高齢単身女性の貧困率は44.1%に達する。ざっくりいうと、2人にひとりの高齢単身女性は貧困ということになる。これは、30年以上も日本を成長させることができなかった馬鹿な政治家どもが作り出した結果でもある。強調しておくが、今の政治家はこの問題を対処することはない。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
貧困に追い込まれる単身高齢女性
最近、もう50代の風俗嬢なんか当たり前にいて、60代、70代の風俗嬢さえも見かけるようになってきている。私自身も60代の風俗嬢には数人インタビューさせてもらったことがある。
なぜ、60代になって風俗の仕事をしているのかは、聞くだけ野暮だ。すべては経済問題に帰結する。
高齢単身女性の貧困率は44.1%に達する。ざっくりいうと、2人にひとりの高齢単身女性は貧困ということになる。これは、30年以上も日本を成長させることができなかった馬鹿な政治家どもが作り出した結果でもある。
現在、日本における65歳以上の単身女性の数は急増しているのだが、彼女たちの長寿と、非正規雇用の増加がもたらす経済的不安、社会保障の不備、家族構造の変化など、多層的な問題が放置され、複雑に絡み合った結果、このような無惨な現実を生み出してしまった。
かつての日本社会では、家族が高齢者を支える構図が一般的だった。しかし、それはもう昔の話だ。日本では核家族化が進行し、未婚率も上昇し、単身高齢者の増加が顕著になっている。
その女性たちの多くが、経済的に困窮した状況に追いやられている。女性の平均年金受給額は月9万3,000円と男性の14万9,000円に比べて著しく低い。女性は非正規雇用で働くことが多く、厚生年金の加入期間が短い。もしくは、まったくない。
そのため、高齢女性の中には、生活費を稼ぐために80歳を過ぎても働き続けている人が少なくない。都営団地で暮らし、常勤の介護ヘルパーとして働き、月10万円以下の年金収入を補填している女性もいる。
これは高齢者にとって非常に過酷な労働条件だ。だが、そうしないと生活できない。
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これは、突如として湧き上がった問題ではない
60代も過ぎると、病気や持病を持っていない人のほうが少なくなる。単身の高齢女性もそうだ。
家計が逼迫する中で、医療費を捻出するのは容易ではない。高齢の単身女性の中には、少ない年金の大部分が医療費に消え、日々の生活費を節約するために食事を減らしている女性もいる。このようなケースが稀ではなく、むしろ高齢単身女性にとって一般的な現実である。
もし、一度も厚生年金を支払わなかった女性は、どうなるのか。その場合、40年間きっちり国民保険の保険料を納めていたとしても、月6万8,000円しか受け取れない。この金額は生活費を賄うには到底不十分である。
非正規雇用で働いてきて、国民保険を払わなかった女性は大勢いる。2023年の労働力調査によると、女性の非正規雇用率は53.2%に上り、男性の21.8%を大きく上回っている。非正規雇用では、ボーナスや退職金も支給されない場合が多く、老後の資金は完全に不足する。
この問題は、一過性ではない。なぜなら、団塊ジュニア世代(現在50代前半)も、非正規雇用率が高いからである。この世代の女性は、就職氷河期を経験したために安定した職につくことが難しく、現在でも低賃金で働くケースが多い。
この状況が続けば、2040年頃にこの世代が高齢期を迎えた際、さらに多くの女性が貧困に陥ることになるのだ。
これは、突如として湧き上がった問題ではない。10年も20年も前から、「このままでは日本で貧困の高齢者が爆発的に増えて社会問題になる」といわれていた。高齢女性は、老後を十分に支える経済力がないこともわかっていた。
わかっていたのだが、政治家は何の対処もせず、社会は女性を見放していた。私自身は、これは日本の政治家が生み出した人災であると考えている。政治は女性の賃金を男性と同等にして、単身女性がきちんと老後の資金を貯められるようにしなければならなかったのだ。
政治家はそれを企業に強制しなかったし、企業も日本の女性を非正規雇用で使い捨てにすることしか考えなかった。結局、女性は意図的に見捨てられていたのだ。それで日本の女性は「死ぬまで働かなければならない」ことになった。
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今の社会が機能不全に陥るのは15年後
女性の貧困は、個々の生活環境や社会背景によって異なるが、その根底には女性にとって不利な社会構造があったのは事実だ。高齢女性の多くが、人生のある時点で家庭を優先したり、キャリアを犠牲にする選択を迫られてきた。
いったん子育てや介護のために離職した女性は、再就職の機会に恵まれず、低賃金の非正規雇用にしか就けない場合が多い。これにより、年金額が男性に比べて大幅に低くなり、老後は貧困に陥るリスクが高まった。
そんな中、良いことなのか悪いことなのかわからないのだが、医療の進歩やアンチエイジングの進化によって、長寿化が進んでいる。これは、女性がより長期間貧困状態の中で生き続けることを意味している。
平均寿命が長い女性ほど、医療費や生活費の負担が増え、経済的な困難が長期化するリスクが高まる。これにより、高齢女性の生活の質は著しく低下していき、心身の健康にも悪影響を及ぼすだろう。
高齢女性の貧困問題は、単なる個人の問題ではない。社会全体の課題である。この問題を解決するためには、社会的な認識の変化と制度の改革が必要だが、私自身は今の政治家は日本社会が機能不全に陥るまで無視し続けると考えている。
では、いつ今の社会は機能不全に陥るのか。
私は早くて15年後だと考えている。団塊ジュニア世代が高齢期を迎える2040年頃には、現行の社会保障制度が完全に機能不全に陥るはずだ。
この頃になると、高齢者の割合が全人口の約35%に達する。その一方で、支えるべき現役世代(15~64歳)の人口は急激に減少し、労働力人口が大幅に縮小する。当然、年金や医療費などの社会保障制度の財源は不足するし、支給額やサービスの質が低下するのは避けられない。
現在の年金制度は「現役世代が納めた保険料をそのまま高齢者の給付に充てる」賦課方式を採用しているが、2040年頃には少子高齢化によって年金財源は枯渇し、制度自体が持続不可能になる。
高齢女性が2040年に詰むというよりも、日本社会そのものが詰む形になる。ただ、真っ先に苦境に堕ちるのは単身の高齢女性なのだ。
延々と貧困と病気で苦しんで生き続ける
女性は男性よりも長寿であるが、その長寿はかならずしも幸福な晩年を意味するわけではない。医療費や介護費の増大は、個人の家計を圧迫し続ける。このような負担を抱える高齢女性は、物理的にも精神的にも追いつめられることになる。
寿命は2つある。ひとつは「平均寿命」で、もうひとつは「健康寿命」だ。医学は平均寿命を伸ばしてくれるかもしれないが、貧困は健康寿命を短縮する。これはどういうことかというと、単身女性は健康を失ったまま、延々と極貧と病気で苦しんで生き続けるということなのだ。
ある意味、生き地獄でもある。
現代は、家族や地域社会そのものが崩壊しつつあり、さらに社会保障制度の限界で行政も機能しなくなる。自治体やNPOによる支援も限界を迎え、彼女たちは事実上、誰からも助けを受けられない状況に追い込まれる。
経済的困窮だけでなく、社会的孤立も大きな問題となる。
年金収入や医療費の不足が家計を直撃する一方で、孤立感や絶望感が精神的な負担を増幅させる。これから、社会とのつながりを断たれることで抑うつ状態に陥り、自ら命を絶つ選択をする高齢女性も大勢出てくる。
何度も強調しておくが、今の政治家はこの問題を対処することはない。政治家どもは、年金支給年齢の引き上げや給付額の引き下げを議論するだけであり、むしろ高齢女性の首を絞めにかかるだろう。
高齢女性の貧困が増大すれば、これに連動する形で若い世代の経済的負担や社会不安も拡大するので、結局は日本人全員が苦しむということでもある。
現行の社会保障制度ではこの問題を解決することは不可能である。それどころか、さらなる社会不安と経済的混乱を引き起こす。日本社会が直面するのは、単なる「高齢化問題」ではなく、経済的、社会的な破綻の危機である。
この危機を放置すれば、弱肉強食の資本主義の中で、もっとも弱い立場の人々が犠牲になり続ける未来が待ち受けている。結局のところ、この現実を直視しない限り、社会全体が負の連鎖に陥ることは避けられないだろう。
「もう50代の風俗嬢なんか当たり前にいて、60代、70代の風俗嬢さえも見かけるようになってきている」と冒頭に書いた。そのうち、「60代、70代で風俗で稼げる女性は幸せだ」といわれるようになるはずだ。
なぜなら、それで生きていけるからである。
稼ぐこともできなくて経済死する女性から見ると、風俗で働ける60代や70代の女性は羨望の的になる。
今日の記事ですが、傾城さんが数年前くらいに紹介されていたドキュメンタリー映画「ヨコハマメリー」を想起させられました。
数奇な運命をたどることとなるメリーさんの映画は紹介されて観ましたが、ラストがなかなか強烈で、今でもメリーさんのあのお顔の映像のシーンは瞬時に思い浮かびます。
メリーさんのような人が普通過ぎて話題にもならなくなるような時代がもうすぐ来るのは既定路線となってしまったということですね。
戦後の日本社会の栄枯盛衰と共に女性たちもまた浮き沈みしていく、何だか諸行無常感がありしんみりとさせられました。
私の知り合いの70代の方も、夫を5年前に亡くされて、年金だけで生活されています。スーパーでは特売品ばっかりで、電気代を節約するために部屋は真っ暗だそうです。
たまに立ち話をすると、「病院に行きたいけど、窓口負担が怖くて行けないのよー」と言ってます。元々は小さな美容室を営んでいましたが、体力的な限界で70歳で閉店して貯金は夫の介護で底をついてしまったそうです。
他人事じゃないです。傾城さんも書いてますが専業主婦だった方なんか年金額が少なく、配偶者を失うと途端に生活が厳しくなってしまいます。社会全体でセーフティネットを強化していければいいんですけど無理っぽいし、安楽死が認められれば私も安楽死選びますか。。。
身につまされるような記事でした。
私も40歳前後の年齢で非正規が長い女性で、いまは退職し、投資で生活費を細々と稼いでいます。
もしも投資をしていなかったらかなり生活は大変だったかと思います…。
コロナ禍で株価が歴史的に下がった時に、株やら投信を買えたことで、人生が上向いたと感じています。
低収入、頼るものがない人こそ、投資をやるべきだと思います。
今は積立NISAとかで月100円からでも投資が出来るのだから…。