【祝】タイが誇るあの「古式マッサージ」が、ユネスコの無形文化遺産に決定!

【祝】タイが誇るあの「古式マッサージ」が、ユネスコの無形文化遺産に決定!

タイの古式マッサージは「指圧」だけで行う一般的なマッサージとはまったく違っている。身体の関節、ツボ、筋肉、リンパをあらゆる形で刺激するもので、施術者の動きは医療であるのと同時に「芸術的」でもある。ユネスコは無形文化遺産に決定したその理由として、「芸術と科学、文化を兼ね備えた伝統医療」と述べているのだが、ここで言う「芸術」というのは、何度も何度もタイ古式マッサージの施術を受けた人間にとっては理解できるものであるはずだ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

それは、医療であるのと同時に「芸術的」でもある

2019年12月12日。ユネスコ(国連教育科学文化機関)は、タイの古式マッサージを無形文化遺産に登録することを決定している。

タイの古式マッサージは「指圧」だけで行う一般的なマッサージとはまったく違っている。身体の関節、ツボ、筋肉、リンパをあらゆる形で刺激するもので、施術者の動きは医療であるのと同時に「芸術的」でもある。

ユネスコは無形文化遺産に決定したその理由として、「芸術と科学、文化を兼ね備えた伝統医療」と述べているのだが、ここで言う「芸術」というのは、何度も何度もタイ古式マッサージの施術を受けた人間にとっては理解できるものであるはずだ。

このユネスコの決定を歓迎したい。最近、タイの古式マッサージを受けていないことに気づいたが、近々また受けに行きたいと思う。

現地タイで受けることもできるが、日本でもタイ古式マッサージの訓練を受けたプロの施術士が大勢いるので、現地に行けない人でもインターネットで家の近くで店を探して受けることができる。

まだ受けたことのない人は是非受けてみて欲しい。ただし、初めて受ける人は指圧だけのマッサージと違って戸惑うこともあるだろう。そして、まだ若くて身体が柔軟だと、あまりマッサージの良さが分からないかもしれない。

かく言う私もそうだった。

私自身がタイ・マッサージを初めて受けたのは二十歳(はたち)の時だ。タイの方々を旅していたのだが、タイ南部の地方都市ハジャイに辿り着いた時、泊まっていたホテルの下がタイ古式マッサージ(タイ伝統マッサージ)の店だった。

店の前にいた中年の女性に「やっていかない?」と言われたのだが、タイのマッサージは「痛い」と聞いていたのでまったくやる気がなかった。しかし数日後、話のネタになるのであればと気を取り直してチャレンジしてみた。

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やがてマッサージの「良さ」というのが見えてくる

無理な体位で身体をひねられたりツボを押されて激痛にうめいたり、なかなか「楽しい経験」ではあったが、それで身体が気持ちよかったかどうかと言われれば何とも言い難いものがあった。

マッサージというものが「なぜそんないいのか」が分からないまま、私はそれから10年近くもマッサージを受けなかった。

マッサージが初めて「効く」体験をしたのはカンボジアにいるときだ。北部バッタンバン州で船を乗る時に腰をひねってからずっと腰の痛みが取れなかったのだが、ある日プノンペンに日本式の按摩屋があるというので半信半疑で行ってみた。

そこで盲目のカンボジア人の男性にマッサージをしてもらったのだが、これが本当に心地良かった。痛みが治ったわけではないのだが、それよりもマッサージを受けることの心地良さに初めて開眼した。

ツボを押されるとき、筋肉の奥の知らなかった痛みを叩いてほぐされる時、これほど芯から心地良く感じるとは夢にも思わなかった。

日本人だから日式が効いたというわけではない。歳を取ってマッサージそのものが効く身体になっていたのだ。

人によるのだが、一般的な話をすると、マッサージは子供や若者がやっても気持ち良くないと言われている。くすぐったかったり、単に痛かったり、何も感じなかったりする場合が多い。

しかし、体力が落ちてきて、恒常的に身体が疲労を感じるようになると、やがてマッサージの「良さ」というのが見えてくる。

「芯から心地良い」というのは、それだけ疲れが溜まっているということなのだろう。若ければ何もしなくても自然に回復する疲れが、回復できなくなったという言い方もできる。

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「覚えたくなる」という衝動は私にもよく分かる

カンボジアからタイに戻って改めて街を見回すと、バンコクにもあちこちにマッサージ屋があった。もちろん、いくつかは怪しげなマッサージ屋なのだが、「タイ古式マッサージ(Thai Traditional Massage)」と謳っているところはまともなところだ。

カンボジアでマッサージの心地良さに開眼してしまった私は、私はヤワラーで牙科(歯医者)の隣に仰々しい看板を掲げた古式マッサージ屋に入って個室でプロの施術を受けたのだが、もうすっかり病みつきになってしまっていた。

腰痛に関して言えば、日本に帰る頃にはすっかり腰痛もなくなっていたが、これはマッサージを受けたから治ったのか、それとも自然治癒したのかは分からない。

しかし、それ以降は、別に身体が痛くなくても、たまにマッサージの心地良さだけを味わいたいがために、タイ古式マッサージを受けるようにしている。

歩き回って足が棒のように張ったあとに受けるマッサージがまた格別で、マッサージを受けている時間が、非常に贅沢な時間を感じてしまう。

タイの古式マッサージの特徴は、身体をひねったりねじったりする際の、本人が痛みを感じるギリギリのところで止めて筋肉を伸ばすところにある。この苦痛を感じる前までのギリギリのところが心地良い。いや、今では痛みすら心地良いと感じるようになっている。

若い頃の「何がいいのか分からない」とは真逆の心境だ。あまりにも心地良すぎて、腕の良い施術士にかかると意識まで飛んでしまう。心地良い感情の中に落ちて、2時間どころか3時間ですらも「あっと言う間」と感じるくらいだ。

人によっては、あまりにも心地良いので自分が受けるだけでなく、その技を覚えたくなる人もいるほどである。

「覚えたくなる」という衝動は私にもよく分かる。タイ古式マッサージの施術者の動きは「芸術」だからだ。古式マッサージを覚えるというのは一種のタイ舞踊を覚えるのと同じニュアンスがそこにある。

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無形文化遺産の技を一度くらいは受けても損はない

タイの古式マッサージは筋肉や関節をリラックスさせるために施術者は自分の身体のすべてを動かし、指だけでなく、自らの膝や肘や足や体重を自由自在に使って流れるように術をかけていく。

マッサージを受ける被術者は、マッサージを受ける中で気が付けばいくつかのポーズになるように身体を動かされているのだが、こうした動きのひとつひとつはヨガのポーズに通じるものがあるという。

その理由は、このタイ古式マッサージの発祥がインドから来ており、インドの古代医学であるアーユルヴェーダの流れを汲んでいるからであると解説されている。

インドからタイに伝わったと言われているのは「2500年前」なのだが、2500年と言うと途方もない昔でもある。だからこそ「古式」なのだ。

この古式マッサージは今もタイではバンコク最古の寺院「ワット・ポー」で施術を学ぶことができるのだが、なぜ寺院で古式マッサージが学ぶことができるのかというと、そもそも2500年前にタイに古式マッサージを紹介したのが仏教の僧侶たちだったからでもある。

タイの人々の伝統になっている合掌(ワイ)もまた、古式マッサージの前に行われる挙動(ビヘイビア)のひとつであった。

仏教、古式マッサージ、合掌(ワイ)。

タイという国や文化を象徴するものがすべて絡み合って存在しているということが分かれば、ユネスコがタイの古式マッサージを無形文化遺産に登録することはとても自然なことであるのが分かるはずだ。

2500年前から続いているこの伝統的な「術(わざ)」である古式マッサージをまだ受けたことがないという人がいたら、それはもったいないことだ。無形文化遺産の技を一度くらいは受けても損はない。

『タイマッサージ・バイブル―ワットポースタイル(大槻 一博)』

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