コロナ禍前の2019年、私は歌舞伎町にあるマンガ喫茶で家さえも借りられなくて、都会の裏側を転々としている若者たちと話をしていた。学歴もなければ長く続く職歴も持たない彼らは、もう安定した生活を送ることもできなくなっていた。
マンガ喫茶を根城にするデリヘル嬢にも会った。
そういった話は著書『ボトム・オブ・ジャパン』に書いたのだが、社会に見捨てられた女性たちが、ホームレス寸前のギリギリで暮らしているのを見て「これが先進国の女性の人生なのか」と私は暗澹たる気持ちになったものだった。
「バブルも崩壊して30年近く。いよいよ日本の最底辺は住処すらも借りられない貧困のどん底に入っていくんだな」と思ったものだった。
思い返せば、2000年を過ぎたあたりから日本にも労働者「使い捨て」のシステムである非正規雇用が社会に広がっていって、それが若年層を中心にどんどん広がっていった。そして、「住処がない若者の出現」を生み出したのだ。
非正規雇用は2002年から一貫して増え続けている。すでに働く人たちの4割近くは非正規雇用なのだ。彼らは仕事をしていても給料が低いので貯金ができない。貯金ができなければ、病気になったり、仕事をリストラされたりすると、とたんに窮地に落ちる。
食費に困り、公共料金の支払いに困り、そして家賃の支払いに困っていく。一番恐ろしいのは家賃を滞納して追い出されてしまうことだ。
家賃を滞納して追い出された人はどうするのか。かつては路上生活に落ちたのかもしれないが、現在はマンガ喫茶などの「宿泊施設ではないが宿泊できる場所」に留まって、ギリギリのところで生きている。
女性ですらも、もう住居喪失不安定就労者となって社会の底辺をさまよっている。