって男が激怒に駆られて女を殺してしまったと思われかねない。

現実感を失ってしまった危険な輝き

腕に力が入れば入るほど、ナームは激しく腰を打ちつけるように哀願する。

しばらくすると、彼女の顔が充血して口を大きく開け始める。それを見て、恐れおののいて両手を離した。しかし、ナームはすぐに両手をつかんで自分の首元に持って行った。

もうこれ以上はごめんだった。

セックスに集中し、暴れるように悶え狂うナームに合わせて最後を迎えた。彼女は身体を海老反りにして長い雄叫びをあげた。まぶたが痙攣するほどのオーガスムスだった。

ヤーバーの効き目はどれほどすごいのか、思い知った夜だった。

すべてが終わると、ナームは下腹部を押さえながらシャワー室に消えて行く。

首を絞めると快感が増すというのをどこかで見聞きしたことがある。

しかし、そんな異常性愛の世界はボンデージの概念を持つ欧米やSMの概念を持つ日本だけの事象だと思っていた。

まさかこのタイで巡り会うとは夢にも思わなかった。タイにそのような被虐的な性行為の概念が浸透しているとは思えないので、恐らくこれはナームだけの嗜好なのだと思う。

しかし、彼女がこの道を究めようとすればするほど死が忍び寄ることになる。

シャワー室から戻ってきたナームは、濡れた身体でベッドに飛び込むと、再び抱きついてきた。あれだけ派手な絶頂を極めたはずなのに、まだ物足りないのだろうか。

食い入るように見つめてくる熱いナームの視線は、現実感を失ってしまった危険な輝きのようなものがあった。

彼女が破滅するのは運命づけられているような確信を持った。誰もがそう思うはずだ。それほど彼女の瞳の輝きは異様だった。

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