逮捕された元ホスト松村限輝が犯罪現場に残したポジティブ・シンキングのメモ

逮捕された元ホスト松村限輝が犯罪現場に残したポジティブ・シンキングのメモ

1990年代のバブル崩壊以後、日本では「ポジティブ・シンキングになれば成功する」みたいな本が大ブームになって、繰り返しそれが煽り立てられた。ところが、日本の現状は混迷するばかりで、貧困も格差もかつてない広がりを見せるようになった。それがブームになればなるほど、世の中は荒んでいった。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

犯罪の現場に残された松村限輝のポジティブ・シンキング

松村限輝《まつむら・げんき》という21歳の男が逮捕されている。特殊詐欺の受け子役をしていて、80代の女性から現金をだまし取ろうとして近所の元警察官の男性に「詐欺だろう」と声をかけられ、揉み合いになって男性にケガを追わせた。

食えなくなった元ホストが、金に困って詐欺の受け子役をする。よくある話だ。しかし、この事件はちょっとした話題になった。

この男が犯行現場に残したリュックに手紙のメモが入っていて、それが絵に描いたような積極思考《ポジティブ・シンキング》のトレーニング・メモだったからだ。

多くの成功哲学は、ほとんどがポジティブ・シンキングになることを勧めている。自分が実現したいこと、望んでいること、やりたいことを、紙に書き出して、それを何度も眺めていると実現するというものだ。

要するに、夢を実現するために自己洗脳をかけようとするのがポジティブ・シンキングの実態である。

このやり方は過信と錯覚を引き起こすだけのものであり、ただの娯楽に過ぎない。それは、ポジティブ・シンキングを持っても夢を実現できなかった夥しい人たちが証明するところだ。

よく、アクション映画を見た男は、映画館から出てきたらヒーローになり切った気分で街を歩くと言われているが、ポジティブ・シンキングはそういう他愛のないものを何か科学的な感じで言っているだけなのである。

21歳の松村限輝という男も、ポジティブ・シンキングみたいな薄っぺらいものに毒されて、もがいていたのだろう。

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食えなくなった元ホストが、詐欺の受け子役で逮捕された

・全てうまくいく
・お金持になる
・良い環境になる
・きれいな家に住む
・一生捕まらない
・有名ホストになる
・めんどくさい事も全てなくなる
・であう人全て良い人
・東京に出るともっと有名お金持ちになる
・仲間が増える
・ぶりもてる
・TVに出れる
・くそデカイ男になる(中身)
・めぐまれる
・ぶりイケメンになる
・そんけいされる人間になる
・あきらめんな
・マイナス思考をなくせ、全てプラス思考
・全て自分次第
・服屋たてる
・2ヶ月45万ためる、たまる
・人生週間少年ジャンプ
・やりたい事やるだけ

ポジティブ・シンキングな失敗者はどこにでもいる

ポジティブ・シンキングで成功は保障されているわけではない。圧倒的な悲観者よりも成功しやすいかもしれないが、成功の大部分は能力や努力や運の問題であり、どれかが欠けたらポジティブ・シンキングを持っていても仕方がない。

「夢は絶対に実現する」と言って、何ともならない人生に落ちてしまった人を私たちは長い人生でいくらでも目にしている。

私はここ半年の間、何人かのパチンコ依存者に会ってきたが、ギャンブルで人生のどん底《ボトム》に落ちてしまったにも関わらず、「最後に一発当てたらいいんだ」と実にポジティブな思考を持っている人にも会った。

ポジティブ・シンキングであり過ぎて自分の能力を過信して努力を怠り、結局は失敗してしまう人も大勢いる。また、「自分はすごいのだ、やればできるのだ」と根拠のないポジティブ・シンキングにとらわれて、現実に叩きのめされる人もいる。

ポジティブ・シンキングな人はその楽観性ゆえに、強引な事業拡張、強気の借金、無謀な勝負、いちかばちかの投資、根拠のない勝利の確信にとらわれて地獄に落ちるケースが多い。

ポジティブ・シンキングゆえの無計画で、次々と失敗と借金を膨らませて行く人も珍しくない。年収を度外視した住宅ローンを組んで、結局は首が絞まって自己破産に追いやられる人たちの姿もある。

何十年も買っても当たらない宝くじを買い続けるのも、「次は当たるかもしれない」という意味のないポジティブ・シンキングで頭がいっぱいになって現実を見る目が曇っているからだ。

見渡せば、ポジティブ・シンキングな失敗者はどこにでもいる。世の中は自滅していったポジティブ・シンキングの、死屍累々たる荒野が広がっていると言っても過言ではない。

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悲観論者《ペシミスト》が成功しているケースも数多くある

もちろん、ポジティブ・シンキングであることで成功する人も多い。そうした人たちがポジティブ・シンキングの素晴らしさを大いに語る。「自分の成功はポジティブ・シンキングであったからだ」と喧伝し、人々にそれを勧める。

だから、ポジティブ・シンキングが人生を破滅させるケースの方は、多くの人たちは無意識に無視してしまう。「ポジティブ・シンキングが足りなかったのではないか」と思い込む人もいる。

現実をきちんと検証すれば、ポジティブ・シンキングな人だけが成功しているわけではなく、時には真逆の悲観論者《ペシミスト》が成功しているケースも数多くあることに気付くはずだ。しかし、そうしたケースも無視されることが多い。

現に、日本人はそれほどポジティブ・シンキングをする民族ではないが、それでも世界有数の経済大国である。ユダヤ人も歴史的に辛酸を嘗めてきたせいで、日本人以上に悲観主義者《ペシミスト》が多くいる民族だ。それでも数多くの天才と経済的成功者を輩出している。

一方でギリシャ人はポジティブ・シンキングな民族性を持っているが、国は事実上の国家破綻にある。南米の人たちも享楽的でポジティブ・シンキングな人が多いのだが、国は常に動揺しており、治安も悪く、経済的にも成功しているとはお世辞にも言えない。

現実を見れば、楽観的な人間も悲観的な人間も、共に社会に翻弄され、現実に翻弄されている。楽観的な人が死に、悲観的な人が生き残ることも多い。

雨は楽観主義者の上にも悲観主義者の上にも降り注ぐ。天災も不幸も楽観主義者だからと言って逃れられるわけではない。戦争になったら爆弾は誰にでも平等に降り注ぐ。交通事故も、人を選ばない。

ポジティブ・シンキングを持っている人も病気になる。病気を克服することができなかった人もいる。諸行無常という言葉がある通り、自分の性格や思考や行動ではどうにもならないのが人生である。

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浮ついたポジティブ・シンキングでは心もとない

当たり前のことだが、成功というのは運の良し悪しを除けば、淡々と能力を磨き、努力し、継続し、反復し、考え抜き、行動し、検証し、改善していく中で生まれてくるものだ。

ポジティブ・シンキングになって何かを空想して成功できるのではなく、絶え間ない努力や向上心によって成功する確率が高まる。つまり重要なのは、どんな時であっても努力して現実を見て可能性をつかむことなのである。

きちんとした努力をした末の楽観であればいいのだが、浮ついたポジティブ・シンキングでは心もとない。

1990年代のバブル崩壊以後、日本では「ポジティブ・シンキングになれば成功する」みたいな本が大ブームになって、繰り返しそれが煽り立てられた。

ところが、日本の現状は混迷するばかりで、貧困も格差もかつてない広がりを見せるようになった。「ポジティブ・シンキングで成功する」みたいなのがブームになればなるほど、世の中は荒んでいった。

ポジティブ・シンキングは成功も幸福も保障しない。私たちを現実から遊離させるものには強い警戒を持った方がいい。ポジティブ・シンキングであれば成功するというのは真実ではないからだ。

別にポジティブ・シンキングを全面否定する必要はないが、それで成功すると思い込むのは否定しなければならない。

ポジティブ・シンキングになるように努力するくらいなら、何らかの能力《スキル》を磨く方に努力をする方がずっと合理的で正しい。ポジティブ・シンキングになるよりも、現実的になるべきなのだ。

ポジティブ・シンキングで成功しようともがいていた松村限輝は、そんなものは何の意味もないということに獄中で気付くだろうか?

『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』

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