トランプ次期大統領、BRICSに「経済制裁」宣言。2025年から混乱の年の幕開けか?

トランプ次期大統領、BRICSに「経済制裁」宣言。2025年から混乱の年の幕開けか?

経済的な混乱が起きようが、政治的な対立が激化しようが、最悪の場合、軍事衝突にまで発展しようが、アメリカは譲らない。それは、昨今のアメリカの中国敵視や中国排除の動きを見てもわかるはずだ。私自身はアメリカがBRICSの台頭で弱体化するよりも、BRICSがアメリカにあらゆる恫喝や策略をしかけられて瓦解していくように思える。


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

ドル離れを進めようとする構想は終わりだ!

「BRICSの国々がドル離れを進めようとする構想は終わりだ。さもなければ彼らは100%の関税に直面し、米国経済に別れを告げることになるだろう」

2024年11月30日、トランプ次期大統領の衝撃的な発言が世界経済を揺るがした。ドル基軸通貨に挑戦するいかなる動きも絶対に容赦しないという宣言だった。昨今のBRICSは新たな通貨の創設やドルに代わる通貨を模索していたが、これでかなり動きは抑制されるはずだ。

トランプ次期大統領のこの脅しとも見える発言の背景には、BRICSの影響力拡大にアメリカがいら立っていることにある。当初5カ国だったBRICSは、今やタイやインドネシアなど東南アジアの国々も加盟を希望する巨大勢力となった。

さらに、ロシアのプーチン大統領が今年9月、BRICS加盟国の貿易取引の65%が各国通貨でおこなわれていると公言したことで、アメリカの危機感は頂点に達した。

100%関税という直接的な制裁発言は、世界経済に計り知れない混乱をもたらす可能性がある。BRICSは世界のGDPの約4分の1を占める経済大国群である。これらの国々との貿易が事実上不可能になれば、グローバルサプライチェーンは寸断され、物価は急騰し、世界経済は深刻な不況に陥るだろう。

トランプ氏の予測不可能な政策は、すでに世界中の投資家や企業に緊張をもたらしている。株式市場は乱高下し、為替市場では主要通貨が大きく変動している。

トランプ次期大統領は、この100%関税という脅しを使って取引をおこなうというのが大方の見方だが、かりに事態が混迷してこの政策が実行されれば、1930年代の大恐慌以来最悪の経済危機が訪れる可能性があると経済専門家たちは警告している。

トランプ次期大統領は予測不能だ。何がどう転んでもいいように、事態を注意深く見守っていく必要がある。

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激化する通貨戦争の舞台裏に何があるのか?

ドル基軸通貨システムは第二次世界大戦後、ブレトンウッズ体制によって確立された。以来、ドルは世界経済の中心的役割を果たしてきた。しかし、BRICSの台頭とともに、この体制に亀裂が生じはじめている。

BRICSの脱ドル化の動きは、単なる経済政策の変更ではない。それは、アメリカ一極支配の世界秩序に対する挑戦であり、新たな国際金融秩序の構築を目指す壮大な試みでもある。

BRICSは、IMFや世界銀行といった既存の国際金融機関に対抗する新たな機関を設立し、独自の決済システムを構築しようとしている。

この動きの背景には、アメリカによる経済制裁への反発がある。特に、ロシアに対する金融制裁は、BRICSの結束を強める結果となった。ドルを武器として使うアメリカの姿勢に、多くの国が危機感を抱いているのだ。

BRICSが構想する新通貨は、もし実現するとしたら、各国の通貨バスケットを基礎とする可能性が高い。これは、ユーロの創設を彷彿とさせる野心的な計画だ。もしこの構想が実現すれば、世界の金融地図は大きく塗り替えられることになる。

一方、トランプ氏の強硬な対応は、ドル覇権を守るための激しい反発とも言える。

「ドル覇権が崩壊すれば、アメリカの国力は大きく低下し、世界の力学バランスは一変する」と述べる経済アナリストも多いが、私は逆にドル覇権に挑戦するBRICSが討ち死にしてしまう可能性を考えている。

その場合、強引で傲慢なアメリカに対して激しい反米感情が湧きあがっていき、世界は予測不能の状況になっていくのだろうが、そうだとしてもアメリカがそれに怯むとは思えない。

BRICSも一枚岩ではないので、アメリカとの対立が先鋭化したら、脱落や裏切りは100%発生する。

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同盟国も巻き込む米国の暴走

トランプ氏の100%関税政策は、BRICSだけでなく、アメリカの同盟国にも甚大な影響を及ぼす。多くの同盟国がBRICS諸国と密接な経済関係を築いているからだ。日本も中国やインドと重要な貿易パートナーシップを結んでいる。

この政策が実行されれば、同盟国は苦渋の選択を迫られることになる。アメリカとの同盟関係を維持するか、それともBRICSとの経済関係を優先するか。この選択は、世界を文字通り二分する可能性がある。

すでに、EU諸国の中には、アメリカの一方的な政策に反発の声が上がっている。

フランスのマクロン大統領は、「アメリカの過激な保護主義は、世界経済に壊滅的な打撃を与える」と警告している。ドイツのショルツ首相も、「国際協調なしに世界の問題は解決できない」と述べ、トランプ氏の姿勢を暗に批判している。

日本を含むアジアの同盟国も、難しい立場に置かれている。これらの国々は、安全保障面でアメリカに依存しつつ、経済面ではBRICS諸国、特に中国との関係を重視してきた。トランプ氏の政策は、この微妙なバランスを崩す。

経済専門家たちは、この政策がグローバル経済に及ぼす影響を懸念している。世界銀行の試算によれば、100%関税の導入は世界のGDPを最大5%押し下げる可能性があるという。これは、2008年の金融危機を上回る経済的打撃となる。

さらに、この政策は国際法上の問題も引き起こす可能性がある。WTO(世界貿易機関)の規則では、このような一方的な関税引き上げは違法とされている。アメリカがWTOの裁定を無視すれば、国際貿易システム全体が激震する。

トランプ氏の政策は、アメリカの国益を守るためとされているが、実際にはアメリカならびに世界経済全体を危機に陥れる可能性が高い。同盟国との関係悪化、国際秩序の崩壊、そして世界的な経済危機……。

何が襲ってくるのか、わからない。

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新世界秩序の幕開けか、それとも破滅への道か

トランプ氏の100%関税政策は、単なる経済政策の枠を超え、新たな世界秩序の幕開けとなる可能性を秘めている。「これがこじれると、世界経済を破滅へと導く道となる」という予測もなされている。

一方で、この政策がBRICSの結束をさらに強め、新たな国際秩序の誕生を加速させる可能性がある。

BRICSはすでに、新開発銀行(NDB)や緊急準備基金(CRA)といった独自の金融機関を設立している。これらの機関が発展し、IMFや世界銀行に代わる新たな国際金融システムが構築されれば、アメリカには脅威だろう。

ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授は、「多極化した世界は、より安定的で公平な国際秩序をもたらす可能性がある」と指摘しているのだが、それは少し楽観的かもしれない。

アメリカが、そんな多極化した世界など志向するはずもなく、そんなものを許容することもないからだ。アメリカは世界最強の軍事力と経済力で世界を支配しているのだが、それを強化することがあっても弱体化することはない。

経済的な混乱が起きようが、政治的な対立が激化しようが、最悪の場合、軍事衝突にまで発展しようが、アメリカは譲らないだろう。それは、昨今のアメリカの中国敵視や中国排除の動きを見てもわかるはずだ。

私自身はアメリカがBRICSの台頭で弱体化するよりも、BRICSがアメリカにあらゆる恫喝や策略をしかけられて瓦解していくように思える。

トランプ氏の政策が実行されるのか、それとも撤回されるのか。BRICSの新通貨構想は実現するのか、それとも挫折するのか。いずれにしても、2025年から世界は大きくかわっていくのは間違いない。

BRICSに対する「経済制裁」宣言は、その数多くある不安定要素のひとつにすぎない。

経済学者のナシム・タレブが言うところの「ブラックスワン」、つまり予測不可能で影響力の大きな出来事が、いつ起こってもおかしくない状況なのだ。世界は今、新たな秩序の誕生と破滅的な混沌のあいだで揺れ動いている。

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