売春地帯や風俗の世界に生きる女性たちといろんな話をしたりするのだが、その時にいつも彼女たちが感慨深く話すのが「もっとも年齢が高かった客」である。「今まで関わった客の中で、一番歳を取っていた男は何歳くらいだった？」と聞くと、まだ20代前半くらいの女性でも70代とか80代と答える。
ある30代の風俗嬢は、「80代の男性が客として毎週来てくれたので相手にしていた」と述べる。もう人生の最後だから、金を残すよりも手持ちの金を全部使い果たそうとしていたのかもしれないと彼女は言った。
なるほど、そうかもしれないと私も思った。
死んで金が残っても仕方がない。モノを買ってもあの世に持っていけない。それならば、人生で一番楽しいことに費やした方が自分もそれなりに満足だし、世の中のためにもなるというものだ。
80代もなってセックスワーカーと関わるなんて愚かだ馬鹿だと非難されたところで、どのみち先は長くないのである。人の顔色を窺って良い子でいるくらいなら、最後の最後に馬鹿をやって満足しながら死んだ方がずっとマシかもしれない。そういう心理が、無意識にもあるようにも見える。
東南アジアの売春地帯でも、老いた男たちがセックスワーカーと腕を組んで歩いているのを大勢見た。
まだ売春地帯に慣れてなかった頃、私は「若い女性が若い男性の方がお似合いなのに、どうして高齢の男性を選ぶのだろうか」と思ったことがあったが、この世界に慣れてきたら「若い女性は若い男性がお似合い」というのは私の思い込みであったことを知ることになった。
私は間違っていたのだ……。
