夜の零時過ぎ、シンガポールのオーチャード・タワー4階にあるディスコ「クレイジー・ホース」に行く。
すでに顔馴染みになった女たちが入口であきれたような顔で笑いかけてきた。二日も三日もこんなところに通う客も珍しいに違いない。どうかしてる、と彼女たちの顔には書いてあった。
彼女たちはビジネスで建物の内外に立っているが、男は連日連夜遊び回っていることになる。たしかに「どうかしてる」と思われてもしかたがない。
しかし、やはり知らない顔よりも知った顔の方が彼女たちには気が楽なようで、三日目にもなると顔馴染みと世間話が弾む。
タワーの入口でじっとこちらを見つめるのは、スリランカから来たかなり太めの女性だった。
ゆったりと着こなしたサリーが美しい。彼女になぜか気に入られていて、いつも通りかかると引きとめられては早口の英語(らしきもの)で話しかけられた。
彼女の英語は半分も意味がつかめない。早口のせいだけではなく、知らない単語が山のように混じっていたからだ。英語の単語ではないような気がした。
もし、それがシンハラ語だとすると、分かるわけがない。
しかし、こちらが分かろうが分かるまいが、彼女は楽しそうに、いろんなことを話かけてくる。いつしか、そのイントネーションに……
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