ドラッグ依存に堕ちるのは簡単だ。ドラッグに対して思い切り心を解放すればいい。ドラッグの与えてくれる強く心地良い快楽に身を委ねればいい。そうすれば、あっという間にジャンキー(ドラッグ依存者)になれる。
しかし、ドラッグから抜け出すのは難しい。身体的依存・精神的依存が本能レベルで刻み込まれる。理性で止めようと思っても、本能が「欲しい、やりたい、浸りたい」という気持ちを燃やして理性を吹き飛ばす。
たとえば、空腹は本能である。人はちょっとした空腹でも耐えることができないほど本能に弱い。強い空腹を感じると、どんなに集中力がある人でも何も身に付かないほどイライラする。
いくら強い決意でダイエットに臨んでも、ほとんどの人は空腹に耐えられなくなって食べてしまう。性欲も、睡眠欲も同じだ。本能が訴える渇望は、意志を凌駕するほどの強烈さで湧きあがってくるのだ。
ドラッグを断ち切るというのは、「極限の空腹であっても食べない」のと同じであり、「爆発しそうな性欲を抑える」のと同じであり、「絶望的に眠たいのを我慢する」のと同じである。もしくは、それ以上の意志がいる。
普通、これほどの強烈な自制ができる人はいない。意志を超えたところにある本能レベルの渇望を抑えるということだからだ。
ドラッグ依存を克服するというのは、そういうことである。だからドラッグ依存を克服するというのは奇跡的だと言われるのだ。特にヘロインのようなハードドラッグに関してはそうだ。