二〇一四年。久しぶりにバタム島に行きたくなった。インドネシアに行かなくなった十年以上も経っていた。
インドネシア語は、もうほとんどすべて忘れた。しかし、バタム島に向かう船の中で、まわりの人たちが話す言葉のイントネーションを聞いて、懐かしくて仕方がなかった。
この優しい響き。この郷愁。好きだった。
インドネシアは、私にとってとても大切な想い出に満ち溢れた国で、今もたまらなく愛しい。この言葉を聞いていると、かつて知り合った女性たちの柔らかな笑みが次から次へと浮かんで来て、甘酸っぱい感情がこみ上げてくる。
「ああ、本当に懐かしい……」
心からそう思わずにいられなかった。好きだった女たちが、この国にはたくさんいて、もう取り戻せない過去であるのは分かっていても、一気に感傷が蘇って目が潤《うる》んだ。
シンガポールからバタム島に入る一時間、私はずっとひとりで昔の初恋の恋人の棲む場所に向かうような、そんな淡い気持ちに揺れていた。取り戻せない心の欠片《かけら》を拾いに行くような、奇妙な高揚感と寂しさでいっぱいになっていた。
インドネシアの売春地帯を熱心にさまよい歩いていたのは二〇〇一年から二〇〇三年頃だった。
時の流れの早さが、私には悲しくて仕方がなかった。私は急激に若さを失ったし、もう売春地帯をさまよい歩くという生活すらもしていなかった。私は変わったつもりはないのだが、時は否応なく私の生活を変えていた。
私から売春地帯を取って何が残るのだろう。私から、女たちの想い出を奪ったら、何が残るのだろう。
若い頃から、売春地帯をさまようことだけしかしていなかったのに、それを捨ててしまったら、私の人生には何も残らない。私にとって、あの熱い身体を持った寂しい女たちの姿は、自分の人生をも変えたものだった。
それなのに、今の私には……
(インターネットの闇で熱狂的に読み継がれてきた売春地帯の闇、電子書籍『ブラックアジア』。本編に収録できなかった「はぐれコンテンツ」を掲載。電子書籍にて全文をお読み下さい)
私は小学校のときから酷い近視で…母からメガネは命の次に大事だから大切にしなさい、と言われて育ちました。今は安価で幾つも持てるので大事に扱ってるとはいえませんが、片時も手離せないものであるのは確かです。
そんな私には今回の記事もアニスの記事も切なくて切なくて…。確実に彼女たちの手元に現品が届く仕組み作れないかな。私がひとつ余分に手に入れるのを手渡してあげたいです。
私は小学校のときから酷い近視で…母からメガネは命の次に大事だから大切にしなさい、と言われて育ちました。今は安価で幾つも持てるので大事に扱ってるとはいえませんが、片時も手離せないものであるのは確かです。
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