落とし穴がそこら中にあふれる現代では「疑う」ことができる人間しか助からない

落とし穴がそこら中にあふれる現代では「疑う」ことができる人間しか助からない

2023年の上半期に検挙された特殊詐欺の「受け子」「出し子」など実行役の経緯は、「SNSからの応募」が46.9%を占め、約半数にのぼるというデータもある。求人募集の中にはわざわざ「詐欺ではありません」「危険な仕事ではありません」などと書かれているものもある。それが詐欺だ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

こういうのを信じた瞬間に落とし穴に落ちる

昨今、若者を中心にSNSやネット掲示板で「短時間で高収入」と煽る闇バイトの募集が増加している。危険性が高い犯罪に加担させられるリスクを抱えながらも、目先の報酬に飛びつく若者は少なくない。

警察庁がまとめた事例集によれば、2022年から2023年にかけて闇バイトに応募した結果、犯罪実行役として逮捕された44人のうち7割以上が20代以下であったという統計が示されている。

「誰でもできるカンタンなお仕事」だとか「未経験でも可、短時間で高収入」みたいなことが書かれてあったら、ふらふらと引き寄せられてしまう気持ちはわからないでもない。誰でも短時間で高収入が欲しいからだ。

ヤバい裏仕事じゃないのか、とチラリと思う若者もいると思うが、そういう猜疑心を消すために、求人募集の中にはわざわざ「詐欺ではありません」「危険な仕事ではありません」などと書かれているものもある。

「詐欺ではありません」が詐欺なのだ。

こうした闇バイトに一歩でも踏み込めば、特殊詐欺や強盗の実行役として捨て駒にされる。逮捕されれば法的責任を問われ、懲役刑や罰金、前科による社会的制裁を受ける可能性が高い。

今、猜疑心を持てない若者はすぐに犯罪に取り込まれる危険があると思う。もっとも重要なのは、「簡単な仕事で一瞬でカネが手に入る」という説明や仕組みは、だいたい99%が社会の落とし穴であることに気づくことだ。

今、社会では「チートや裏技や抜け道を使える人間がエラい」みたいな風潮がある。「簡単な仕事で一瞬でカネが手に入る」というのは、こうした流れの中にある考えかたでもある。こういうのを信じた瞬間に、落とし穴に落ちる。

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「簡単にカネを稼ぎたい」という人間は多い

企業や行政の調査によれば、高額報酬をうたうアルバイト広告のうち8割以上が何らかの違法行為にかかわるか、もしくは詐欺的手口だと判明している。

短絡的な利益を強調して応募してきた人間をワナにかける手法は古典的な手口なのだが、いつの時代にも「簡単にカネを稼ぎたい」という人間は多いので引っかかる人間が後を絶たない。

「簡単に」「一瞬で」という表現は、人間の合理的判断を鈍らせる。2023年に大阪で逮捕された闇バイトの若者は「便利屋や運び屋を一件こなすだけで数万円の収入です」と謳う募集に引っかかっているのだが、それはドラッグと盗品の輸送だった。

こうした闇バイト応募者の多くが摘発されているのだが、逮捕時の年齢分布は20代前半が突出している。若者の多くは、事情をよく知らずに応募している。応募する前にヤバいと気づかなかったか、気づいたときにはもう遅かった。

警察庁は公式サイト上で、SNSやインターネット掲示板に「仕事内容を明示せず著しく高額な報酬を示唆する」投稿が犯罪実行者募集にあたると警告している。

2023年の上半期に検挙された特殊詐欺の「受け子」「出し子」など実行役の経緯は、「SNSからの応募」が46.9%を占め、約半数にのぼるというデータもある。正規の募集ではないのに高収入を謳っているのであれば、その時点でおかしいと気づく「常識」が必要なのだ。

常識的な判断を馬鹿にして、「チートや裏技で簡単に稼ぐことがエラい」と評価する風潮は、大きなワナをはらんでいる。情報リテラシーの低い若者ほど、そのワナにはまりやすい。

そもそも、裏技や抜け道を使うという発想は、社会のルールを軽視し、倫理観を崩壊させるものでもある。こういうのを頭から信じるようになると、簡単に闇バイトに引き込まれるからだ。

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「疑う」ことができる人間しか助からない

日本では、求人情報を発信する際には、募集主の氏名・事業所名称、職務内容、勤務地、労働時間、賃金、連絡先(6情報)の記載を義務づけている。闇バイトは、こうしたものをすべて明記しないで、ぼかしている。

それならば、高収入で情報があいまいな求人は全部「おかしい」と思って間違いない。そもそも、SNSで「高収入」「即日即金」と謳って人を募集する時点で何かおかしいと感じないといけないはずだ。

2019~2023年の逮捕者2373人のうち約42%にあたる991人がSNS経由の勧誘を経て犯罪に加担しているのだが、彼らを見ていると「疑う力」が今ほど重要になってきている時代はないと感じている。

「疑う」と言うと、何か悪いイメージがあるかもしれない。逆だ。フェイクと落とし穴がそこら中にあふれる現代では「疑う」ことができる人間しか助からないと断言できる。「疑う」というのは重要な思考なのだ。

「疑う力」とは、目にした情報を安易に受け入れず、かならず裏づけを取る習慣と言ってもいいかもしれない。

闇バイトで言えば、具体的には、求人広告で示された条件が法定の「6情報」を満たしているか確認し、公的機関や信頼できるサイトで同様の情報を調べ直す。さらに、SNS投稿の発信者が匿名なら、その真偽を検証していく。

「すぐに稼げる」とか「高収入」など、不自然に高い報酬提示は感情的に判断を誤らせるため、最初から「疑い」を持つことが重要だ。疑いを持って、その疑いが晴れないのであれば距離を置く。

信用できない存在とかかわって正しい結果が導かれれば、それは奇跡というしかない。実際には、信用できない存在とかかわると悲惨な結果に終わる。闇バイトもそうだが、ブラック企業でも同じことだ。

疑いが解消できないのであれば、それは自分がカモにされる兆候なのだ。

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トラブルは巻き込まれるより回避するほうが生きやすい

「疑う力が大事」というのは、私は自信を持って断言できる。私は長らく東南アジアの歓楽街に巣食っていたのだが、そこでは詐欺師と犯罪者とチンピラがうごめいていた場所であり、無邪気ではいられない場所だったからだ。

「安い店がある」と言われて着いていったらぼったくりバーかもしれないし、「喉が渇いたでしょう。これを飲んで」と言われて飲んだら睡眠薬が入っているかもしれないし、「一緒に闇カジノに行こう」と言われて着いていったら全財産を巻き上げられるかもしれない。

出会った女性が気に入ったと思ったら性別は男かもしれないし、親しくなった女性に「親が病気でカネがいる。かならず返すから貸してください」と言われたら最初から仕組まれた詐欺かもしれない。

何もかも信用できないのが東南アジアの歓楽街でもある。そんなわけで、人生経験が浅かった時代は赤ん坊のように騙され続けたが、だんだん「疑う力」が付いていくと、ダメージを受ける回数も減っていった。

もし「疑う力」が皆無だったら、私は今ごろ無一文で、東南アジアで困窮邦人になっていたか、日本で生活保護受給者になっていたはずだった。そうなっていないのは、「疑う力」があったからに他ならない。

そう考えると、今の若者に必要なのは常識を基準にした「疑う力」であり、直感的に違和感を抱く能力であるといえる。

闇バイトでもそうだが、「ワナ」にはいくつもの違和感が残されている。そうした違和感を感じたら、前のめりになる気持ちを抑えて、注意深く対象を観察する必要がある。「自分がカモになるのではないか?」と疑いの気持ちを持って常識に照らし合わせてよく考えると、それがワナであることを見抜けるようになる。

ワナであると気づいたら、そこから離れてかかわらないようにしたら、トラブルに巻き込まれる確率は減る。トラブルは巻き込まれるより回避するほうが生きやすい。そう思わないだろうか?

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