
ローンオフェンダー(単独犯罪者)の起こす事件は、「自分は社会から受け入れられていない」「自分は価値のない存在だ」といった被害妄想や劣等感が裏にある。そうした感情が心の中で鬱積し、内面で怒りが増幅して最後に爆発する。すべての人間に対する敵意、極度の絶望からくる破壊衝動がそこにある。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
ローンオフェンダー(単独犯罪者)の犯罪
長野県中野市で発生した4人殺害事件は、いまだ記憶に新しい衝撃的な事件である。2023年5月、70歳と66歳の女性2人が日課のウォーキング中、突如刃物で襲撃されて命を奪われた。
その直後、現場に駆けつけた男性2人も同じ加害者によって襲われ、合計4人が犠牲になった。被害者はいずれも加害者と特別な面識はなかった。犯行は一瞬のうちにおこなわれ、地域社会に計り知れない恐怖と不安を残した。
警察の発表や報道によると、この男は組織や特定のグループに属しておらず、家族や近所付き合いもほとんどなかったとされている。つまり、単独で犯罪を計画し、実行しているローンオフェンダー(単独犯罪者)の起こした事件だった。
動機は、「自分は社会から受け入れられていない」「自分は価値のない存在だ」といった被害妄想や劣等感だ。そうした感情が心の中で鬱積し、内面で怒りや怨恨が増幅して最後に爆発した。
直接的な恨みやトラブルによる復讐ではない。すべての人間に対する敵意、極度の絶望からくる破壊衝動が動機なのだ。
この事件だけでなく、同様の手口で複数人が被害に遭う事件は全国各地で繰り返されている。
たとえば、長野駅前で2025年1月に発生した3人死傷事件、また同年5月の東京メトロ東大前駅での切りつけ事件も、ローンオフェンダーによるものだった。いずれの事件も加害者は孤立した存在で、社会とのつながりが極端に薄かった。
いずれも、加害者と被害者はまったく面識がない。にもかかわらず、突発的かつ無差別に凶行が起きる。
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テロリズム、ヘイトクライム、自暴自棄
こうした事件は予測も防止もできない。偶然、その場に居合わせただけで、いきなり切りつけられたり、刺されたりして命を落とす。理不尽だ。だが、実際にそうやって何人もの人が殺されている。
「ローンオフェンダー」という言葉は、ここ数年の重大事件を報じる中で急速に広まりつつある。もしかしたら、今後の日本社会の中で定着していく新たな言葉になるのかもしれない。
英語の“lone offender”を直訳したもので、日本語では「単独犯」や「孤立型加害者」と訳されることが多い。特徴は、加害者が組織やグループに属さないことだ。完全に社会から孤立している。そのため、犯罪はすべて自分ひとりで行う。
過去の多くの犯罪は、複数人の共犯や背後に組織が存在した。しかし近年は、他者とかかわらずに単独で凶行に及ぶ事件が目立つようになった。これがローンオフェンダー型犯罪の核心だ。
ローンオフェンダーはその動機や背景によって、大きく3つの型に分類できる。
1つ目は「テロリズム型」である。これは政治的な思想や信念、宗教的イデオロギーなどが動機となって、社会や体制に対して攻撃的な行動をとるタイプだ。典型的な例としては、安倍元首相銃撃事件が挙げられる。個人が特定の思想信条に基づいて強い行動に走る点が特徴だ。
2つ目は「ヘイトクライム型」と呼ばれる。2016年に神奈川県の障害者施設で発生した殺傷事件は、明らかにこの型に該当する。被害者集団に対する憎悪や排除意識が、犯罪を引き起こしている。
3つ目が「自暴自棄型」だ。これは近年特に増加している型で、社会的孤立、経済的困窮、強い劣等感や絶望感などを背景に、加害者が無差別に他者を襲うケースである。加害者は社会や他人への敵意というより、むしろ自分自身への失望やあきらめ、無力感に突き動かされている。
中野市の事件や、最近の無差別襲撃事件の多くは、この自暴自棄型に分類される。
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ターゲットは特定の個人ではなかったのだ
ローンオフェンダーが引き起こす事件は、被害者と面識がないことが多いのが特徴と言えるかもしれない。一般的な怨恨や復讐の犯罪と異なり、ターゲットが無作為で偶発的であることが多い。
だから、理不尽なのだ。たまたま、そこに通りかかっただけの人や、偶然そこに居合わせた人が突然、無差別に襲われる。理不尽極まりない。
いきなり、何の前触れもなく事件が起こるので、被害者は気をつけようもないし、警察も計画段階での察知が難しく、犯行の兆候が外部から見えにくいので、防止ができない。ローンオフェンダーは、捜査や防止の観点からも非常にやっかいなのだ。
ローンオフェンダーは孤立している。孤立していると事件を起こすまで警察に補足されることはない。それだけ見ると、孤立はローンオフェンダーにとって有利かもしれない。
だが、そもそも孤立していることが加害者を精神的に追い詰めていたのだから、孤立はローンオフェンダーにとっては精神をむしばむ病である。社会の中で人間関係が希薄化し、孤独し、閉塞感から逃れられなくなり、経済的にも追いつめられていくようになり、やがて社会を恨み、強い憎しみとなる。
ローンオフェンダーの3つのタイプのうち、もっとも増えているのが「自暴自棄型」である。その背景も、やはり「社会から見捨てられた」という孤立感が怨恨や憎悪となって結実したものだ。そのため、ローンオフェンダーのターゲットは特定の個人ではなく「社会」となる。
隕石が落ちて地球が滅びればいいと思ったりする
日本社会の孤立化はますます深刻さを増している。家族構造の変化や高齢化、非正規雇用の拡大、都市化といった要素が絡み合い、コミュニティの中で助け合う文化は急速に弱体化している。
都会に住んでいると、隣人の顔や名前すら知らないという生活が珍しくなくない。むしろ、それが普通だ。そのため、隣人や近隣の人が、経済的困窮や社会的孤立に陥っても周囲が気づくことはほとんどない。
追いつめられていくと、自分の窮状にまったく無関心な他者や、自分がいなくてもまったく問題なく回っている社会や、誰も自分の存在を無視して普通に暮らしていることに対して、許せない気持ちになっていく。
社会が滅んでほしいと願うようになる。隕石が落ちて地球が滅びればいいと思ったりすることもある。しかし、そういう劇的なことが起きない。だから、ローンオフェンダーは自分が社会を壊そうとするのだ。
こうした環境下では、「自暴自棄型」単独犯による無差別犯罪が増え続けるのは避けられない。今後も、孤立した個人が精神的に追いつめられ、社会や他者への敵意を無差別な暴力に転化する事件が次々と表面化するはずだ。
犯罪心理や犯罪社会学の分野でも、単独犯による無差別襲撃事件は今後さらに増加すると述べられている。理由は明白だ。日本では貧困が増加しているからだ。貧困は孤独を増長させ、絶望を深め、社会に対する憎悪を沸騰させる。
今の日本は、家庭の崩壊も、未婚化も、単独世帯が激増している。孤立の芽があちこちにばらまかれている。行政や民間の福祉制度も、「自己責任」「自助努力」を強調して、困窮者や孤立者の支援は極めて限定的だ。
インターネットやSNSの発展が孤独感を緩和するどころか、現実世界での断絶をさらに深める状況も生まれている。ネット上の誹謗中傷や排除、格差の可視化は、自己肯定感の低下や疎外感の増幅に直結するからだ。
そうであれば、ローンオフェンダーが増えるのは避けられない事実でもある。

2020年代に入ってからいわゆる“無敵の人”が他人を殺傷する事件が多くなっていませんか?
私は神戸在住ですが、私が見る限り神戸や大阪、京都に住んでいる人々は東京に比べてまだまだ文化的な生活を送っています。
また関西は人情の地域でもあるので、困った人を見て放っておく人はあまりいないです。
特に神戸なんて若い女性がニコニコしながら街を闊歩していますよ。例えその女性が安物の服を着ていたとしても。
むしろ東京から無敵の人が来て西成で多数の小学生を轢いたニュースがあったので、東京は無敵の人を生みやすい社会なのかな?と勘繰ってしまいます。