認知症が爆発的に増えて日本の日常になる。やがて自分も認知症になっていく

認知症が爆発的に増えて日本の日常になる。やがて自分も認知症になっていく

認知症になりやすい人となりにくい人がいて、責任感と勤勉さと自制心がある人は認知症になりにくいと言われている。しかし、それは比較の問題であって、そうであれば絶対に認知症にならないというわけではない。誰でも認知症になり得る。それは、もう始まっているのかもしれない……。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

これからもキレる高齢者の話題はお馴染みになるだろう

最近、認知症についてよく考える。厚生労働省老健局は2020年の認知症患者数は602万人であったと報告している。このまま認知症患者が増えていくと2025年には730万人、2050年には1016万人となることを予測している。

1000万人以上の国民が記憶を失ったまま生きている時代が来るというのは、よくよく考えると恐ろしいものがある。

最近、キレる高齢者がよく話題になる。高齢になると性格が丸くなって、いつもニコニコとしている人もいるのだが、些細なことで逆上する高齢者もいる。「老害」と言われる高齢者たちだ。

街の片隅でも若い女性に怒鳴り散らしている高齢者を見かけるし、インターネットでもTwitter等で誰かに挑発されると、すぐにブチ切れて相手を罵倒している高齢の著名人も見かける。

キレる高齢者は性格のせいであることが大半なのだが、実はそれだけではなくて、認知症の症状からもそうした行動になってしまうと医師が解説している。

このキレる高齢者は「前頭側頭葉型認知症」と言って、脳が萎縮した結果、感情の抑制が効かなくなって「キレる」という行動になってしまうのだという。記憶を失うという認知症だけでなく、感情が制御できなくなるという認知症だったのだ。

感情の制御を「忘れる」ということなのだろうか……。

キレる高齢者の話題が多くなっているということは、すなわち認知症の高齢者が多くなっているということにつながっていることになる。日本は現在、世界で最も高齢層が多い国であり、これからもどんどん高齢層が増えていく。

ということは、キレる高齢者の話題はより多くなっていくだろう。

そして、高齢者が車を暴走させる事件も、やはり認知症とは無縁ではない。高齢者の事故も日常茶飯事になっていくはずだ。

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高齢女性が「ここはどこですか?」と私に声をかけてきた

多くの人が認知症と聞いて思い浮かべるのは「前頭側頭葉型認知症」の認知症ではなく、「アルツハイマー型」の認知症であるはずだ。このアルツハイマー型の認知症というのは、「昔のことはよく覚えているのに、最近のことは何でもかんでも忘れてしまう」というものである。

認知症の症状としてよく聞くのは、「父や母が突如として自分の子供が誰なのかを忘れてしまう」というものだ。

自分の父や母が突如として「あなたは誰ですか?」などと言い出したら悲しくなってしまうが、アルツハイマー型の認知症というのはそういう病気なのだ。今まであったはずの「記憶」が消えてしまうのである。

私も記憶と失った高齢の人とは何度も出会っている。最初のものは確か10代の終わり頃だったと思う。

その頃、私は板橋区のマンションに住んでいた。夜になって出かけようと思って表に出ると、マンションの入口のところに見慣れない70代くらいの女性がぼんやりと座っているのを見かけた。

何となく目が合うと、この高齢女性は私に「ここはどこですか?」と声をかけてきた。私がマンションの住所を言うと、女性はしきりに首をかしげて考えているので、どうしたのかと聞いたら「家が分からない」と言い出した。

「住所はどこなんですか?」
「覚えてない」
「この近くなんですか?」
「分からない」
「家の電話番号は覚えてますか?」
「覚えてない」
「お名前は何ですか?」
「覚えてない」

つまり彼女は、自分のことをまったく覚えていなかった。私は驚いてしまって、あれこれあれこれ聞いてみたのだが、彼女は本当に何も覚えていなかった。持ち物もなかった。手ぶらで歩いていたようだった。

仕方なく、私は歩いて5分ほどのところにある交番に彼女を連れて行ったのだが、そこで私はもっと驚くことになった。

私が交番にいる警察官に「どうもすべてを忘れている」と事情を話して、この高齢女性を発見した場所の住所などを言っていると、彼女は突然、自分の名前と住所と自宅の電話番号すべてを思い出したのである。

警察がそこに電話すると、しばらくして家族の方がみんな蒼白な顔でやってきて、「突然、家からいなくなったのでずっと近所を探していた」と言った。

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旅行前日、パスポートをどこに置いたのか覚えていなかった

この高齢女性は運よく記憶を呼び戻したが、突然すべてを忘れる、すなわち記憶のブラックアウトを起こすのは認知症ではよくある話だ。突発的に忘れた記憶を取り戻すこともあるのだが、忘れたら忘れっぱなしになることもある。通常、認知症は徐々に徐々に進行していく。

最初は、物を置いていた場所を忘れてしまったり、さっきまで話していた話題を忘れてしまったりする。同じ話を非常に短いスパンで何度も繰り返して話をしたり、人の名前を忘れたり、約束をすっぽかしたりする。

女性であれば、料理の味がおかしくなったり、買い物に来た目的の品を忘れてしまったりする。はたから見ると、「何かおかしいな」という些細な出来事が少しずつ少しずつ積み重なっていく。

こうした健忘がゆっくりと進んでいって、最後に「自分の住所も氏名も全部忘れてしまった」とか「自分の子供の顔も忘れてしまった」という状態になっていく。

しかし、致命的なまでの認知症にいたる前の段階は、まだ日常生活に支障が出ていないので、家族は大したことがないと思う。だいたい、財布や鍵を置いてあった場所を忘れるとか、何を買いに来たのか忘れてしまうとか、そんなのは高齢者でなくても誰でもあることだ。

私自身もひどい思い出がある。旅行前日にパスポートをどこに置いたのかまったく覚えていなくて困り果てた思い出だ。

引き出しもすべて引っ張り出して、箱はすべて開け、本の間にはさまっているのかと書棚からも本を引き出したりして、家の中はめちゃくちゃになった。

結局、何とか見つかったのだが、もう片づける時間がなかったのでそのままにして旅に出た。数ヶ月後に戻って来たら、家の中がまるで泥棒に荒らされた後のようになっていて、もしかしたら本当に泥棒が入ったのではないかと心配したほどだった。

まだある。空港でふと玄関の鍵をきちんと閉めたのかどうか急に心配になったことがあった。出る時に鍵をかけていないような気がした。そこを覚えていなくて、それがずっと気になって冷や汗が流れた。

このまま飛行機に乗るかそれとも家に戻るか悩みに悩んだのだが、とにかくまったく思い出せない。

仕方なく、「鍵を閉め忘れた確率は50%、鍵が開いていて泥棒が入る確率が50%と計算し、鍵を閉め忘れて泥棒が入る確率は25%として75%の確率で大丈夫だ」と自分を無理やり納得させて旅に出た。戻って来ると、鍵はしっかりかけてあった。

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私たちは誰でも認知症になってしまう可能性がある

私だけでなく、誰でも度忘れの壮絶な経験がある。これは年齢はまったく関係がない。若年性認知症患者数は全国で約3万5000人というのだが、こうした若年性認知症とはまったく別のところで、本当になぜ忘れたのか分からないほど重大なことをスポット的に忘れることは誰でもある。

だから、高齢者が小さなことをどんどん忘れていっても、「よくあることだから」と許容し、慣れていき、仕方がないと思い、そのまま記憶が消えていくのを放置する。

実はその間に認知症はゆっくり確実に進行していて、当人の記憶を静かに消している。道に迷うのは当然で、買い物もできなくなり、やがて金の管理もできなくなる。高齢者は薬を飲む必要があるが、薬の管理も当然できない。電話の対応も難しくなってしまう。

そして、通常の会話にも支障が出てくるようになる。記憶が消えていくので、日常生活のあらゆるところで問題が発生するのだ。

認知症がさらに進むとどうなるのか。

食事を取ったことも忘れる。着替えもできなくなる。トイレもうまくできなくなる、徘徊するようになる、失禁する、大声を上げるようになる、突如として服を全部脱ぎ出す……と、どんどん人間性を失っていくようになる。

記憶を失うというのは、最終的には人間性を失うということなのである。

認知症の原因は分かっていない。治療も難しい。製薬会社はここにビジネスチャンスを見出して、様々な創薬を研究開発しているのだが、まだ根治させる薬は作り出せていない。認知の度合いを遅らせる薬はあるのだが、認知症そのものを止める薬はない。

認知症になりやすい人となりにくい人がいて、責任感と勤勉さと自制心がある人は認知症になりにくいと言われている。しかし、それは比較の問題であって、そうであれば絶対に認知症にならないというわけではない。誰でも認知症になり得る。

それは、もう始まっているのかもしれない……。

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