ホームレス殺害。弱者になればなるほど社会は優しくなるどころか凶悪になる

ホームレス殺害。弱者になればなるほど社会は優しくなるどころか凶悪になる

敗者は転落すればするほど誰からも相手にされなくなる。最後には排除されるところにまで追い込まれる。いったん、そこまで落ちていったら手を差し伸べる人はほとんどいなくなる。それよりも排除する人の方が増えていく。ホームレスの襲撃や殺害はそうやって起きている。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

弱者になればなるほど社会は優しくなるどころか凶悪になる

岐阜市で2020年3月にホームレスだった男性が集団で襲われて死亡するという事件があった。この事件については拙著『ボトム・オブ・ジャパン』でも取り上げている。橋の下で静かに暮らしていたホームレスを、少年たちが寄ってたかって石を投げて追い詰めて最後には殺した。

「面白半分で投石し、スリルを楽しむことを繰り返していた」

この事件を担当した裁判長は、このように事件を総括している。ホームレスの投石に関わった少年たちは8人だった。その中で主犯格の2人が、2021年3月25日に懲役5年と懲役4年の刑をそれぞれ言い渡されている。

『ボトム・オブ・ジャパン』では、こうしたホームレス襲撃事件がこの事件だけではなく、今まで連綿と起きている事件であることを描写した。ホームレスに石を投げつけたり、袋叩きにしたり、火を付けたりする事件は常に起きている。

日本だけではない。世界中で起こっている現象だ。アメリカでもEU各国でもホームレスの襲撃は珍しい話ではない。

これは誰も言わないことなのだが、実のところ「弱者になればなるほど社会は優しくなるどころか凶悪になる」という現象が引き起こされる。

弱者になっても、「共同体の中の人間である」と認識されている間は守られる。しかし、共同体からも逸脱してしまうほど下に落ちてしまった人には、一転して容赦ない排除が逆に起きる。

「弱い者いじめ」は共同体からの排除という側面もある。ホームレスに対して石を投げつける行為は、ホームレスという「目ざわりな弱者」を追い払う排除の感情である。「見えないところに消えろ」「どこかに行って二度と現れるな」「この世から消えろ」という感情が根底にある。

人々は「社会から逸脱してしまうほどの弱者」を許容できないのである。

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「どこかに行ってほしかった、いなくなってほしかった」

ホームレスは路上で生活し、着替えも持てず、満足に身体を清めることもできないので衛生観念はどんどん悪化してしまう。異臭が漂うようになることもある。その衛生観念の悪化が許容範囲を超えると、人々はホームレスに対して同情心よりも嫌悪を持つようになる。

汚いもの、汚い人にはそばに居て欲しくない。

人々は生ゴミを捨てたら自分の目の届かないところに消えてもらいたいと思うように、あまりにも衛生観念が悪化してしまったホームレスに対しても消えてもらいたいと思うのだ。

自分の庭先にホームレスが住み着いて欲しいと思う人はひとりもいない。あるいは自分の家の近くの公園にホームレスが住み着いて欲しいと思う人もいない。同情心はあっても自分の近くにはいて欲しいとは思わない。

それではどうするのか。ホームレスに声をかけ、食事や金を与え、ホームレスのために何かしてあげようと行動を起こす人はいるだろうか。一部のボランティアはそうした救済活動を行うのだが、多くの人は何も行動を起こさない。

強いていえば、警察や区役所に電話してどこかに連れて行ってもらう人もいる。しかし、中にはより暴力的な行動でホームレスを排除する人も中にはいる。

幡ヶ谷のバス停で寝泊まりする女性が、石などが入ったポリ袋で頭を殴られて死亡する事件が2020年11月16日に起きていたが、犯人の男性は「目ざわりだった」「バス停に居座る路上生活者にどいてもらいたかった」と言った。

「どこかに行ってほしかった、いなくなってほしかった」という理由で殴り殺される。これがホームレスの置かれている立場でもあったのだ。

彼女は首都圏のスーパーで試食販売を担当していたのだが、家賃滞納で退去を余儀なくされて、路上生活者になってしまっていた。彼女もまた何らかの理由で生活保護を受けなかった。

路上生活者になっても、生活保護を受けない人もいるのはこちらでも書いた。(ブラックアジア:「生活保護を受けた方がいい」と言っても、頑なにそれを嫌がる人がいる理由

地獄のようなインド売春地帯を描写した小説『コルカタ売春地帯』はこちらから

いじめても、こき使っても、袋叩きにしても黙認される存在

動物の世界でも、集団の中で「いじめられる存在」が作られ、弱者は仲間に攻撃されてより弱者になっていく。これは熱帯魚ディスカスの世界でも、シマウマやサルの世界でも起きていることだ。

野生の世界で、なぜ弱者が意図的に作られるのかはこちらにも書いた。(ブラックアジア:人間社会が常に「弱者」を作り出すのは、私たちがそれを求めているから?

野生動物であっても、そこに集団生活があるのなら弱者が必要とされ作り出される。

草食動物の中では最も弱い個体を集団でいじめてさらに弱い存在にしておくのは自己の生存を高める行為となる。肉食動物が襲いかかってきたとき、草食動物のグループは最も足が遅く弱っている個体を肉食動物に襲わせて自分が助かる確率を高める。

肉食動物も強い個体よりも弱い個体を選んで、さっさと狩りという仕事を終わらせたいと思う。だから、必ず弱い個体を狩りの対象に選ぶ。

これを草食動物の側から考えると、自分以外に弱い個体がいればそちらが襲われる可能性が高いということなのである。

人間社会でも、いじめが蔓延する集団の中では、それが学校であれ、会社であれ、軍隊であれ、最も弱い人間がいじめの対象として固定化される。集団は誰かを「いじめられっ子」として決める。

誰かを「いじめられっ子」にしておけば、自分がいじめられっ子にされる確率が減る。つまり、その共同体の中でいじめられずに済む。そして、自分も一緒に最も弱い個体をみんなで攻撃することで、共同体の中での仲間意識を高めることができる。

いじめられっ子を作って集団でいじめることによって、自分がいじめられる確率を減らしつつ共同体の中で仲間意識を深めることができる。集団生活を営んで共同体を持つ動物は、必ずそうした「存在」を作り出す。

時には社会的な構造として弱者が作り出されることもある。身分制度には必ず「最底辺」の身分が用意されるのはよく知られている。かつては「奴隷制度」があったし、インドには「カースト制度」があった。

いじめても、こき使っても、袋叩きにしても黙認される存在を社会はシステムとして用意していたのである。

インドの貧困層の女性たちを扱った『絶対貧困の光景 夢見ることを許されない女たち』の復刻版はこちらから

敗者は転落すればするほど誰からも相手にされなくなる

社会は必ず敗者を作り出す。そして、敗者は転落すればするほど誰からも相手にされなくなる。最後には排除されるところにまで追い込まれる。

いったん、そこまで落ちていったら手を差し伸べる人はほとんどいなくなる。それよりも排除する人の方が増えていく。

人々は成功した人物が好きだが失敗した人は嫌いなのだ。人々は成功した人やセレブや富裕層はどんなに人格が壊れていても大好きだが、どんなに人格が優れていても貧困層や社会の敗者は大嫌いなのだ。

これはスラムや貧困層にずっと潜んで、そうした女性たちとしか付き合って来なかった私が一番よく知っている。どこの国でも貧困層の扱いはひどく、貧困女性を見る目は時には「憎しみ」すらもこもっていた。

スリランカでも下層の女性と一緒にレストランに入ったとき、私と彼女が座った席のまわりから人々がすっと立って消えてしまい、遠巻きにさげすむような目でじろじろと見つめられたこともある。

弱者に対する敵意の視線は本当に恐ろしい。「来るな、近寄るな、消えろ」と、視線でも攻撃してくるのである。

そう言えば、私が海外の貧困地区に出入りしているのを知ったある著名なコンサルタントが言った忠告の言葉も冷たい響きがあったのを覚えている。

「貧乏人と付き合わない方がいいですよ。類は友を呼ぶと言いますけど、貧乏人と一緒にいたら貧乏人の思考様式がうつりますからね。成功者になりたかったら、成功者と一緒にいた方がいいんです」

とは言え、この成功したコンサルタントの考え方には多くの人が賛同するはずだ。成功者には成功者の思考回路があり、失敗者には失敗者の思考回路がある。成功したければ、成功者の思考回路に影響された方が成功する確率が高い。

だから、成功したい人が成功した人と付き合うというのは間違っていない。多くの人は同じように思う。朱に交われば赤くなるのだ。同じ「染まる」なら成功哲学に染まった方がいい。

しかし、この考え方の先にも「弱者の排除」があるということにも気付くべきだ。弱者になればなるほど社会は優しくなるどころか凶悪になる。これからも、ホームレスの襲撃事件や殺害事件は必ず起こるだろう。

ボトム・オブ・ジャパン
『ボトム・オブ・ジャパン 日本のどん底(鈴木 傾城)』

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