インドのスラムを出入りしていたとき、そのスラムに住む子供たちと仲良くなった。その中のひとりに、とびきり可愛らしい少女がいた。年は10歳くらいだろうか。
その少女に「チャイが飲みたいんだけど店はある?」と聞いたら、大きな目をぱっと輝かせて、「向こうにある」というようなゼスチャーで私に教えてくれた。
私が行こうとすると、少女は一緒に行くと言わんばかりに私の手を引いて引っ張った。私たちは、仲良く手をつないですぐそばのチャイ売り場まで歩いていった。
そのわずか10メートルほどの短い間、私と少女は手をつないでずっと歩いていた。
その時にふと私が思ったのは、もし私が変質者で犯罪者であったとしたら、この屈託のない少女はどうなってしまうのだろうか、ということだった。
私はそのスラムに何度も出入りしているので、まわりの大人たちは私たちが手をつないで歩いているのを見ても何ら関心を持っていなかったが、その無防備さが私は逆に恐ろしかった。
私はここでは得体の知れない外国人であり、よそ者であり、誰も私が何者なのか知らない。にも関わらず、こんなにも簡単に少女をスラムから外に向かって手をつないで歩いている。