絶叫するカーラ。インドの売春地帯にやって来る男は獲物

絶叫するカーラ。インドの売春地帯にやって来る男は獲物

いつもの如く、夜も9時を過ぎた頃にソナガシの奥の奥を歩いていると、大勢固まって立っている女性のひとりが飛び出してきた。そして、腕をがっしりとつかんで離さない。

アーリア系民族独特の高く隆起した鼻、そして落ち窪んだ眼窩に、幾重にも折り重なったまぶた。典型的なインド女性の姿だった。目尻に皺が見える。

「ジキジキ!」

彼女は大声でそう叫ぶ。そして、建物の中に引きずり込もうとする。普通、男に選んでもらおうとする女は多少なりとも媚びるような笑みを浮かべるものだが、彼女は違った。

必死になり、ほとんど凶悪とも言える表情を浮かべている。強引で、粗野で、野性的な女性は過去にも何度も経験しているが、これほどまで必死な女性も珍しい。

額に装飾用のビンディ(印)、両方の耳朶と小鼻にはピアスが入っていた。派手な黄色のサーリーを着ているのだが、よく見るとサーリーは汚れ、しかも裸足だった。

その気迫に恐怖を抱きながらも、いったいこの彼女はどんな女性なのだろうという好奇心を隠せなかった。

そこで、引きずられるがままについて行った。

まわりの女たちが、ほとんど苦笑とも取れる曖昧な笑みを浮かべてこちらを盗み見している。恐らく彼女は、いつもこんな調子で男を奥に引きずり込んでいるのだろう。

ソナガシは、奥へ行けば行くほど建物の荒廃の度が進む。連れ込まれた売春ビルも、ひどく年季の入ったビルだった。震度3くらいで倒壊しそうだ。

中庭の真ん中には共同井戸があって、ぐるりと囲む部屋の方々には、洗濯物が干していたり、食べ物の臭いを漂わせていたりする。その生活臭は強烈だった。

彼女の部屋に行く途中で名前を訊いたが、彼女には通じなかった。ただただ男を絶対に逃がさないと、必死に手をつかんでいる。

この女性は、まったく英語が話せなかったのだった。

しかたがないので、”Naam kya hai?”(名前は?)と慣れないヒンディー語で訊ねてみる。彼女は振り返って、まじまじとこちらを見たが、「カーラ」とだけ答えて……

(インターネットの闇で熱狂的に読み継がれてきた売春地帯の闇、電子書籍『ブラックアジア番外編 絶対貧困の光景 夢見ることを許されない女たち』にて、全文をお読み下さい)

絶対貧困の光景
『絶対貧困の光景 夢見ることを許されない女たち(鈴木 傾城)』

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