セバスチャン・ミラックスという49歳の男がいた。フランス人の白人(ファラン)だ。
この男はカンボジアの首都プノンペンの売春ストリートのひとつとして知られている144ストリートのバー『バニー・バー』で飲んでいた。
カンボジアにはバーが立ち並ぶいくつかの通りがあるのだが、144ストリートはワットプノンの近く、比較的北側にあって夜になるとあまり観光客が来ない。
そして、バーはどれも小さくて場末の雰囲気が漂っている。だから、逆に通(つう)の男たちは136ストリートよりも144ストリートを好む。
セバスチャン・ミラックスもそんな男のひとりだった。
この日も男は浴びるように酒を飲んでいたのだが、トンレサップ沿いに走っている大通りから入ってすぐに右側にある『バニー・バー』でメイ・スレイレークという名前の32歳の女性をペイバーした。
ふたりは、ミラックスが泊まっているレンタル・アパートに向かって129号室の部屋に入った。そして、ミラックスはまずは女性を部屋に残してシャワーを浴びて戻ってきた。そして、トラブルが起きた。