アメリカは「世界の警察官」から「世界の暴力団」へ。今後、世界はどう動くか?

トランプ政権下のアメリカは「世界の警察官」から「世界の暴力団」への変貌といってもいい。国家の行動様式が変わった。いずれ、通貨、金融、同盟、企業活動に影響が波及していくだろう。今のアメリカでは水面下で「アメリカ離れ」が加速していくのは避けられない。不透明な時代に入るということだ。(鈴木傾城)

鈴木傾城

プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。経済分野を取りあげたブログ「フルインベスト」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。連絡先 : bllackz@gmail.com

「世界の警察官」から「世界の暴力団」へ

第二次世界大戦後、アメリカは「世界の警察官」として振る舞ってきた。軍事力を背景にしながらも、同盟、国際機関、ルールを通じて秩序を管理する役割をそれなりに担ってきた。

この立場は理想主義ではなく、覇権を安定的に維持するための現実的な戦略だった。力を使うが、力だけには依存しない。その姿勢が信頼を生み、結果としてドルとアメリカに世界が集まった。

ところが、この前提を明確に破壊したのが、ドナルド・トランプ政権である。

トランプは同盟を価値共同体として扱わなかった。NATO諸国に対して防衛費負担を理由に公然と圧力をかけ、日本や韓国にも在日米軍の駐留費増額を要求した。そこに理念はなく、取引条件の提示だけがあった。同盟は協力関係ではなく、請求書の対象へと変質した。

対外行動も一貫している。イラン革命防衛隊司令官の殺害もトランプ政権下だった。ベネズエラでは、現職大統領を正統な国家元首として認めず、事実上の政権転覆を試みた。これらは戦争でも外交でもなく、利己主義的な力の行使である。

さらに象徴的なのが、グリーンランド購入発言である。

主権、住民の意思、国際関係をすべて飛び越え、「欲しいから買う」と公言した。これは失言ではない。国家を不動産や企業のように扱う発想が、そのまま外交に持ち込まれた結果である。アメリカは秩序の管理者ではなく、力を背景に要求を突きつける主体として振る舞い始めた。

「世界の警察官」から「世界の暴力団」への変貌といってもいい。

重要なのは、これらが例外的な暴走ではない点だ。理念より即効性、長期安定より短期成果を優先する判断が、いっせいに表面化しているのだ。国家の行動様式が変わった。いずれ、通貨、金融、同盟、企業活動に影響が波及していくだろう。

どうなっていくのか?

邪悪な世界の落とし穴: 無防備に生きていると社会が仕掛けたワナに落ちる
邪悪な世界が私たちにワナを仕掛ける。それは1つ2つのワナではない。いくつものワナが同時並行に多重に連なりながら続く。

アメリカが何に変わりつつあるのか

トランプ政権下のアメリカは、好戦的になったとか、外交が粗雑になったという次元の話ではない。国家としての振る舞いが、「秩序を維持する主体」から「力で結果を回収する主体」へと移行した点に本質がある。

多くの国はこの転換を敏感に察知している。

従来のアメリカは、曲がりなりにもルールを破る国に対して制裁や包囲網をおこない、その正当性を国際社会に説明してきた。時間はかかるが、手続きが存在した。しかしトランプ政権下では、そんな手続きはない。

説明より結果、合意より実行だ。横暴で利己的だ。同盟国もアメリカが信頼できず、次に何をするかわからない不確実性だけが増幅している。

この不確実性は、軍事だけでなく経済にも及んでいる。関税を交渉カードとしていっせいに発動し、翌日には撤回する。制裁対象国の定義も、そのときどきの政治判断で気まぐれに変わる。

こうした振る舞いは、相手国だけでなく、アメリカと深くかかわる企業や金融機関にも直接的なリスクをもたらす。契約や条約が、安定装置として機能しなくなる。このトランプ政権はまだ3年は続くわけで、残りの3年でどれほどの秩序が破壊されるのかは未知数だ。

ちなみに、世界はまだ「いつものアメリカ」に戻る前提で状況を解釈しているが、次の大統領になったらアメリカが下に戻るとも限らない。ふたたび共和党が勝ち上がって、トランプ大統領の影響化にある人物が大統領になったら、アメリカはこの路線で突っ走る可能性もある。

アメリカは世界に対して敵対的になり、予測可能性を放棄した。強い国が存在することより、何をするかわからない「暴力的な大国」が存在することの方が、国際秩序にとってはるかに不安定なのは言うまでもない。

とすれば、世界はどう振る舞うか。もちろん「アメリカから距離を置き始める」のだ。

亡国トラップ-多文化共生-: 隠れ移民政策が引き起こす地獄の未来 (セルスプリング出版)
日本政府・経団連・官僚たちは今、隠れ移民政策を粛々と進め、「多文化共生」を日本人に押しつけている。その社会が生み出す地獄とは?

世界がアメリカから距離を取り始める

世界がアメリカから距離を取り始める理由は、感情や反発ではない。冷静なリスク計算の結果である。国家も企業も、「予測できない相手」との取引は必要最小限まで減らすのは合理的な判断となるからだ。

アメリカは軍事、外交、経済のすべてにおいて、事前の合意より事後の圧力を優先する主体へと変わった。この性質そのものが、最大のリスク要因になっている。

象徴的なのが金融制裁の多用である。

アメリカはドル決済網と国際金融インフラを事実上支配してきたが、その力を政治目的で頻繁に使用した。結果として、ドルを使うこと自体が世界の国々では政治リスクを伴う行為になってしまった。

外貨準備におけるドル比率は2000年時点で70%超だったが、IMFの最新統計では50%台まで低下している。これは反米ではなく、集中リスクを避ける動きである。

企業行動も同様だ。アメリカ市場は巨大だが、同時に政治判断で突然ルールが変わる市場でもある。関税の即時発動、制裁対象の急拡大、輸出規制の強化は、サプライチェーン全体を直撃する。

今後、多国籍企業は「決済」経路を分散させ、アメリカ依存とドル依存を下げる方向へ動いていくだろう。この流れは表に出にくいが、着実に進行している。

同盟国の政府も同じ判断を下している。軍事面では協力を維持しつつ、経済と金融では距離を取る。これは矛盾ではない。軍事同盟は即時に代替できないが、通貨と取引相手は時間をかければ移行できる。

アメリカが同盟を取引として扱った結果、同盟国もアメリカを「重要だが唯一ではない相手」と再定義した。この動きは公然と宣言されることはない。アメリカを刺激する必要はない。ただ静かに比率を下げ、依存度を調整していく。

ブラックアジア 外伝2: 売春地帯をさまよい歩いた日々 (セルスプリング出版)
タイで知り合った黒人のセックスワーカーたち。2017年のカンボジア。シンガポールのスリランカ女性。リアウ諸島の女たち……。

基軸通貨としてのドルは弱体化していく

世界はアメリカを敵として扱うわけではない。アメリカは現代資本主義の総本山でもある。アメリカを無視するというのは資本主義から離脱するということに他ならない。アメリカからの離脱はない。

ただし裏側ではより冷静で合理的な反応が起きる。それぞれの国はドルを売ってゴールドを買い、アメリカに依存しないようし、アメリカの横暴に巻き込まれないようにするはずだ。

つまり、アメリカを迂回する。そして、ドルを使わない決済を模索する。コストはかかるかもしれないが、そうしておいたほうが「アメリカ問題」を回避できるので結果的には国益を守れる。

今、日本ではドル以上に円が売られているのでよくわからないかもしれないが、世界ではじわじわとドル離れが進んでいるので「ドル安」となっている。ドルが売られているのだ。

かつては円は逃避通貨として認識されていたが今はもうそうなっていない。なぜなら、アメリカにリスクを感じてドル離れをする際、アメリカに近すぎる円を買ったら結局はアメリカ圏に属するわけだから意味がない。

世界は今の日本を「長らく経済成長もできず、国家債務が膨大で、人口動態も悪化している」と見ているので、円を長期に持つなど魅力もない。だから、ユーロやスイス・フランが買われているのだ。

あまり日本では認識されていないが、スイス・フランの暴騰ぶりはすさまいじいことになっている。

通貨は信用の道具でもある。威圧の道具ではない。今後、さらにトランプ政権の威圧が増えれば、ドルはもっと敬遠されていくだろう。

貿易と投資の構造も変わる。非米圏同士の取引が増え、地域ブロックが厚みを持つ。アメリカを排除するのではなく、アメリカ抜きでも成立する経路が整備される。そうなると、ますますドルは必要なくなっていく。

基軸通貨としてのドルは弱体化していくのがこれからの流れなのだろう。アメリカの将来に大きな禍根が残らなければいいのだが……。

ブラックアジア会員募集
社会の裏側の醜悪な世界へ。ブラックアジアの会員制に登録すると、これまでのすべての会員制の記事が読めるようになります。

コメント

  1. 匿名 より:

    投資をやっているので興味深い内容でした。
    S&P500や全米株の投信を少し利確しました。

タイトルとURLをコピーしました