「世の中は年々良くなっている」という嘘。奇妙な楽観主義には気をつけろ

「世の中は年々良くなっている」という嘘。奇妙な楽観主義には気をつけろ

「世の中は年々良くなる」という主張は正常ではない。現実は「良くなっていく局面もあれば、悪くなっていく局面もある。場合によっては飛びきり悪くなってしまうこともある」というものである。世間知らずの教授なんかが、こういう考え方を好んで「世の中は年々良くなる」という主張をしたがるのだが間違っている。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019メディア『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

単なる目くらましの現実逃避な主張

世の中には何でもかんでも楽観的な見方をする人間も一部にいる。たとえば、テロは全死亡原因の0.05%でしかないので気にする必要がないとか言う人もいる。「だから、テロが起きているとしても気にする必要がない」という見方だ。

しかし、テロというのは「全死亡原因」で見るべき社会現象ではない。テロが起きるのは「テロ」という社会現象の裏側に大きな憎悪や社会的対立が世の中に蔓延しているという事実に問題があるのだ。

テロが発生する原因の裏側には、根深い宗教対立がある。あるいは根深い民族憎悪がある。あるいは貧困と格差による社会不信がある。

こうした人間社会が解決できないどす黒い問題が渦巻いているのだから、「テロは全死亡原因の0.05%でしかないので気にする必要がない」というのは単なる目くらましの現実逃避だ。まったく話にならない。

あるいは、「貧困に苦しむ人は年々減っていてほとんどの人は中間所得層に成長した」ので気にする必要がないという人もいる。これも非常に一面的なモノの見方だ。

「貧困に苦しむ人は年々減っている」というのは「たまたま全世界に大きな問題がなかった」ことを示しているに過ぎない。世の中はだいたい10年ごとに全世界を巻き込む大きな社会不安が生み出される。

たとえば、現在は中国発コロナウイルスが全世界の金融経済を壊滅的なまでに破壊してしまっている。それでは貧困層は増えるのだろうか。それとも減るのだろうか。言うまでもなく貧困層は増える。

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貧困も飢餓も世の中が暗転したら一瞬で増えていく

「ほとんどの人は中間所得層に成長した」というのは「たまたま最近は全世界を巻き込む大きな問題がなかった」と言っているに過ぎない。時代が変われば瞬時に莫大な貧困層が生まれる。そんな当たり前のことになぜ気づかないのか。

「飢餓で死ぬ人もほとんどいない」というのも、社会が急激に暗転したら一瞬で過去の話になるだろう。

中国発コロナウイルスのワクチンが仮に開発が遅れてしまって経済の悪化が長引いたり、あるいはワクチンの投入に政治的な問題があって貧困層や貧困国が後回しされるような状態になったらどうか。

アフターコロナ(コロナ後)は、飢餓で死ぬ人が全世界で大発生しても不思議ではないと思わないだろうか。

私たちは今、中国発コロナウイルスの対応に目を奪われている。しかし、今起きている災厄はそれだけではない。

たとえば、アフリカから始まった蝗害(こうがい)は中東からインド圏の農作物を食い荒らして東に向かっている事実もある。(ブラックアジア:アフリカを揺るがす蝗害(こうがい)。放置すれば深刻度は500倍の規模になる

すでにアフリカからパキスタンまでの農作物は大きな被害を受けた。今後、仮に中国に蝗害が入ったら全世界の農作物は壊滅的ダメージを受ける。ここ数十年のデータを見て「飢餓で死ぬ人がほとんどいなくなった」からと言って、これからもそうだというのはあまりにも楽観的すぎるモノの見方だ。

時代が悪化したら、いつでも貧困層も飢餓もぶり返す。「世の中は年々良くなっている」どころか、むしろ2020年代は凄まじいまでに悪化する可能性もある。

1999年のカンボジアの売春地帯では何があったのか。実話を元に組み立てた小説、電子書籍『スワイパー1999』はこちらから

「世の中は年々良くなっている」は大きな間違い

「貧しい国でも女性の60%が教育を受けられている」ので、「世の中は年々良くなっている」と言う人もいる。これも「たまたま」途上国の水準がグローバル経済の中で引き上げられてきた時代だから言える話である。

今までのグローバル経済の行き過ぎによって先進国では「反グローバリズム」を強烈に叫ぶ政党が火の海のように広がっていき、アメリカですらも2016年にドナルド・トランプという異質の大統領を生み出してグローバル経済はブレーキがかかった。

さらに現在、グローバル経済は中国発コロナウイルスでズタズタに寸断されていて、「途上国に安く作らせて先進国で売る」というスタイルが取れなくなりつつある。つまり、グローバル経済が停滞すると途上国の経済発展も火が消える。

そうすると、経済発展の中で引き上げられてきた女性の教育もたちどころに後退していくことになる。たとえば、途上国が暴力地帯になったら女性の教育は吹き飛ぶし、途上国に宗教原理主義が広がったらやはり女性の教育は吹き飛ぶ。

アフガニスタンやパキスタンでは常にイスラム原理主義がぶり返すのだが、経済が停滞すれば原理主義が復活するのは目に見えている。当たり前だが、経済は良いときもあれば悪い時もある。

良い時の現象ばかりを見て、「世の中は年々良くなっている」と思い込むのは単なるバイアスに過ぎず、それは人間の歴史をまったく見ていない短絡的な見方でしかない。

「世の中は年々良くなる」という主張は正常ではない。現実は「良くなっていく局面もあれば、悪くなっていく局面もある。場合によっては飛びきり悪くなってしまうこともある」というものである。

世間知らずの教授なんかが、こういう考え方を好んで「世の中は年々良くなる」という主張をしたがるのだが間違っている。

地獄のようなインド売春地帯を描写した小説『コルカタ売春地帯』はこちらから

奇妙な楽観主義が蔓延するのを私は憂慮している

世の中は別に「世の中は年々良くなっている」わけではない。確かに時代によっては、そういう局面もある。

しかし同時に、「世の中は一瞬で悪くなる」局面もあって、その悪化が底なしであれば超弩級の恐慌や、場合によっては第三次世界大戦みたいな破壊すらも起きることもあると私は言いたい。

何が起きるのか分からないのが世の中であり、自分の思い通りにならないのが世の中であり、必ずしもすべてが良くなるわけではないのが世の中なのである。

「世の中が悪くなるという見方はドラマチックなものであり現実的ではない」という人もいる。これもバイアスがかかっている。たとえば、今起きている中国発コロナウイルスによる現代文明の破壊は凄まじくドラマチックな出来事である。

中国発コロナウイルスで起きているドラマチックな破壊は空想の産物なのだろうか。いや、空想どころか「これこそがリアルな現実」である。私たちはドラマチックな悪夢の中に放り込まれているのだが、これは生々しい現実なのだ。

この圧倒的な破壊を前にして「世の中は年々良くなっている」とか聞いたら、どこの馬鹿がほざいているのかと激怒する人すらも出てくるだろう。

「世の中は年々良くなっている」みたいな下らないたわごとを学者が主張するのを聞いたら、私たちは用心しなければならない。現実を見ない学者のくだらない空想に付き合っていたら地獄に堕ちる。

私たちは今、「世の中は年々良くなっている」という子供の空想みたいなものから離れて、「急激に悪化していく中でいかに生きるのか」が重要な時代になっている。恐怖と不安が世界を覆い尽くしている。そんな現実を見つめて、その中でいかにサバイバルするか。それが求められている。

こんな時代に、奇妙な楽観主義が蔓延するのを私は憂慮している。

『邪悪な世界の落とし穴(鈴木 傾城)』。私たちは今、「世の中は年々良くなっている」という子供の空想みたいなものから離れて、「急激に悪化していく中でいかに生きるのか」が重要な時代になっている。

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