
先進国におけるパートタイム労働者の約70%が女性であるというデータがある。日本においても、非正規雇用労働者の大半を女性が占めており、とくにパートタイムの労働市場においてはその割合が非常に高い。そして、このパートタイム労働が女性の貧困化を加速させている要因にもなっている。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
貧困に陥るリスクが高まる日本の女性たち
女性のパートタイム労働は、現代社会において重要な問題のひとつである。とくに、多くの先進国では、女性が家事や育児、介護といった家庭内の責任を担うことが多く、その結果、フルタイムではなくパートタイムの仕事に従事せざるを得ない状況が広がっている。
しかし、この選択は多くの場合、女性にとって貧困に直結する原因となる。
若い女性でも、正社員の仕事が見つかるまでの一時的しのぎと思ってパートタイムの仕事をして、結局、正社員の仕事がみつからず固定化されていく。シングルマザーや高齢女性においては、この問題がより深刻であり、社会的な問題として認識されつつある。
パートタイムは、フルタイム労働者と比較して労働時間が短く、その分賃金も低く抑えられるのが一般的である。また、パートタイム労働は多くの場合、非正規雇用であり、給与や労働条件が不安定だ。
そのため、生活費や家族の扶養に十分な収入を得ることが難しくなる。それを長く続ければ、生活が少しずつ劣化していくのは避けられない。
パートタイム労働者は正社員と比較して、福利厚生が不足していることが多い。健康保険や退職金、ボーナス、育児休暇といった制度の恩恵を受けにくく、これが経済的な負担を増大させる要因となる。
たとえば、病気や育児、介護といった「緊急事態」に直面した際、パートタイム労働者は正社員に比べて経済的なサポートを受ける機会が少なく、これがさらなる貧困の悪化を引き起こす。
まじめに働いても報われない。
パートの場合、最初から昇進やスキルアップの機会が限られているからだ。キャリア形成ができず、どれだけまじめで献身的であっても、将来的に安定した高収入の職につける可能性は低い。
この状況が長期化することで、女性が経済的に自立することが困難となり、貧困から抜け出すことができなくなるケースが多い。かくして女性の貧困問題は、現代の日本社会において見過ごすことのできない重要な課題となっていった。
非正規雇用労働者の大半を女性が占めている
先進国におけるパートタイム労働者は、約70%が女性であるというデータがある。日本においても、非正規雇用労働者の大半を女性が占めている。とくにパートタイムの労働市場においては、その割合が非常に高い。
統計を見ればわかるが、パートタイム労働者の平均賃金はフルタイム労働者に比べて大幅に低い。
たとえば、日本の労働統計によれば、2023年時点でパートタイム労働者の平均時給は約1,200円であり、フルタイム労働者の平均時給約2,000円と比較すると、大きな格差があることがわかる。
賃金が低く、往々にして労働時間も短い。この劣悪な環境が月々の不足に直結して、生活を支えることが難しい状況を生み出していく。「もうやっていけない」という叫びはかき消され、政治家や経団連には届かない。
多くのパートタイム労働者が、正社員に比べて健康保険や年金といった基本的な社会保障制度の対象外のことが多い。そのため、パートタイムで働く女性は病気や事故に対する経済的リスクが高い。
老後の生活においても年金が十分に支給されないことが懸念されている。これは、とくに高齢女性の貧困に直結する問題でもある。
日本の統計では、65歳以上の女性の約20%が貧困ライン以下の生活をしている。この数字はパートタイム労働に従事してきた女性たちが、年金や貯蓄に十分な資金を確保できなかったことが原因のひとつでもある。
老後の生活が貧困で深刻化する傾向は今後も継続するだろう。
このように、データや統計から見ると、女性のパートタイム労働は貧困のリスクを高める要因として広く認識されており、とくに賃金格差や福利厚生の不足がこの問題をさらに悪化させていることがわかる。
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問題となるシングルマザーや高齢女性の場合
女性がパートタイム労働を選択する背景には、家事や育児、介護といった家庭内の責任が大きく影響している。とくに日本では、伝統的に女性が家庭内の労働を担う役割が強調されている国だ。
もし、この伝統的な光景を続けるのであれば、男性側が女性を養うだけの給料を得ていないといけないことになるのだが、今はそれも叶わない。男性も一緒に低賃金の労働に落ちている。
そのため、結婚数も結婚率も下がっている。結婚しても女性は働かざるを得ないが、働くにしても家庭内の責任は女性に押しつけられているので、結局はパートタイムで働くしかない。しかし、パートタイムでは生活費を賄うには不十分な収入しか得られない。
結局、巡り巡って女性が貧困化しやすい社会になっている。
たとえば、日本のシングルマザーの平均年収は約200万円とされており、これは日本全体の平均年収の約半分に過ぎない。このような状況下で、子供を育てながら生活することは非常に厳しい。
そのため、シングルマザーの貧困率は他の家庭構成と比較して高くなっている。政府は子供家庭庁みたいな組織をつくって「こどもまんなか」とかスローガンを言っているが、現実のシングルマザーは「自分で何とかしろ」と無理難題を押しつけられているにも等しい。
介護が必要な家族を抱える女性も、フルタイムで働くことが難しい。介護施設やデイサービスといった支援を利用できるケースもあるが、それでも多くの女性が自ら家族の介護を引き受けざるをえない。
そうすると、やはりパートタイム労働を選択するしかなくなるが、介護の負担と低賃金の労働が重なり、精神的にも経済的に厳しい状況に追い込まれるケースが少なくない。
どこの国でも女性の賃金は男性よりも低い傾向がある。とくに非正規雇用やパートタイム労働ではその差が顕著である。この賃金格差が、女性のパートタイム労働による貧困問題をさらに悪化させているのだ。
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女性のパートタイム労働による貧困問題
女性の立場はたしかに少しは向上しているのかもしれない。だが、それほど劇的には向上していない。そのため、パートタイム労働による女性の貧困は、今後ますます深刻化していく一方だろう。
日本では2000年代から多くの企業がコスト削減の一環として非正規雇用の拡大を進めており、パートタイム労働者の数は増加している。女性は、気がついたらそこに落とし込まれていた。
そして、まわりを見まわせば、女性が安定した収入を得る機会が減少し、単身女性の3人に1人が貧困という状態になってしまった。これでは、女性が風俗や売春に追い込まれてもしかたがない。
そこにきて、高齢化社会の進展もこの問題を悪化させている。
日本は馬鹿な政治家がずっと少子高齢化問題を放置し続けて回復不能にしてしまったので、高齢者の爆増で年金制度や社会保障制度の持続可能性が疑問視されるところにまで至ってしまった。
年金の積立額が十分でないパートタイム労働者は、老後の生活において経済的に苦境に立たされる。つまり、女性が貧困状態に陥るリスクは今よりもさらに高まっていくと考えられる。
女性の社会的孤立や精神的ストレスも、この問題をさらに複雑にしていくだろう。低賃金や不安定な雇用形態により、女性は社会的に孤立しやすく、自己肯定感が低下する傾向がある。
これが精神的な健康に悪影響を及ぼし、さらに経済的な問題を悪化させる悪循環が生じることが懸念されている。女性の自殺も増えている。それも、若年層の女性の自殺が増えている。
女性はパートタイム労働に落とし込まれ、その結果として貧困に落ちる。若いうちからそういう苦しみを味わって夢も希望もなくなる。女性は「こんな国で生きていてもしょうがない」と思いはじめているのかもしれない。

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