寝不足のままマニラ・バクララン地区の夥《おびただ》しい人の群れの中をさまよい歩いていた。
陽気な屋台の男に手招きで呼ばれたので、そこで軽い食事を取り、人々の喧噪《けんそう》を見つめていたが、何となく心は晴れなかった。
ちらちらとキリスト教のシンボルや十字架が目に入るが、努力して見ないように、そして考えないようにする。予定もなく、特別行きたいところもなかったので、再びアンヘレスに行くことに決めた。
パサイやエドサは、どうも洗練されすぎていて食指が動かない。どちらかと言えばアンヘレスの場末の雰囲気しか居場所がなかった。それよりも、どうもマニラでは「十字架」が多すぎると思ったので、さっさとマニラから離れたかった。
冷静になってよくよく考えると、マニラもわざわざ捜さなければ十字架だらけというわけでもない。恐らく過敏になりすぎているだけなのだ。
しかし、追い詰められると、「十字架だらけだ」という気になってしまう。
すぐにホテルに戻ってチェックアウトして、その足で乗り合いのバスに飛び乗ってアンヘレスに向かった。アンヘレスはマニラから数時間で着いてしまう歓楽街で、売春地帯以外に何もないところが気に入っていた。
いや、そのアンヘレスにも教会があることを思い出したが、今回は絶対にそちらには足を向けないようにしようと決心した。
絶対に売春地帯から出ないようにすればいい。フィールズ通り界隈だけをうろうろしていればいい。そうすれば、十字架などはない。堕落ばかりがそこにある。
それがアンヘレスの素晴らしいところだ。
キリスト教が「退廃だ、堕落だ、地獄だ」と罵る売春地帯こそが、私の人生であり……
(インターネットの闇で熱狂的に読み継がれてきた売春地帯の闇、電子書籍『ブラックアジア フィリピン編』にて、全文をお読み下さい)
ラスト一行でやられました(笑)。
私なら、キエエエイッ!とちゃぶ台ひっくり返したい衝動にかられるか、あるいは完全に脱力し、頭かかえてたっぷり5分は不動になるかのインパクト。
傾城様のことですから、絶句したあと素早く己を立て直し、「???」という顏をしている彼女を、やや足取り重くながらも優しくバーファイン・エスコートされたことでしょう。
ごく小さなものならともかく、等身大とかましてや彩色されたマリア像やキリスト像など家にあったら震えがくるほど気色悪・・・いえその、つまり、教会や集会所に置く用に売ってるのだと思います。aurore
鈴木様、十字架に嫌悪感を抱いて、どれだけ嫌で嫌でアンヘレスに行ったのかを十分に納得させる文章
当時の心の描写、神妙な気持ちに、読み手をも鈴木様の気持ちにシンクロさせ、ドンヨリとしながら読み進めさせる内容・・・・・
が、しかし!
最後の最後でオチがあって、
笑い出してしましました。!(^^)!
茶坊主
等身大のマリアとかキリストとかこちらの郊外でも結構見ますよ。庭の飾り物です。日本人で鳥居とかを庭に立てる人が居るのと同じ感覚。私も駄目だな、キリスト教。これでもかーと押してくるあの出ずっぱり勘が駄目なんだなぁ。個人の自由ですが私的には宗教は何処にも興味なしです。理由は宗教に狂う人口が多いところこそロクなこと起きないから。歴史見ても大昔からそうでしょ。
もし私が男なら・・・生き神さまは矢張り女神さまがいいなぁ。鈴木さんも同じでしょ?(笑)
お、お疲れさまです・・・(苦笑)、否、(合掌)
t31uo29i29さん
> ブラックアジアの記事の中でベトナムのことを取り上げている記事(夜の闇も含めて)が少ない気がするのですが、あまりベトナムには思い出がないのでしょうか?少し気になります。
本当はブラックアジアは第五部、第六部と続くはずだったのです。ところが、私の体調のせいで、第四部で止まってしまいました。
ベトナムは今後の第五部以降の柱にしようと思って、わざと止めておいたのです。これは第一部を書いていたときからの構想でした。
いずれベトナム戦争も含めてベトナムという国を大々的に掘り下げるつもりでいたのですが、書けないまま今に至っております。
残念です……。でも、よく気が付いてくれました。
【鈴木傾城】
うーーん、確かにマニラにおける十字架の圧迫感みたいなイメージわかる気がします。マニラはどこに行っても教会があったり、十字架があったりするのでその点、アンへレスは気楽ですよね。それとドールハウスやクリスタルパレスなどの大型店舗より小じんまりした場末感があるバーのほうが落ち着く感じがするのも同じです。アンへレスではあまり大型店には行かないですね。ショーを見るという感じになってしまい、気楽に会話を楽しむという感じにはなりにくいからです。バーで女の子と話しているときにいつも「フィリピンに1人で来ている。」「1人で過ごすことが大好きだから全然寂しくない」ということを言うと驚かれます。現地の女の子にとってそれは全然楽しくないことだという共通意識があるようです。フィリピン人ってとにかく皆で明るくワイワイ楽しくやるのが大好きなんですね。真面目な顔をしているともっと笑ってとか、笑顔を見せてとか言ってくるのも少々疲れますね。なんで笑わなければいけないのかよくわからないからです。しかし、よく考えるとステージで数人しか踊っていないような小じんまりした場末感のあるゴーゴーバーに1人で来て糞真面目な顔をして全く笑顔を見せずにステージをまじまじ見ている方が何かおかしいですね。この奇妙な図式はよく考えると笑えます。一体何しに来てるんだと思われても全然おかしくないし。自分にとってアンへレスのゴーゴーバーはとても居辛くて入るとすぐに逃げ帰りたくなるのですがついついこの違和感に立ち向かうとどうなるのかに興味があって色々試してみたくなるところです。ところで、ブラックアジアの記事の中でベトナムのことを取り上げている記事(夜の闇も含めて)が少ない気がするのですが、あまりベトナムには思い出がないのでしょうか?少し気になります。
傾城さん、ベトナムの件了解です。ありがとうございます。とにかく面白い記事満載なので楽しく読んでおります。明日から久しぶりのバンコクです。リラックスしてまいります。