ベトナムの地方では、いまだに人身売買が根強く存在している。ディエンビエン省は、ベトナム北部にあるラオスと中国の国境に近い地域で、人身取引の温床となっているのは、アンダーグラウンドの人間たちのあいだではよく知られている。
ディエンビエン省では2017年以降、この省だけで約300人以上の行方不明者が報告されており、その大半が女性・少女だった。そして、ディエンビエン省では75%の世帯が貧困層である。
彼女たちは、どこに消えてしまったのか。中国である。女性たちは「良い仕事があるから」と連れていかれるのが中国で、中国に入ったあとに行方がわからなくなってしまう。
2019年に奇跡的に助かった女性のひとりは、中国人男性に1万ドルで売り飛ばされていて、1年間も監禁された状態で暮らしていた。彼女のように、中国の農村部に売られて「村の所有物」となるベトナム女性は大勢いる。
これは昔の話ではない。今の話だ。
ベトナムは、表向きには経済成長と観光業の発展が進み、都市部は近代化が進んでいるように見えるかもしれない。しかし、地方では貧困や教育の欠如、そして不安定な社会構造があり、弱者が搾取される土壌が形成されている。
そして、人身売買をビジネスにした「業者」が貧困地区にうごめいている。彼らは特に若年層や女性を標的にすることが多い。
彼女たちは、田舎での厳しい生活から抜け出そうとし、都市部や外国での「仕事」を約束されて連れていかれる。しかし、実際には、性的搾取や強制労働の現場に送り込まれるケースが多発している。
私の小説『スワイパー1999』はカンボジアのスワイパーが舞台だが、登場人物のひとりであるマイには現実のモデルがいて、彼女もまたベトナムから売られてきた女の子だった。こうした人身売買は、今もなおベトナムで続いていたのだった。
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