歌舞伎町の喫茶店で、際どい話をしている彼女は、もう風俗を辞めてしまっているので恰好を見ても化粧を見てもまったく「普通の女性」であった。
端正で好感が持てる顔をしており、派手な化粧をすればまったく違う女性に変身しそうだが、彼女は「夜の匂い」を完全に自分から排していた。これみよがしなブランド品を身につけるわけでもなく、雰囲気はごく普通の中小企業に勤めている女性会社員という雰囲気だ。
だから、彼女の口から平気で「SM」だとか「フェチ」だとか「体液マニア」とか、そんな言葉が出てくるとギャップが生まれる。外観は「昼職」に変化《へんげ》させたが、中身は完全に夜の女そのものだった。
そのギャップに私は戸惑いながらも、私は逆に好感を覚えた。彼女もまた自分の本性を隠して生きており、表社会で「普通」のフリをしているだけの野良犬の女だ。その剥き出しにした本性には痺れるものがある。
その本指の中で、「一番イッてる(一番突き抜けている)」という体液マニアの人というのは、どういうものだったのかを彼女は話してくれた。
「その本指の人、見た目40くらい? そんな感じです。すごい大手の誰でも知っている食品会社の課長さんです。頭がいい人らしくて、部下が何十人もいて、奥さんもいて、子供も2人いて、下の子供は3歳なんですよ。見た目はすごく真面目な人で、私にも敬語を使っているんですよ。名刺、持ってます」
「名刺? その課長さん、風俗でも名刺を渡してるの?」