オーバードーズにリストカット。自らの身体を傷つける女性を突き動かすもの

オーバードーズにリストカット。自らの身体を傷つける女性を突き動かすもの

最近、私たちは「オーバードーズ」という言葉をよく聞くようになった。オーバードーズとは「薬の過剰摂取」を指すのだが、今トー横界隈でも10代の若者が市販薬を過剰に摂取する行為が流行っていて、それが広がっている。

SNSが若者に定着する前は、それぞれの若者たちは孤立していて、オーバードーズしようにもどうやっていいのか分からなかった。たとえば、どのクスリをどれだけ飲めばパキる(クスリが効いた状態になる)のかもわからなかった。

オーバードーズするにしても、やはり情報がないと何もできないのだ。かつては、オーバードーズをする仲間を探すのは非常にたいへんなことだった。

しかし、今は違う。彼らはSNSで情報を共有し、感情を共有し、クスリを互いに融通し合ったりしている。興味深いのは、彼らは別に「安全にオーバードーズする方法」を追求しているわけではない、ということだ。

彼らが共有しているのは「パキる」情報もあるのだが、大きな部分で「死にたい」という気持ちが一致していて、そこでつながり合い、共鳴し合っていた。ある意味、彼らは「死ぬこと」を前提にしたつながりだった。

この世界は一般人がけっして踏み入れない世界であり、彼らの間で何が起きているのか何もわからない。

最近、このオーバードーズをする26歳の女性に話を聞く機会があった。オーバードーズというのは果たしてどのような世界なのか、彼女の体験を通して垣間見てほしい。

小学生の頃からリストカットをしていた

「うちの病みアカに、薬のやりすぎで肝硬変になっちゃって、6月に亡くなった子がいます。仲が良かった子です。オーバードーズのしすぎで肝硬変になっちゃって、最後に吐血して亡くなりました」

彼女はそのように「オーバードーズの世界」「病みの世界」のことを話しはじめてくれた。彼女のようにオーバードーズする若者たちが集まる場のことを、彼らは「病みアカ界隈」と呼ぶ。

「病みアカ界隈ではLINEのグループがあって、そこで一緒にお喋りとかしたり、紙の手紙とか交換して文通したりとかしています。うちと彼女もそうです。SNSで知り合って、それでなんか文通も一緒にしてました。うちも書くことが好きだから文通も苦になりませんでした」

彼女は淡々と、そのように述べた。小柄でくっきりとした二重の26歳の女性だったのだが、彼女を表面的に見てもオーバードーズをしている女性のようには見えなかった。しかし、彼女は私と会う前日も精神安定剤のエチゾラムをオーバードーズしていた。オーバードーズだけではない。ピアスを入れ、タトゥーを入れ、リストカットもしている。いつからそうだったのだろうか?

「今は26歳ですけど、もともと小学生の頃からちょっとメンタル的に弱い部分があって、リストカットするようになりました」

彼女はそのように言う。

「最初は何だったんだろう、なんか切りたいみたいな……。自分にいらだって、モノとかに当たるよりも、当たって壊れたりとかしたら面倒くさいから、それなら自分を傷つけよう、その方が誰にも迷惑かけることもないし、自分の中でもすっきりすると思ってリストカットをしました」

リストカットをして「すっきりする」という感覚は、普通の人にはない。これはどういうことなのか、彼女はこのように説明してくれた。

「今まで悩んでたこととか嫌なこととかが、切ったところから毒素が抜けていくような感じ」

「献血終わったあとに、なんかさっぱりしたな、というそういう感じですか?」

「そうそう。そんな感じです。だから、毒素を抜いてるっていう感じです。それを、小学校6年生から中学校3年生くらいまでやっていました。年齢で言うと、12歳から15歳ですね。そのあと1回治ったんですよ、切りたいというのが。でもなんか高校3年生になって、友だち関係があんまりうまくいかなくなったときに、ちょっと難しいことになって、またリストカットはじめて、学校にも行かなくなりました」

「高校は卒業はしたんですか?」

「卒業はギリできました。最後は学校行って単位取るために補習して、卒業しました。卒業してからはバイトをしてて、正直、親が毒親だったから、家を出ようかなとなって一人暮らしをはじめました」

「同じ世界線上では生きているとは思っていない」

「毒親……。毒親というのは、どういう意味で毒親だったんですか?」

「こっちに非がないのに、親が嫌なことあったら、こちらに八つ当たりするとか、そういう感じでした。うちは、母親に『あんたなんか産まなきゃよかった』とか言われました」

「そんなことを言われたんですか?」

「はい。産まなきゃよかった、と言われて……。それでうちも『こっちだって貧乏な家に生まれたくなかった』と言ってケンカになって……。うちの部屋には、ぬいぐるみの部屋みたいなのがあって、そこでいつでも死ねるように包丁を入れてました。ちょうど、包丁を買い換えたんですよ。新しい包丁と古い包丁。それで親が古い包丁を捨てるって言うので、『あっ、じゃ捨てとくよ』って言って、その包丁を隠してて、それでリストカットしてました」

「小学校の頃から……」

「そうです。なんか、他の人は何で死にたいって思わないんだろうと逆に思っちゃう。何か嫌なことがあったり、つらいことがあったときに……。死にたいというよりも消えたい? 存在自体をみんなの中から消したいと思います」

「友だちとかはいないんですか? 相談したりとかはしない?」

「友だちとかはいるけど、会って相談したところで、うつ病を持っている人と普通の人の感覚は違うので、相談しても分かってくれないです」

「そうなんですか?」

「普通の健常者だったら、なんでそんなことで悩んでるのというところからはじまってるから、結局はわかり合えない世界観で生きているって思っているから。うちは別に健常者にはわかってもらおうとは思ってなくて……。うつは、病院の人がわかってくれたらいい。結局、健常者とうつ病なんかの精神疾患を持っている人は、同じ地球にはいるけど、同じ世界線上では生きているとは思っていないから。絶対に壁があるから、そこに」

彼女はそのように強調した。彼女は精神障害の障害者手帳を持っており、うつ病でもあり、パニック障害もあった。

オーバードーズがダメな理由がわからない?

「オーバードーズはいつからですか?」

「22歳くらいですね。4年前。20歳で結婚したのですが、オーバードーズが原因で離婚したという感じです。うちは、なんでオーバードーズがダメなのかというのが分からなくて……」

「オーバードーズがダメな理由がわからない?」

「はい。家族会議みたいになったんですけど、なんでダメなのかという理由がわからないです、こっちは……。だって、みんなイヤなことがあったらビールとかお酒をたくさん飲むのと一緒で、こっちはイヤになったらクスリをたくさん飲む……のが当たり前だから。なんでそれを、こっちの解決策とかも何も見つけてない状態で、それをとめるのか、もう分からなくて」

それを聞いて、私は彼女のオーバードーズの捉え方がつかめたような気がした。たしかに普通の人は、イヤなことがあったら酒場で深酒でもして酔って憂さを晴らそうとしている。彼女の場合は、それがクスリだったのである。

彼女の理屈からすると、「みんな酒で酔って、自分はクスリで酔う。何が違うんですか?」というものだったのだ。

「どういうクスリを飲むんですか?」

「ミン剤(睡眠薬)だったり、あとはメジコンという風邪薬だったり。やっぱり、メジコンですね。これが一番多いです」

「メジコンって1回2錠ですよね。オーバードーズする人はそれを40錠だとか一気に飲むとか?」

「そうです。うちはもう4シート(40錠)じゃ効かなくなってて、6シートになって、それでパキらなかったら、1シート追加して、また1シート追加して……、結局は80錠は一日で飲んじゃう。100シートくらい、知り合いから買っても、すぐになくなっちゃう。休みとかになったらやるから、すぐになくなっちゃいます」

「それだけ飲まないと効かないんですか?」

「耐性がついちゃうから、まったく効かないんですよ。ずっと飲んでると、飲んでもなんともなくなるんです」

彼女はそう言ったが、私は驚くしかなかった。何しろ2錠のところを一気に80錠も飲むというのだから尋常ではない。

現実を忘れたいからメジコン飲むという感じ

「パキると、どういう状態になるんですか?」
「幻覚・幻聴です」
「幻聴ですか……」

「幻覚とかは、その時にもよるけど、最初はすごい量の星が目をつぶっただけでめっちゃ流れてくる。上から降ってくる。今とかは幻聴が聞こえてきて、家に誰もいないのに誰かの声が聞こえたり、人がいるのが見えたりとか。そこまでいくと、覚醒剤と同じ作用になっちゃうんですよ」

「トー横界隈ではブロンとか飲む人もいますね」

「ブロンは、はじめてやったときはメジコンとちゃんぽんしているから、効果はよくわからなかったです。そのときはメジコンを70入れてました。友だちとか来ても、その人が来てるってわかってるけど、いろんな知り合いの顔になっているから、誰なんだろうと思ったりしました。ホントに幻覚で違う人の顔になってたりして……」

「それで、効いているときって気持ちいい感じなんですか?」

「そうですね。なんか曲とか聞いていたら、クラブにいるみたいに重低音がすごい身体に響いてくる」

「オーバードーズしたいのは、ひとりになって気持ちが落ち込んだりするから?」

「最初はそうだったんですけど、なんかもう今は風俗の出稼ぎに行ったりとかしてるから、帰ってきて疲れすぎて、現実忘れたいからメジコン飲むという感じですね」

「ああ、もうヤケ酒飲むみたいな感じですかね?」

「そうそう。今はもう普通に1週間ずっとやっていて、なんかメジコンが切れかけたときに、またメジコンを追加してみたいだから、シラフでいるときが少ないみたいな感じです」

「昨日もオーバードーズやったと言っていましたが、それもメジコンですか?」

「いえ、エチゾラムですね。精神安定剤です」

「そういえば、エチゾラムって、今はもう処方されにくくて手に入らないとトー横界隈の子が言っていましたが、まだ手に入るんですか?」

「今はウクライナの戦争のせいでクスリの流通も止まっていて、処方されずらいとう状況だと思います。都道府県で違うと思うんですけど、北海道はまだ全然あるんで大丈夫です」

「エチゾラムの前はデパスでしたね」

「デパスはもう本当に処方されていないですね。病院が出さないです。OD(オーバードーズ)する人が増えてきたから。昨日はエチゾラムで2シートです、20錠。でも、全然大丈夫です。エチゾラム飲んでも効くのは2時間くらいです。それだけです。あとはただ眠たくなるというか……」

25歳のとき、本当に死のうと思ってやった

「ツイッター見たけれど、瀉血もやっているんですよね?」

「はい、やっています。瀉血はリストカットとはまた別で、ニードル(針)をさして血を出して、それを集めるみたいな……。そしたら、そのぶん「毒」が出たという感じで、やればやるほど「毒」がなくなっていくというか。イヤなこととかがなくなって全部出ていく感じがします」

「結構、血を抜いていますよね?」

「はい。一回で100mlくらいですかね。だから、ちょっとクラクラするな、というのはあります」

「痛みとかはどうなんですか?」

「痛みはもう慣れですよね。ピアスとかも今は付けていないところもあるんですけれど、耳介のところは全部穴が開いています。今、風俗をしてるから身体に傷を付けたら目立っちゃうから、瀉血かOD(オーバードーズ)になっています」

「タトゥーも入れているんですよね?」

「そうですね。8箇所入れてます。大きいのはハガキサイズ。ちっちゃいのはホントに500円玉くらいのもの。1つはうつ病で亡くなった『SHINee』というグループのメンバーが彫っていたのと同じのを入れました」

「一線を超えることはあるんですか?」

「25歳のときなんですけど、本当に死のうと思ってやったことあります。メジコンって1錠で入っている量は15ミリなんですけど、それの倍の30ミリのやつ、それの20錠入りを12、13箱買って、それで80錠くらい飲んで、それが金曜日の夕方で気づいたら日曜日の夕方だったということがありました。気絶して、そのままみたいな……」

「それは、ひとりのとき?」

「ひとりのときです。だから、みんなから電話が来てたりしてたんですが、電源切れてて2日間分からなかった」

10歳くらいの頃から25歳になったら死ぬと考えてた

彼女は「本当に死のうと思っていました」というのだが、それは普通の人が「死にたいな」と思うようなレベルではなく、本当に致死量に近いのではないかと思うような量をオーバードーズして死の直前まで行っている。彼女にとっての「死」は、私たちが考えている以上に近いところにある。

「でも、それは昔からです。10歳くらいの頃から25歳になったら死ぬと考えてた。そんな感じで自分の中で決めてました」

「25歳というのは何か意味があるんですか?」

「とくにはないんですけど、自分の中では30歳、アラサーというのは老けているという感じがして、それだったら20代の間を見て25歳という感じですね」

「それほどまで死を意識して生きているというのはすごいものがありますね」

「常に死にたいと思っているから、おかしいって思っていなくて、なんでみんなこんな汚い世の中で生きているのか逆にわからない。それで、今年の6月に友だちが亡くなったんですけれど、正直、その子が亡くなったときも、自分がすごく醜いことを考えていました」

「というと?」

「その子は亡くなる前の日まで『死のう』みたいな感じでツイッターに書いてて、亡くなりました。その子が、そのまま天国に行けるのは、正直うらやましいと思いました。自分はまだ死ぬ勇気がないから生きてるだけ。うらやましいな、というのは正直思ったところはあります」

彼女は徹頭徹尾、死を思いながら生きていた。彼女の話を聞きながら、私の心に残ったのは、彼女が母親に言われていた言葉である。彼女の母親は自分の娘に対して「あんたなんか産まなきゃよかった」と言い放っていたという。それは、ひどく残酷で冷酷な言葉であり、子供にとっては大きなトラウマになるはずだ。

ある女性が私に言ったことがある。

「母親が娘に対して、私より幸せになるのは許さんという感情を持っていた場合、子供はそれを感じとってるので不幸にならないとお母さんが悲しむって呪縛が残るんです。無意識に……」

彼女は「死にたいというよりも消えたい? 存在自体をみんなの中から消したいと思います」と言った。「あんたなんか産まなきゃよかった」という言葉は彼女にとっての呪縛だったのだろうか。

彼女の話を聞きながら、そんなことを思わずにいられなかった……。

彼女は「死にたいというよりも消えたい? 存在自体をみんなの中から消したいと思います」と言った。「あんたなんか産まなきゃよかった」という言葉は彼女にとっての呪縛だったのだろうか。

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